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魔力無しですが溺愛されて聖女の力に目覚めました  作者: しろまり
イングリルド国編

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103/108

103.お忍び=町娘ではない

それはシリウス様の一言から始まった。


「アリシア、観劇を観に行かない?」


一度も観劇を観に行ったことがない私は勢いよく「はい!」と頷いて、はたと気が付いた。


お義母様が『一度王城に入ってしまうと、そう簡単には遠出が出来ない』と言っていたことを。


だから気軽に外出は出来ないと思っていたのだけど、大丈夫なのかしら?


「あぁ、“お忍び”でね」


シリウス様の言葉に、私は即座に納得する。


なるほど、“お忍び”で! でも、それはそれで大丈夫なのかしら?

やっぱり警備の関係とか、色々問題があるのでは?


そんな疑問が顔に出ていたのか、シリウス様は微笑みながら私の肩に触れる。


「父上から許可をもらっているから問題ないよ」


この国で一番偉い国王陛下であるお義父様が許可しているのなら大丈夫ね。


楽しみだわ!

どんな雰囲気なのかしら!


本で知識は得ていたけれど、実際はどうなのかワクワクが止まらない。


「むしろ、アリシアが一度も観劇に行ったことがないと知って、父上達から早く連れて行ってあげなさいと急かされていたぐらいだからね。こちらにも準備があるから少々時間が掛かってしまったけど……」


初めての観劇に期待が膨らんでいた私は、シリウス様の呟きが聞こえなかった。




そして迎えた当日。


“お忍び“と言うぐらいだから、私は町娘の恰好をするのかと思っていた。物語では、平民に変装して街へ探索に行ったりするから。でもマリーが着せてくれたのは、いつもと変わらない服装で。


(いえ、いつもと同じではないのだけど)


王城に着いてから与えてもらった服達は、これまで着ていた物よりも上質だから今着ている“これ”とは違う。けれど、“お忍び”と聞いて私が想像していたものとも違っていた。


私は生地を撫でながら考える。


クロフォード家で着せてもらった服と同じ素材感。いつもの服よりは簡素だけれど、町娘が着るにしては高級すぎる。


“お忍び”ではなかったのかしら?なんて思っていると、シリウス様が迎えに来てくれた。その服装も、いつもと同じ……というかダノン国でシリウス様が来ていた物と変わらない。


(これは……私が勘違いしていたのね!)


やっぱり物語と現実は違うのでしょう。

町娘の恰好をするのね!なんてウキウキしていた自分が恥ずかしいわ。


私は羞恥から心の中で、顔を両手で覆った。


「さぁ、行こうか。アリシア」


シリウス様は言いながら、小脇を開ける。察しの良いシリウス様に勘違いが悟られませんようにと祈りながら、その腕に手を添えた。




乗り込んだ馬車は王城を抜けて、王都を軽やかに進んで行く。


「今回の公演は力を入れていてね。今は一つの劇場でだけ上演しているけれど、ゆくゆくは全土に展開する予定なんだ」

「そうなのですね」

「だから、足掛かりとして最初に上演する劇場は厳選したんだよ。この国で一番の劇場を選ばないとね」


シリウス様は楽しそうに話してくれる。

その口調から、この公演にシリウス様が関わっているように聞こえた。


「支配人とは懇意にしていてね。あぁ、この劇場だよ」


シリウス様に促されて馬車の窓の外を見ると、そこには重厚感が漂う建物が建っていた。


(あれが劇場! 素敵な建物装飾ね)


歴史を感じるような重厚な造り。それでいて洗練されていて、明るい華やかさを感じさせる。劇場というだけあって、美的センスが優れていた。


劇場の前の広い階段は沢山の人で賑わっている。ドレスやタキシードに身を包んだ人々が、吸い込まれるように劇場へと入って行く。思い思いに着飾る人達を見ていると、その先に馬車止めが見えた。


そこで停車するのだと思っていたのに、馬車は馬車止めを通り過ぎて角を曲がる。どこへ行くのかしら?と首を傾げていると、シリウス様が教えてくれた。


「表から入ると目立ってしまうからね。今日は裏口から入るよ」

「裏口?」

「うん、王族や高位貴族のお忍び用出入り口が裏にあるんだよ」

「そうなのですね」


ここにきて私は、ようやく“お忍び”の意味を理解した。


今日の“お忍び”は変装するレベルではなく、王太子がいると騒ぎにならない程度のものなのね。


「ここら辺は貴族向けのお店も多いから、観劇が終わったら少し散策しようか」

「はい!」


シリウス様の素敵な提案に、私は嬉々として首を縦に振った。


馬車は緩やかに止まる。シリウス様の手を借りて馬車から降りると、ちょび髭を生やした恰幅の良い紳士が扉の前に立っていた。


「やぁ、支配人」

「シリウス殿下。ようこそ、いらっしゃいました」


シリウス様と挨拶を交わした支配人は私に視線を向ける。


「もしや、こちらが」

「あぁ、彼女が僕の婚約者のアリシアだ」

「アリシア・クロフォードです」


シリウス様に紹介されて、私は深すぎない礼をとる。


オズマン侯爵の時と同じ轍は踏まないわ。


「これは、これはご丁寧にありがとうございます。私は当ジョルダン劇場の支配人、ドン・ジョルダンです。以後お見知り置きを」


支配人は恭しく礼をとると「さぁさぁ! 中へ、どうぞ」と促す。

扉の横にいた使用人によって開かれた先は、長い通路だった。


そこを皆でゾロゾロと歩いていく。支配人の隣にはジュリアン、その2人を先頭にシリウス様と私が続いて、後ろにはフェリシアがついていた。


今日は“お忍び”ということで、目立たないよう使用人は少人数になっている。でも、これで警備は大丈夫かしら?と思っていたら、シリウス様が秘密を教えてくれた。


なんと、ジュリアンは護衛でもあるというの!


初めてジュリアンを紹介された時にシリウスは『執事』と言っていたけど、執事兼護衛だったのね。なんでもジュリアンは、とっても優秀で強いそうよ。


それを聞いて私は“どおりで!”と納得したわ。


ダノン国にいた時から、ずっと気になっていたのよ。仮にも王太子が隣国に留学しているというのに、護衛らしき人物が傍にいないことを。それに、外出しても護衛が付かないことも不思議に思っていたわ。


でも、それはジュリアンが強いというだけではないのですって。


シリウス様は魔法も使えるし剣の腕も立つから、これ以上の護衛は必要ないと言うの。さすがシリウス様だわ!

お読みいただき、ありがとうございます(*ᴗˬᴗ)⁾⁾

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