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ウサペタ事件

 ログイン後の硬直中に簀巻きにされた。例によって例のごとく『ケーサツ』連中の仕業である。


 マジキチチュートリアル以降で戦闘職や生産職、『検証勢』が活気付いて各々のやりたいことを全うしている中、『ケーサツ』はあいも変わらずクソスポ実況やネタ配信に熱を上げている。


 彼らは高いセンスを要求してくる戦闘要素についていけず、かつ生産要素に興味を見いだせず、それでもこのゲームに残り続けることを選んだ芸人集団。

 つまり新要素に積極的に関わることができない。故に代わり映えのしない旧態依然とした拉致行為で人の邪魔をしてくるのだ。ギルド名を工作員とか犯罪者コロニーに改名したほうがいいんじゃないかと常々思う。


 肩に担がれて街中を運搬される。普通に意味の分からない光景なのだが、クソスポ民や新規プレイヤーもNGOが特有の文化の元に成り立っているクソゲーであることを理解してしまったらしい。

 屋根の上を駆けていく拉致犯を見ても『なんか変わった鳥がいたな』程度のリアクションをした後にすぐ目をそらす。この程度は日常の一部なのだ。


「今日はなに?」


「行けばわかる」


 これまたいつものお返事である。

 内容を伏せた体当たり企画なんて昨今じゃ流行らないよ。体の自由を奪われて拉致された先でロケなんていう、いにしえの芸人がやるようなことをよくも再現しようと思ったものだ。


「ただ……今日は荒れるぞ。一歩踏み込んだテーマだ。多くの反響があるだろう。賛否問わず……いや、否定の意見が上回る。だがプレイヤー全員が無視できない問題だ。いつか白黒はっきりさせなければならなかった件……それに今日、終止符を打つ」


 冗舌なモブだ。何やら使命感に燃えている顔をしているが、基本的人権の無視がまかり通っているという真っ先に解決しなければならない問題を二年以上も放置しておいてよく言うよ。

 まずはイン待ち簀巻きとかいう不可避のクソムーブ押し付けを自粛するのが先なんじゃないかな?


「だがそうすると交渉というひと手間を挟まなければならなくなる。加えて、お前が首を縦に振るかという運要素も生まれる。だが簀巻き拉致をするとどうだ? 交渉のテーブルにつく必要と運要素を排除できる。お前も、『拉致されたならしょうがない。とっとと終わらせてギャラ貰って帰ろう』となるわけだ。するとしないとでは三十分以上の差がつく。しない理由がない。というかそれ前提で計画を立ててるまである。お前はだいたい決まった時間にログインするからイン待ちもしやすい。簀巻き拉致はやめない。効率がいいんだ。分かるだろう?」


「分かるけどさぁ。僕が諦めるの前提っていうのやめない?」


「このゲームのプレイヤーの多くは何かしらを諦めてる。俺は戦闘要素を諦めた。上位陣について行けないからな。お前は自由を諦めるんだ。お前は良くも悪くも有名になりすぎた。有名税だと思うといい。そうすれば簀巻き拉致されるという状況そのものに誇りの一つも生まれるだろう」


「もの凄い暴論かますじゃん。ちょっと予想外の方向から殴りかかってくるの反論しにくいからやめろ」


「暴論を織り交ぜた論点ずらしは議論遅延のスターターセットみたいなもんだからな。加えて、俺は別に正論で殴り合うつもりもない。目的が時間稼ぎだからな。ほら、到着だ。これでお前は『仕方ないから適当に終わらせて帰ろう』モードになる。実に効率的だろう?」


 このモブ……まさかここまで想定済みか。

 惜しいな。センスさえ持ち合わせていれば『先駆』の幹部に食い込めていただろうに。天は二物を与えず、か。僕はバッと布を剥ぎ取られながら遠い目をした。


 そして誘導されるがまま席へ座る。場所はお馴染み噴水広場に急遽作られた特設会場の一席。いつだったかの料理番組でも使われた茶番生放送セットである。


「あーあー、マイクチェック、マイクチェック」


 どうやら僕が最後の一人だったらしい。なるほど、スケジュールを遅延させないために簀巻き拉致をするわけだ。理に適っている。適ってるかな……。これについては後で考えよう。


