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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり
イングリルド国編

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104/108

104.無自覚嫌味返し

支配人は僅かにこちらを振り返りつつ、如才なく話し出した。


「ご依頼された席、問題なくご用意しております」

「それは何よりだ。実は、アリシアは観劇を観るのが初めてでね」

「おや、そうでしたか」

「だから“最高の舞台”を見せてあげたいと思っているんだ」

「それなら、お任せくださいませ。スタッフも演者も皆、万全の状態を整えておりますので、ご期待にお応え出来ることでしょう。殿下ご所望の“最高の舞台”をお届けしてみせます」

「頼んだぞ」

「しかし、初めての観劇の演目が、こちらとは……さぞ、良い思い出になることでしょうな」

「そうだといいのだが」


シリウス様と支配人はニコニコと話している。


この演目は何か特別なのかしら?

特に前知識を持たず、初見で見て欲しいとシリウス様に言われたのだけど。


そう言えば、シリウス様は“力を入れている”と言っていたわね。

初めての観劇が特別な演目だなんて、嬉しいわ。


そうして通路を通り抜けると、開けた場所に出た。

そこには、いくつかカーテンがかかっている。


これは本で読んだわ!


ボックス席と言って、中が個室になっているの。つまり簡易的な貸切席みたいなものね。それなら警備も問題ないのかもしれないわ。


私が興味津々に見ていると、ふいにカーテンの一つが揺れた。

咄嗟にジュリアンは警戒態勢を取る。


危険があるかもしれないと身構えたジュリアンだったけど、カーテンから現れた人物を確認すると警戒を解いた。そこにいたのはレイチェル様だった。


「まぁ、シリウス様! シリウス様もいらしていたのですね!」


意気揚々とレイチェル様はシリウス様に駆け寄った。

そして触れようと手を伸ばしたのだけど、それをスッとシリウス様に避けられる。


レイチェル様は一瞬、固まったように見えた。


けれど、それは本当に一瞬のことで次の瞬間には笑みを浮かべると、何事もなかったかのようにシリウス様に話し掛けている。


一方、突如登場したレイチェル様にシリウス様は眉間に皺を寄せていた。


レイチェル様が現れた辺りからシリウス様の周りには冷たいオーラが漂い始めていて、今や表情からも冷やかさが伝わってくる。


シリウス様の言っていた『令嬢に冷たい王子』が、そこにいた。


しかし、レイチェル様はシリウス様の寒々とした視線を受けても、それを気にする様子もなく話し続けている。


よくよく見ていれば、シリウス様は一度も返事を返していなかった。


終始無言のシリウス様に対して、饒舌なレイチェル様。


(すごいわ、レイチェル様)


学園では、このシリウス様の表情が怖くて声を掛けることが出来ないと令嬢達が言っていたことを思い出した。


今のシリウス様を前にしたら、私でも声を掛けるのを少し躊躇ってしまうわ。

だって、いつものシリウス様とは違い過ぎるのだもの。


それに負けないレイチェル様は、よほど話したいことがあるのね。


私はレイチェル様に感心しながら、もしかしたら重要な話かもしれないと思って耳を傾けた。


「―――この公演が盛況を収めれば、経済が潤うことでしょう。それから―――」


確かに!

一つの公演が繁盛すれば、大きな経済効果を生むわ。


まずは劇場で働く人や、演者達が利益を手にする。

彼らが消費をして、経済が回る。


それから人気の演目は本になって出版される。

それが売れれば、出版関係が潤う。


それに作中に出てくる場所やモチーフも人気が出る。今回の場合、タイトルが『チューリップの花束に愛をこめて』だから、確実にチューリップ商品が売れるはず。


花そのものはもちろんのこと、チューリップをモチーフとしたアクセサリーや、チューリップの刺繍やイラストが描かれた小物も売れるでしょう。


そうやって経済効果の余波は広がっていく。


そう、ベラティの経済書に書いてあったもの!


学園の図書館で借りた本が、平民になるかもしれないと自主的に勉強していた知識が活きている気がする。


やはり勉強しておいて正解ね。お陰で、ちゃんと理解出来るわ。レイチェル様は、この国の経済についても考えているのね。そして、それをシリウス様に伝えたかったのだわ。


と、私が思考に耽っている間も、ずっとレイチェル様はシリウス様に話し掛けていた。その様子を見ていた支配人は、気忙しそうに私達だけではなくジュリアンやフェリシアにも視線を送る。


(どうしたのかしら?)


不思議に思っていると、支配人は決心したようにレイチェル様の前に出た。


「レイチェル様、シリウス殿下は婚約者であるアリシア様とお見えですので、その辺で……」


支配人の言葉にレイチェル様は、言われて初めて気づいたといった様子で私に視線を向けた。


「あら、いらしていたのですか? まったく気が付きませんでしたわ」


そう言って、レイチェル様はニコリと微笑む。

何だか、懐かしい言葉を聞いた気がした。


『あら、お姉様。そこにいらしたの? まったく気が付かなかったわ』


妹が私に向けた言葉。それは何かを買ってもらったり、お願い事を聞いてもらった時、私に見せつけるように言っていた。


“いいでしょう!”と自慢気に……あ、もしかして!


ようやく私はレイチェル様の思惑に思い至って、一歩前に近づく。


「レイチェル様。今日のお姿も、とっても素敵ですね」


私もレイチェル様と同じように微笑む。


きっとレイチェル様も妹のように自慢して、褒められたかったのだわ。それがドレスなのかアクセサリーなのか、はたまた髪型なのかは分からないけど。


だから敢えて対象は限定せずに“お姿”と言った。

それを聞いたレイチェル様は、顔を赤くしている。


もしかして、褒められて照れているのかしら?

可愛い方なのね。


そう思っていると、シリウス様はフッと笑って私の手を取った。


「失礼するよ、レイチェル嬢」

「あ……レイチェル様、ごきげんよう」


急にシリウス様に手を引かれたので、私は慌ててレイチェル様に挨拶をしながら歩き出した。

知っていますか?

嫌味って通じないと意味がないんですよ(=ω=)


嫌味が通じなかったどころか、自分の嫌味が素敵と返されたようにレイチェルは受け取ったので、怒りの赤い顔です。照れているわけではありません(笑)

そしてシリウスは、無自覚に嫌味返しをしたアリシアを「流石だな」なんて思っています。

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