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二十二話 何も無き世界

気が付けば、私はベッドで横になっていた。

自分の部屋のベッドではない。

ここは私の知っている部屋ではなく、そして知っているベッドでもない。

ではどこで、誰のか。

体を起こし周囲を見渡す。

この部屋、少し臭う。

タバコの臭いだ。

特別私はタバコの臭いが嫌いなわけではないから不快には思わない。

この部屋の主は喫煙者の様だ。

そして床に転がるアルコール缶の数々。

タバコに酒。

ここに女がプラスされていると男性なら三種の神器。

女性なら男がプラスされて三種の神器。


「へぇ。何もない部屋」


何もないと言っても本当に何も無いわけではない。

もちろん私は今ベッドに乗っているわけだからベッドがある。

そして勉強机と思しき机にイス。

吸殻たまっている灰皿にタバコの箱。

そこにあるだけ。

もちろんだからと言って使っていないわけではないだろう。

使った痕跡だってしっかりと調べれば判る。

だけど、この部屋全体を通して感じるこの感覚。

それは〝無〟だった。

生活感が全くといって言い程に感じられない。

きっとこの部屋の主はここで夜を寝て過ごすはず。

それはいい。

だけど問題は別だ。

それだけのために存在している部屋に思える。

私なら本来、寝ると言う行動とは別にケータイをいじるなど、思えば何でも簡単に思いつく人間としての行動を自室で過ごす。

ここで今挙げられる部屋主の行動は三つ。

寝る、喫煙、飲酒。


「不衛生ね」


閉められた暗幕(カーテン)を開け外をうかがう。

雪が降っていた。

かなり降っている様子なのか、外は灰色の空、白の世界。


「この景色・・・・・・」


知っている景色だった。

とりあえずこの部屋を出る。


「・・・・・・そう。―――誰も〝いない〟のね」


今私がここにいる場所は建物の二階に値する。

と言うわけで階段を下り一階に向かう。

この建物(いえ)はとても静かだ。

階段を一段下りる毎にギシッと音がする。

リビングと思われる広い部屋に入るとそこもまた生活感がない。

必要最低限の行動しかしないのだろうか。

掃除もしていないと思われる。

何もかもが、そこにあるだけだった。



使命感と言うものを感じたことが無い。

ただ、与えられた事を順調にこなせばいいだけ。

俺はそうして生きてきた。

やっと事が片付く。


「えぇ、ご協力に感謝します。それでは失礼します」


受話器を戻し座っていたイスの背もたれに背中を押し付ける。

ようやくだ。

ようやく終わったのだ。

俺に与えられた仕事が。

もっとも誰かに与えられたわけではないが俺に与えられたのだ。


「―――」


何も言うこともない。

ただ、天井を眺めるだけ。

パソコンの隣に置いてあるタバコの箱に手を伸ばす。

それど同時に視界に入ったデスクトップ画面の右端。

それは時計であり現在の時刻を表している。


PM7:36


「もうそんな時間か」


窓から外を見ると、学園を出た時よりもずっと白い世界だった。

都心は雪に弱い。

毎度ながら痛感するしかない状況だ。

まぁ俺には関係のない事だが。

タバコに火をつけ紫煙を室内に漂わせる。

至福の一時、とまではいかないが気分を落ち着かせる。

そんな気分を味わった。


「さて、報告に行くか」


タバコの火を灰皿に押し付け立ち上がり部屋を後にする。

向かうは社長室だ。

もっとも目の前にある部屋だけに数歩歩くだけ。

ドアのノックし返事を待つ。

しかし返事が返ってこない。

いないのか―――?

もう一度ノックをする。

が、返事はない。


「勝手に入るぞ」


ドアノブを回す。

案の定鍵がかかっていた。


「あそこか」


居ないとなれば別の場所にいると言う事。

社長は会社を留守にする場合は俺に内線を寄越す。

となれば自然と会社のどこかにいることになる。

社長を探すために社長室を離れた。



この建物の探索をした後、外に出ていた。

外から見たこの建物は〝私の家だった〟。

気が付かなかった訳ではない。

ただ、否定したかっただけ。

もっとも、〝私〟の家ではないのだが。

外は既に真っ暗だった。

冬のいまどきの時間帯なら夕方から夜に変わろうとする微妙な時間帯。

だが空一面を覆う雲が暗黒をせかす様に夜を向かいいれている。

雪が積もっているこの道はとても歩きにくい。

歩くたびに雪が踏み潰され音が鳴ると同時に足跡を作る。

私の歩いてきた道だ。

今から向かう場所はひとつしかない。

あの日、私が立っていた場所。

あの日、彼が立っていた屋上。


大通りに出た。

雪が積もっているせいか人気があまり感じられない。

本来この時間帯なら帰宅時間と重なるため多くの人気がある。

車でならごった返しているが……。

電車が止まっているのかも知れない。

この近くに駅がある。

その駅方面からタクシーが何台も現れる。


「まぁ、仕方ないね」


それから少し先に歩き、離れた場所から目的地を発見。

高く立ち並ぶビル郡の中でもかなり大きいビル。

それが朝山グループのビルである。

あまり自分の世界でビルを見上げたことは無いが、改めてビルを見上げると大きな存在だった。

いくら別世界のビルとは言え、存在が違うわけではなかった。

しかし、真正面から突っ込んで建物内部に入れるものだろうか?

私の世界では「お父さんに会いに来た」なんて行って入ったわけだけど……。

少しその場で立ち尽くしていると、なにやら見知った人物を見かけた。

それは立花だった。

とは行っても私の知っている立花ではない。

姿かたちは知っていても所詮別人。

話しかけることは出来ない。

そして彼はあのビルに入っていくのかと思ったがそうではなかった。

ビルと他社ビルの間の路地に入っていってしまった。


「正面からいかないの?」


私は彼を追いかけた。

とは行っても大胆には追跡ではないので、非常にコソコソと、だ。

はたから見たら不審人物だ。

目立ってはいけない。

が、ハッキリ言って周りの視線がイタイ。

そう感じた。

路地を歩いていく立花を物陰から見ていると突然消えてしまった。

いや、正確には曲がり角を曲がって行った。

それを機に一気に路地を進むと、立花の姿は見当たらず、代わりに質素な鉄扉があった。

ご丁寧にも〝関係者以外立ち入り禁止〟と出ている。

予想ではあるが、この扉の先はこの朝山ビル内部である。

試しにドアノブをひねってみると、案外あっさりと扉が開いてしまう。

鍵は掛かっていないようだ。

思い切って中に入ってみよう。

私は扉を音が立たないようゆっくりと開け、建物に入っていった。

今気が付いたが、外はすっかりと〝夜〟になっていた。

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