 隣を見る。メンバーはビストロさん、シリア、ノルマキさん、そして僕。

 向かいを見る。シンシア、フレイヤたん、ヨミさん、そしてホシノ。


 なにやら陣営が分かれている。殺し合いかな? いや、それだとホシノが在籍している向こう陣営が不利すぎる。馬鹿の一つ覚えみたいに料理番組をやるわけでもあるまい。ちょっと気になるキャスティングやめろ。仕方ないから参加するか。……モブの思うツボじゃないか。たまげたなぁ。


 成り行きを見守る。カメラ配置が完了したことを確認したショチョーさんがスゥッと息を吸い込んで言い放った。


「第一回! 徹底討論会ー! お題はこれだぁ! 『ウサペタ戦法は"アリ"か"ナシ"か!』」


 だそうだ。


 ▷


 ウサペタ事件。それはマジキチチュートリアル以降に発生した事件の中で最も多くの反響を呼んだ事件である。


 モンスター以外の動物が出現したことでテイマーという職業が機能するようになったのは記憶に新しい。しかしながら、テイムできるのはとても戦闘に参加できるようには見えない小動物であった。


 草原ではウサギ。森ではリス。花畑ではハムスター。鉱山ではモグラ。海ではカメ。毒沼ではサンショウウオらしい。


 いずれもちっこくて可愛らしく、仕草や毛並みが現実さながらだったので、たちまちNGOの数少ない癒やし要素として取り沙汰された。


 なお、癒やしを求めてNGOを始めたVR初心者のプレイヤーたちは餌という維持コストの壁にぶち当たり早々に消えていった。テイムしたペットに名前までつけて可愛がったのに、徐々に衰弱していき、三日後には眠るように餓死するという光景は多くのプレイヤーにトラウマを与えたのだ。

 頻繁にログインできないプレイヤーをふるいに掛けるスタイルであることも手伝ってか、ペットというシステムは目玉要素になることなく廃れていった。


 かに見えた。


 某日、ある仕様が発覚する。それは偶然見つかった。真偽の程は定かではないが、表面上はそういうことになっている。新たに見つかった悪魔のような仕様。それは――


 テイムしたペットが戦闘中に死んだ際、パーティーメンバーが死亡したときに掛かるバフが発動する。


 アヴェンジャーという職業がある。戦闘中に味方が死亡したら攻撃倍率が上昇する職業だ。復讐者の名に相応しい性能をしている。

 従来は職業を変更してしまうとバフが切れてしまったが、チュートリアル後はそのデメリットが解消された。


 味方が三人死亡したら攻撃倍率は二倍。そして職業を剣士に変更すれば攻撃力は脅威の四倍。これだけで異常な火力を発揮できることが分かる。


 しかしながら、普通に味方と組んで狩りをしたほうが楽なので価値のない職業とされていた。復活システムとのシナジーが発見されるまでは。


 一斉自殺してバフ発動。セルフ復活してバフ継続。そして強力なバフの恩恵を受けた四人がクソ戦法でモンスターを蹂躙。これが最先端の狩りだ。正直、絵面は最悪に近い。自殺しといて復讐者を名乗るなよとは定番のツッコミである。


 このクソみたいな絵面にさらなる拍車を掛けた劇毒。それがウサペタ戦法だ。

 ペットの死はプレイヤーの死と別枠でカウントされる。つまり、自殺して倍率を二倍にしたあとに各々のペットをコロコロすることで、アヴェンジャーの攻撃倍率上限である無条件四倍というイカレ火力を発揮できるのだ。


 職業を剣士にすれば倍率は八倍。これに付与魔法や各種バフ、そしてラグスイッチを重ねれば強化個体すらワンパンで沈める火力を手に入れることができるのだ。


 悪魔のような所業の贄に選ばれたのがウサギである。街を出てすぐの草原にいるウサギをテイムし、狩り場に着いたら大槌でペッタン。超火力を以ってモンスターを葬るという戦法が流行ってしまった。


