二十三話 もう一度、あの場所目指して
ドアをゆっくりと閉める。
どうやらここは非常口階段だったようだ。
階段に沿って頭を上に向けると屋上まで続いていそうだ。
しかし、いくら何でも屋上を目指すのにこの階段を上っていくのはいささか無理がある。
仮に階段を使って上まで行ったとしよう。
ぶっちゃけヘトヘトになって何も出来ないだろう。
ちなみに階段とは別に目先に扉がある。
立花がこの階段を上っていったとは考えにくい。
なぜなら既に姿が見当たらないからである。
ならこの扉の先に行ったと考えるのが妥当であった。
選択肢はたくさんある。
一つ目はのこの階段を上っていくこと。
二つ目はこの扉を開け先に進む。
どちらにしてもこの格好は目立ちすぎる。
なぜ制服ままなのか。
まぁあの時、制服を着ていたからそのままを反映されてしまったからだろう。
少し、ほんの少しだけ扉を開けてみる。
しかし捻ったドアノブで、扉は開かなかった。
「なんでこっちが鍵かかってんのよ!!」
「社長。こんなところに」
「あぁーすまないすまない。ちょっとメインサーバーの調子が気になってな」
「そんなものは立花にでもやらせておけよ」
「まぁそう毛嫌いするな。もともとはお前が連れて来た友達じゃないか」
「違う。利用しただけだ」
「彼は、うちの会社に正規で向かい入れようと思う」
「なんだいきなり」
「彼はとてもすばらしい人材だ。この会社が維持できるのもある意味彼のおかげだ」
「ただのパソコンオタクだろ。それにアマチュアのはず」
「それでも構わない。現に彼は私に一から業務用のパソコンを作ってくれた。他の社員にも色々と手助けをしてくれている。これを業者の頼むとどうだ? いくらの金をつぎ込んでも足りない」
途中経過はいらない。結果だ。
と社長は言う。
「お前の好きな言葉だろ?」
「ふん。どうでもいいさ」
「それで、どうしてここに来た?」
「ようやく終わったのさ」
「何がだ?」
「俺の仕事が」
「どういうことだ?」
「ま、これを見ろ」
手に持っていた書類の束を渡す。
束とは行っても契約書数枚だが。
「これは……」
「後はあんたがサインをしてバイク便でも使って速達しろ。これでこの会社は更に大きくなる」
「……とりあえず、私の部屋に行くぞ」
「して、これはどうやって?」
9階に属するサーバールームを後にし、エレベーターに乗り込む。
そのまま一直線に18階を目指す。
途中エレベーターは止まることなく18階に辿り着く。
俺たちがエレベーターを降りると同時にエレベーターは下を目指して降下していった。
そして今、俺たちは社長室にいる。
「簡単さ。普通に契約を結んだだけ」
「バカな。どんなに私たちが力を入れても首を縦に振ってくれなかった会社ばかりだぞ?」
「だからさ。俺は、その会社に首を振らせたと言うことさ」
「……」
「用件はそれだけさ」
「お前は、知っていたのか?」
「何がだ」
「この会社達は、かつて剛が契約を結んでいた会社達だ。ところが剛が亡くなってから一変して解約を破棄された。担当者が〝いなくなった〟のなら、とね」
「知っていたさ。だから俺はこの会社に居る。親父のやっていた事を受け継いだだけ」
「どうしてそこまで剛にこだわる? お前は、朝美なんだぞ」
「白々しい。俺は既に死んでいるも当然。俺は親父によって生かされ、親父によって死んでいくだけ。親父が亡くなったあの日、俺も死んでいるんだ。しかし俺は体だけ生かされた。それを意味するのは、残された親父の仕事を完遂させるためだ」
「朝美……。知らない訳ではなかった。お前がこの会社で仕事をし始めて気付いたこと、それは剛そのものだった。口調や態度、ましてやそれに至るまでの身形や服装。そして装飾品まで全てを真似ていた。歳は誤魔化せない。だが、お前は剛本人だった。〝何も無くなった〟剛だったんだ。私は、止めようと思った。このままでは朝美が朝美で無くなる前に、思っていたのに……」
「しかし、とっくのとうに手遅れだった。そうだろ」
