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二十一話 理由を見つけて

とは言ったものの、何をすればいいのだろうか。

私はハッキリ言って、ノープランだった。

ただ闇雲にこの場所にやってきた。

あの日―――。

私が身を投げようとしたこの場所に。


「・・・・・・寒い」


すっかりと雨が上がった、この晴れた空の下でも何処吹く風は冷たく体を冷やす。

しかも冬の太陽とは傾き始めてからがとても早い。

もうじき、ここ日本は夜になる。

今日は、星が見れるだろうか。

いや、見れない。

ビルが立ち並ぶ都会って言うのは、星はキレイに観る事が出来ないんだ。

誰かが言っていた気がする。

お父さんだっけ?

まぁいいや。


「・・・・・・。こわっ」


さも当然の様に私はここにいるが、フェンス越しに私は下を見た。

人々が行き交う路上はまるで食べ物を探し回る(あり)の軍隊行進。


『こうやって高いところから下を見ると人間が小さく見える』

「小さい。本当に、観るだけなら小さいよね」


そう。

小さく見えるよね。


「・・・・・・?」


今一瞬だけど、何かを思い出した気がする。

誰かと会話していた記憶?

その誰かって、あの人なのかしら。


「そんなところで、何してるんだい? アーミー」

「――――――――――」


まぁ、なんとなくだけど予想はついていた。

来るんじゃないかって。


「長靴はどうした?」

「ぶっ殺すよ?」

「ははは。なぁライター貸してくれないか」

「はぁ?」

「だからライター。金色の。彼のだよ」

「あぁ。これ?」


ポケットからオイルライターを取り出し立花に渡す。

オイルライターを受け取った立花はフタを開けては閉める動作を繰り返す。


「オイルが切れてるな」

「はい?」

「や、だからオイルが切れてる。何回か火を点けたりした?」

「あぁーうん。まぁね」

「ほう・・・・・・」


すると立花はオイルライターを二つに分解し始めた。


「えっ!! ちょっと何やってんの!?」

「うん? 単にオイルを入れるだけさ」


さほど大きくないオイル缶を取り出し本体にオイルを補充しケースに戻す。

そしてフリント・ホイールを親指で回すと火花が散ると同時に勢いよく火がのぼる。


「きっと彼はこれを探してると思うんだ。どうして彼がこれを僕に渡したかはわからない。だけど、このライターは彼にとって、とても大事な物」

「探してるって言うこと?」

「たぶんね。僕はこのライターと似た物を何回か見てる。それは君のお父さんのライターだ。まったくと言っていいほど似てる。するとどうだろう。彼が持ってたのライター、彼のお父さんのじゃないかな? どういった経緯で持ってたかは知らないけど、予想するに形見」

「形見って・・・・・・」



『もういいだろう。よく考えろ、死んだ後に残された両親はどうする。他にも悲しむ人は大勢いるだろう』

『それは君だって一緒じゃない!! ここが私の世界なら、別の世界で死ぬ君に悲しむ人はいないの!?』

『いないな。お前とは違って、俺には両親もいなければ友達もいない。ずっと、孤独で生きてきた』

『それは嘘よ!! お父さんとお母さんが死んでるハズないじゃない!! 友達だってたくさんいるでしょ!?』

『言ったよな〝もしも〟だって。俺とお前の立場は逆なんだ』



「・・・・・・」

「アーミー?」

「ねぇ立花」

「ん?」

「〝もしも〟って逆の立場の事なの? 私の逆が、彼なの?」

「・・・・・・判らない。だけど、少なくとも、君と彼の間では」

「そう」

「思い出したのかい?」

「そうね。私はあの時、あそこに立ってたもの」


私は人差し指をかざす。

その先はフェンスの向こう側。

高い場所が怖くて、足が震えていた。

雨に打たれながら、飛び降りる勇気を振り絞っていた。

その最中、誰かが止めに来てくれないだろうかとずっと考えていた。

だけどそれも叶わぬ夢だと思っていた。

だって、誰かが私を引き止めたら、死ねないじゃない。

だけど―――。

そこに彼は来た。

何食わぬ顔で、さも当然の様に、彼がそこにいた。


「どうして、私の自殺を止めたんだろうね。ううん、理由は知ってるけどね」


―――ああ。

―――もしこれが夢だったら、とても目覚めが悪そう。


夢だったらよかったよね。


―――なんて思うのかしら。

―――夢か。

―――何度か、同じような夢を見ていた気がする。

―――彼も同じようなこと言ってたっけ。


『『夢を見ているんじゃないか』』


―――言葉が重なったあの時。

―――私はきっと今の状況の事を指していたんじゃないかな。


「朝美」

「なに?」

「僕たち―――俺たちは、人間の生き方を邪魔しているに過ぎない。だけど、それは俺らも同じ。世界を跨いでいるけど、俺たちも生き方を邪魔されたんだ。だったら、仕返しが必要だろ?」

「表現が悪いわね、それ」

「じゃあお前は、この状況をどう理解する?」

「そんなの簡単よ。借りは返す、でしょ?」

「お前も十分表現が悪いじゃないか」

「フフッ」

「ハハハ」

「そうね、ライターを返しに行くっていうのはどう?」

「いいなそれ。彼は今頃、必死になって探していると思うよ」

「自殺どころじゃなくなったりしてね」

「朝美はどうして死のうと思ったんだ?」

「・・・・・・。まぁ、嫌になったのよ、生きるのが」

「それは自殺志願者として当たり前だろ。もっと詳しく」

「飽きた。それだけ。あんたも知ってるでしょ? 私がどれだけ苦労しているか」

「いいじゃないか。俺は結構そういうお嬢様、好きだぞ」

「あんなに好かれても嬉しくないわ」


さぁ、無駄話はこれまで。

きっと彼が待ってる。

いや―――反語、待ってない。

だって待ってたら私と同じじゃない。

だから待ってて。

すぐ行くから。

(かれ)を助けに行くから。


「ねぇ正志」

「ん?」

「どうやって、向こうに行くのかしら」

「簡単さ。願え。念じろ」

「バッカみたい」

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