 良心を天秤に乗せることで得られる高火力。だがこの世界にいるのは悪名をネットの海に轟かせるNGO民。天秤に乗せるほどの良心など欠片も残っていなかった。


 かに思えた。


 まさかの大荒れである。

 人のことを経験値としか認識していないNGO民もこれにはドン引き。所詮ゲームなんだからいいだろというウサペタ賛成派と、殺していいのは人間だけだろという断固反対派が割れて戦争に発展することとなった。


 効率に脳みそを支配されたプレイヤーは純粋に強く、ウサペタ反対を主張するプレイヤーたちの撃退に成功。

 だがウサペタ反対派も退かない。常識的な感性を持つクソスポ民を巻き込んでウサペタ賛成派の鬼畜の所業をSNSへと公開。大バッシングの果てにウサペタ戦法の封印を決断させるという快挙を成し遂げた。


 あわや炎上というところまでいったウサペタ事件の影響は今なお根強く残っている。

 職業アヴェンジャーを指定して募集するとウサペタ反対派が監視に来たり、ギルド内で意見が割れたため気まずい空気が流れていたりするのだ。


 超効率の戦法を封印せざるを得なくなった廃人連中も荒れている。どんな手を使ってでも効率を追い求める『先駆』と、ウサペタ反対派筆頭の『花園』の仲が険悪さを帯びていることは有名だ。

 今はまだ従来通りの付き合いを継続しているが、いつ関係がご破算になってもおかしくないとのこと。それくらい大きな溝を生んだ事件なのである。


 ちなみに僕は消極的な反対派だ。効率がいいってのは分かるんだけど……絵面が酷すぎるんだよね。挨拶代わりの殺人や街中自殺が流行っているのに今更だろと言われればそれまでだが、やはり無抵抗な小動物をコロコロするのはね。見ていて気分のいいものではないよ。


 今回の配信はそういうゴタゴタに白黒をつける場のようである。これは確かに荒れそうだ。『ケーサツ』も思い切ったことをする。下手すれば炎上案件だぞこれ。


 ショチョーさんによる企画説明が行われている。どうやらディベート形式で進行するらしい。煽りや暴言は禁止か。あくまで討論の場という認識のようだ。


 賛成派の面々を見る。シンシアはわりと簡単に丸め込めそうだが、フレイヤたんとヨミさんは手強いだろう。ホシノは何なんだ……場違いにもほどがある。イロモノ枠だろうか。無視しても良さそうだ。


 対するコチラはどうか。ビストロさんは……悪いけど正直期待していない。わりとすぐ感情的になって穴を突かれそうだ。シリアはこちらのネタ枠だろう。居ないものとして扱う。ノルマキさんは完全に未知数だ。そもそも彼はウサペタ反対派なのか……? 釘バットで楽しそうに人の頭をカチ割っている人物が何を言っているんだと言われたら反論の余地がないぞ。


 か、勝てるのか……? このメンツで……。酷い偏りを感じる。沈むことが確定している泥船に乗せられたような……ハッとする。出来レース……仕組まれている? 僕はシンシアを見た。口の端を歪めた笑み……今更気付いたのか、そう言いたげだ。

 茶番……! これは『先駆』や『検証勢』が大手を振って残虐行為に手を染めるための手続きとしての茶番だ……!

 相当な金を積んだな。ゲスめ。金銭に釣られる『ケーサツ』も同罪だ。


 許せないよね。僕は義憤を覚えた。どうせなら僕に金を積んで賛成派に雇い入れろよ。そうすればウサペタ容認ムードを完璧に作り上げてやるというのに。

 ……多少は拮抗しないと不自然に映る、か。僕を噛ませ役にしたな? なるほど。なるほどね。その油断が命取りだ。


 そして討論のゴングが鳴った。廃人め。僕に金を積まなかったことを後悔させてやる。

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― 新着の感想 ―
積極的否定派にならなきゃダメだろ正義の爆弾魔ァ!
[良い点] 殺 し て い い の は 人 間 だ け だ ろ
[良い点] 殺していいのは人間だけだろww この言葉が全てを物語ってるわぁ。 無抵抗の初心者を念仏責めしたり、純粋な人間をキルする件についても議論して欲しい。 たぶん反対派がキルされて終わる気がする…
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