「あぁ……」
「何にせよ、これは結果でしかない。途中経過はいらない」
朝山誠一郎はこの時、目の前にいる人物を常盤朝美として見られなくなっていた。
いや、気付かないフリをしていた。
日々成長していく朝美の姿は歳相応とはかけ離れ、剛本人だった。
自らが父親になると誓ったのに、結局何も出来ないでいたのだ。
「朝美、これからどうするんだ?」
「さぁ、どうするかね」
「もしも、剛が生きていたら……朝美、お前は……」
「あぁ~~。なんでどこも鍵かかってんのよ……」
結局私は非常口からこの建物に進入はしたが、肝心の内部に侵入することはできなかった。
一階から階段を上っていき、現れる扉を一つひとつ開けていくが、どこも鍵がかかっていた。
「非常口なのに鍵がかかっているとは何事かーっ!!」
と叫んでしまったのはナイショだ。
冬であるこの季節は寒い。
ましてや非常口階段であるため暖房なんか効いているわけが無い。
制服姿であるこの私は身体はさぞ寒いだろうと思いがちだがその逆だった。
初めこそ勢い欲く上っていたこの階段も息が上がる頃には額に汗が浮かんでいた。
長い髪が鬱陶しかった。
階段を一段上る毎に揺れるロングヘアー。
揺れる胸……。
「無くて悪かったわね!!」
誰に向かってか自分の体の事で文句を言った。
ブツブツと文句を言いながらも、結構な段数を上がってきた。
今何階にいるのか?
と思い、上ってきた階段を見下ろすと、やはりかなりの高さだった。
階段の折り返し地点には毎回の事ながら階数が白いペンキでキレイに描かれている。
8-9と出ている。
ちなみに8階の扉は鍵がかかっていた。
次は9階の扉だ。
まぁ開いていないだろうと思いながら9階の非常口に辿り着く。
そして恒例の儀式となったドアノブ捻り。
もう慎重に、とかどうでもよくなっていた。
勢いに任せ、ドアノブを一気に捻り、そして扉に体当たりをした。
ドンッ!!
と大きな立てて扉が開いた。
「ふえっ!?」
もちろん想定外。
予想外。
予想GAYデス。(某CM風)
そんな事を頭で浮かべながらも体は倒れていく。
重力には敵わない上に運動神経はゼロに等しい。
とっさの判断に身動きがとれず、私はぶっ倒れた。
「痛いぃ……」
どこぞのコントか。
こんなの昭和の漫才師がやることだ。
フラフラと立ち上がりながら周囲を見渡す。
もしここに人気があったらマズイことになっていただろう。
だが幸いにも人気は全く無く、そして無音だった。
いや無音ではない。
何か、機械音の様な音が聞こえる。
「ここは何よ……?」
もちろんこの建物に詳しくない私はハテナマークを浮かべるしかなかった。
とりあえず扉を閉める。
「あれ? この扉は押す式?」
今までの扉の開け方を思い出す。
全部引いていたような……。
押してダメなら引いてみろ、もとい、引いてダメなら押してみろ。
「むっかつく!!」
またどうしようもない怒りがこみ上げていたのだった。
まぁ結果論として人気のない階に出てこれただけ良しとしよう。
「後はエレベーターね」
向かうは18階。
そこに彼が居る気がした。
この世界の私の父は居ないと言っていた。
なら、私の父が居た場所に彼がいる。
何となくだがそう思っていた。
そうでもなければ、彼がここに居ることは出来ない。
エレベーターを見つける。
二つのエレベーターがある。
そのうちの一つは上を目指していた。
そしてすぐに止まる。
18階で止まったようだ。
そしてもう一つは点検中と張り紙が張られていた。
「なんでよ……」
↑ボタンを押してエレベーターを呼び寄せる。
グングンと階を下がってくるエレベーター。
恐怖心が強い。
扉が開いたとき、誰かがいたらどうしようと思った。
9階に到着し、扉が開く。
誰も乗っていなかった。
「ふぅ……」
安堵のため息。
そしてエレベーターに乗り18階のボタンを押す。
お願いだから誰も乗らないで。
そう思うしかなかった。
扉が閉まる途中、目にした壁に看板があった。
