↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毒殺科に転生したので、暗殺者訓練施設で3人の子供達を育てます!〜私を殺すはずのラスボスが、何故か楽しげに近寄ってくるのですが〜  作者: たんぽぽ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/20

13 クシー

 暗殺者訓練施設は、日常的に訓練で命を落とす事がある。

 私は4歳の頃からこの施設で生活し、毒殺科の訓練の中で日常的にその光景を目の当たりにしていて、慣れていたはずだった。

 慣れていると思っていたのは、今まで施設から居なくなったひと達が、私にとってはただの他人だったからで。

 前世の感覚が魂に染み付いていた私は、毒に侵されて運ばれて行った毒殺科の子供達を、ドラマのような感覚で現実感が無く、ボンヤリと見ていただけで。



 子供達が屋外訓練に行っていて自分の部屋で夜を過ごし、いつも通りに毒殺科の訓練に行った日だった。

 毒殺科の訓練は、毒薬と解毒薬の調合、新しい毒薬の開発、いかに気づかれぬままに標的に致死量の毒を盛るかを教わり、模索しつつ進められる。

 毒と薬は表裏一体。薬師に扮して標的に近づく事が多いので、薬と医療の扱いも同時並行で学ぶ。毒殺科所属の教師も子供達も、毒と薬に造詣の深い面子が揃っている。

 いつも最新の薬と毒を扱う。そんな中で、耐性の出来ていない毒の扱いが上手くいかず、事故が起こる事も少なく無かった。


 その日は、開発されたばかりの猛毒を扱う訓練をしていた。茶器に気づかれぬよう毒を塗り、茶を注ぎ、毒入りの茶を標的に回しつつ、自分は安全を装い毒が入っていない器の茶を飲む所までが1セットだ。


「きゃああぁぁぁぁ…………ッッ!!!」


 ガターンッッ、と人が倒れる音と共に、一緒に訓練を受けている向こうの班の女子達の、甲高い悲鳴が上がる。

 緊張が走る教室で、教師が解毒剤を片手にそちらに走って行く。チラリと見た視界の端に、床に伏した鮮やかな赤毛が入り込んだ。

 

 赤毛。

 ショートカットの、赤毛。


 まさかと思いつつ、ゆっくりと振り返り、倒れ込んだ子を視界に入れる。


 解毒剤を飲まされている女の子。

 ショートカットの赤毛。

 教師の、腕の中にいるのは。


 友達で、同室の。

 

 クシーだった。




 ボンヤリした中、後で聞こえてきた話では、クシーの班の男子が茶器に毒を塗り間違えて、クシーがそれを飲んでしまったらしかった。

 あの毒は即効性で、解毒を想定していない。

 クシーが倒れた後で教師が一応解毒剤を飲ませていたが、毒の回りの速さに、助かる状況では無かったそうだ。


 倒れた、赤毛。

 助からない、クシー。


 訓練の直前まで一緒に歩いて、笑っていたはずだった。


 暗殺者訓練施設では、死にかけて運ばれて行った子供達は、安否を知らされる事も無く、生死に関わらず戻って来ない。

 私は、クシーが死んでしまっていても、九死に一生を得て生き残っていてくれても。

 クシーがどうなったかを知る術も無く、もう一緒に過ごすことは出来ないのだ。




 毒殺科の訓練が終わり、クシーと一緒に帰るはずだった廊下をぼんやりとひとりで歩き。

 突然頬に強い衝撃を受け吹っ飛ばされて、廊下の壁に肩と背中を打ちつけた。


「アンタが毒殺科のファイだね! 最近、総合エリート科のシグマ先輩や教え子の3人に媚びを売ってるそうじゃないか……!」


 いつもだったら避けられていた攻撃だが、今日ばかりは難しかった。


「地味で何の取り柄もない、毒殺科風情が。ちょっとくらい痛い目見ないと、その鈍臭さで自分の立ち位置をすぐに見失っちゃうよねぇ!」


 戦闘科女子が、何やら叫んでいるが、その通りだ。

 そう。今は、子供達も遠征訓練で、いない。

 クシーもいない。

 私ひとりでは、前世の甘っちょろい記憶が染み付いているだけの、施設に馴染まない、弱々な人間だ。


「何自分が、総合エリート科と関われる身分だと思っちゃってるの? アンタがどれほど身の程をわきまえてないか、その身に分からせてあげようか……ッ!!」


 頬を殴られた衝撃で、頭がクラクラする。

 次の攻撃を避けようと思えば避けられるけど、避けてどうするんだろう……?

 私は、子供達が辛い追加訓練を受けさせられている、子供達を苦しめている、原因で。

 いつ、シグマ先輩に、嬲り殺されてもおかしくない存在で。

 暗殺者訓練施設で訓練していても、とても暗殺者が務まるとは思えない、未来の無い役立たずで。


 クシーもいない。未来もない。ただ、未来ある子供達の、足を引っ張るだけの存在で。

 私の、生きている意味が、わからない。


 戦闘科女子が手にしたナイフが、私に振り上げられる。


 ぼんやりと銀色の光の軌跡を見つめていた、その時。


「お前……!! 何やってるんだ……ッ!!」


 ナイフを振り上げていたはずの戦闘科女子が、強い衝撃音と共に吹っ飛ばされる。

 ゆっくりと目を向けると、視界に入るのは、広い背中と、肩より少し長い、波打つ金色の髪。


「あれくらいの攻撃なんて、避けられる筈だろう!? どうしたんだ、お前……!?」


 両肩を揺さぶられ、金色の髪と瞳が視界にチラチラと入り込む。

 ぼんやりと目を合わせれば、シグマ先輩が焦ったような、心配そうな顔で、私を覗き込んでいる。何で、そんな顔をしてるんだろう。


 私を、殺すはずのひと。

 私を、始末するはずのひと。

 床に倒れていたクシーと同じように。


「……シグマ先輩は、今日は、屋外訓練じゃ……?」

「早めに終わったから、帰ってきたんだ。アイツらも帰って来てるが、部屋に連れてくか?」


 ゆるゆると首を振る。

 取り繕っても3人にはすぐに見破られるし、心配を、かけるかもしれない。

 元々今日は彼らの部屋には行かない予定だったし、彼らに私の面倒を見させるような、余計な手間をかけさせたくない。屋外訓練から帰って来た後の子供達は、いつもとても消耗しているのだ。