<この階、メインサーバールームのみ>
無視した。
どうでもよかった。
パソコンとか、よくわかりません。
キーボード、打てません。
以前、学園でのパソコンを使った授業があった。
その授業で〝だぶるくりっく〟となる言う単語が教師から言われた。
そして〝だぶるくりっく〟を習得するのにまる一時間の時間を費やしたのはナイショである。
18階に到着する。
私の世界では、この階は社長室と副社長室しかない。
そして副社長室にはお父さんが居た。
コソコソと副社長室に向かう。
彼に会えればいい。
それでよかった。
特別、どうすればいいか考えてはいなかったがそれでよかった。
彼の自殺を止めればいい。
だけど、彼は私を覚えているのだろうか。
出会ってしばらくしたら警察を呼ばれるかも知れない。
けど、後戻りは出来なかった。
どちらにせよ、この世界は私の知っている場所ではない。
もっと、次元を超越したSFの世界みたいなものなんだから。
副社長室の前に着き、扉を開けようとした。
だが勝手にあけてはマズイ。
もし知らない人がいたら厄介であるから。
ノックをして返事を待って、彼以外部屋にいないかを確かめてから入ったほうがいい。
試しにノックをしてみる。
そして深呼吸。
だが返事が返ってこない。
もう一度ノックをする。
しかし返事は無かった。
仮にも誰かが居るのであれば返事があるはず。
しかし返事が無いとなると室内には誰も居ない。
結局、扉を勝手に開けた。
そしてサッと室内に入る。
電灯が点いている。
そして見渡すとガランとした殺風景の室内はパソコンとそれを乗せる大きな机だけだった。
「あのー、すいませーん?」
誰か居ませんかー?
と聞いてみるも返事が無い。
本当に誰も居なかった。
まぁ身を隠す場所もないから本当に誰も居ないのだろう。
とりあえず、パソコンに近寄ってみる。
主電源は入っているようだ。
〝さーばー〟が静かな音を立てている。
しかしデスクトップは真っ暗だった。
「んーーーーー」
いじってはいけないのは承知だった。
だけどマウスを少し動かすだけならと思い、マウスを握る。
そして少し動かしてみる。
「!?」
突然デスクトップが色彩を放った。
青い画面にいくつのものアイコンが並んでいるだけだった。
特に変化なし。
普通に考えれば業務用パソコンと言える代物だ。
お父さんのパソコンはアイコンが並ぶ画面に家族写真的なのが写っていた気がする。
結局、彼はここにいない。
そうね。
後、彼が行きそうな場所と言えばあの場所しかなかった。
屋上に行こう。
そう思ったときだった。
デスクトップ右下にある小さなデジタル時計。
その時間が示していた時刻は……。
PM7:50だった。
「7時!?」
いや、それは何でもおかしいだろう。
私の左腕にある腕時計は5時48分を示している。
2分のズレはいいとしよう。
しかし、2時間もズレているとなるとどうもおかしい。
そういえば、お父さんには変なクセがあった。
それは時間をわざと進めていると言う事。
『お父さんはねー2時間先を見るんだよ。そうすれば、仕事もテキパキ進む気がしてな。まぁだからと言って結局は慣れちゃうから実質本来の時間なんて判っちゃうんだけどな』
『どうでもいいけど、そんな理由で家の時計を狂わせないで』
そんなやり取りがあった気がする。
アレ―――。
そういえば……。
私があの時、屋上に居た時間って……。
俺は、社長室を後にした。
そのまま自室に戻るのもよかった。
何と無く、屋上に行こうと思った。
そのまま階段に向かう。
屋上にはエレベーターが通じていない。
だから非常口階段から上っていくしかないのだ。
非常口と書かれた緑の看板下にある扉を〝引いて〟開けた。
そして階段をゆっくりと上っていく。
足取りは重い。
決して、進んで上っているとは程遠い。
そういえば雪が降っていたな。
屋上には雪が積もっているんだろうな。
寒いに決まっている。
まぁ、関係の無い事だな。