「チッ……! 仕方ない、俺の部屋に行くぞ。そのボンヤリさじゃ、今すぐ殺してくれと言ってるようなもんだ。殴られた頬も何とかするぞ」


 先輩に腕を引かれて、よろよろと歩き出す。

 視界の隅に見えた戦闘科女子は、先ほどの衝撃で床の隅に転がったまま、動かなかった。




 そのまま先輩に連れられて、彼の部屋の扉をくぐる。


「言っておくが、今はお前を殺さないし、危害は加えないからな」


 先輩が熱を出して倒れた時は、今でも先輩の部屋に顔を出しているが、いつも子供達が一緒だった。

 シグマ先輩の部屋に、2人きりになるのは初めてだ。

 ベッドに座るよう促されて、ぽすんと抱えられる大きさの丸いぬいぐるみを渡される。

 これは「雨降りのバス停にずぶ濡れのおばけ」の歌の、聖獣のぬいぐるみだ。子供達に、ぬいぐるみがひとつも無いのはどうかと思った時に、それぞれの色に合わせて作ってあげたものだ。丸いクッションに、手足としっぽ、耳を付けた程度のものだが。

 冗談混じりでシグマ先輩のぬいぐるみも作って渡してみたのだが、案外気に入っているのか、彼が熱を出して寝込んでいる時にはいつもその腕に抱えていた。


 シグマ先輩の髪と目の色に模した、その黄色いぬいぐるみ。ぎゅっと抱きしめて顔を埋めると、シグマ先輩の匂いがした。


「まず頬の手当をするぞ。顔を上げろ」


 ゆっくりと、ぬいぐるみに埋めていた顔を上げる。

 薬を塗ってくれているシグマ先輩は、装備を外して上半身は黒いインナーだけになっていた。


「お前の真似だ。今日はお前に危害は加えない」


「片手ひとつで何とでもできるが」と肩を竦めて、私の顔の手当を続けている。

 顔が終わったら、打ちつけた肩や背中を服の上から触り、痛めた所を確認された。


「お前は貧弱なんだから、攻撃を受けたら壊れるだろ。何で避けなかった。ぼんやりしてどうしたんだ」


 よく考えれば、シグマ先輩も屋外訓練から帰ってきたばかりだった。疲れてる彼に、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。

首を振って、部屋に戻ろうと立ち上がりかけて、そっと肩を抑えられベッドに戻された。


「……お手間をおかけしました、大丈夫です。先輩も疲れていると思うので、休んでください」


 頑張って、何とか笑顔をつくる。


「俺は、アイツらとは違って、屋外訓練程度でへばったりなんかしない。一緒にするな。どうしたんだ?」

「……毒殺科の、訓練で。同室で友人の子が、事故で……」

「……ああ。お前と一緒に、毎回クッキーを作ってくれた子か」


 先輩の基準は、クッキーか。クッキーが好きすぎやしないか。

 少しだけおかしくなって、頷きながらくすりと笑う。


「そうか。命が軽いこの施設でも、甘っちょろいお前にはこたえるだろうな。胸を貸してやるぞ、泣いとくか?」


 胸を貸す……?

 シグマ先輩は4歳年上だから、今、17歳だ。

 17歳のお年頃な男子が、女子に胸を貸して良いものか?

 いや、私の方が今13歳だから、女子では無くて、子供扱いか……??

 朦朧とした頭で思考がこんがらがっていると、シグマ先輩が更に言葉を続けた。


「本か何かで見たが。市井で過ごしてる女は、泣いてスッキリするもんなんだろう? お前も、近い感覚じゃないのか?」


 シグマ先輩は、慰めてくれようとしてるのか。

 私を殺そうとしているひとが?


「装備も外したし、誓って今は何もしない。接触が嫌で無ければ、泣いておけ」


 優しくぎゅっと抱き込まれる。

 そのまま、背中を優しくトントンと叩かれた。


 シグマ先輩の体温は、不思議と嫌では無かった。追加訓練に看病に、過ごす時間が多いからかもしれない。


 死ななくて良かったはずのクシーが倒れて、早々に死ぬはずだった、私が生きている。

 何故、私は今。私を殺すはずの人に、抱き締められているのだろう。

 シグマ先輩の体温とトクトクと聞こえる心音が、背中の優しいトントンのリズムが、やけに温かくて心地良い。

 よく考えたら、子供達は可愛くも頼もしいが、同年代や歳上の頼れるひとは、クシーと先輩しかいなかった。

 クシーは、もういないから。今は、先輩、ただひとり。


 私を、殺すはずのひと。

 私の、唯一頼れる歳上のひと。


 もう、思考がぐちゃぐちゃで、何もかも分からなくなって。

 ただただ、感情のままに涙を溢れさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。