第88話:スポットライトの消えた世界
寒風が吹き荒れる、大陸最北の果てに位置する開拓村。 そこには、かつて世界を欺いた美咲、シオン、ミチルの姿があった。
「おい、新入り! いつまで手を止めてるんだ! 日が暮れる前にその岩を運び出せ!」
粗末な麻の服を纏った村人の怒声が、凍てつく空気に響く。魔力を完全に失った美咲の身体は、ただの泥に塗れた岩一つを持ち上げるのにも悲鳴を上げた。爪は割れ、かつて称賛を浴びた白い肌は寒さと泥でひび割れている。
「私は……私は聖女エレナよ……! 世界を救った救世主なんだから……っ!」
美咲は震える声で必死に訴えかけた。しかし、通り過ぎる村人たちは、彼女を一瞥するだけですぐに視線を逸らした。
「またあいつか。大教会が解体されたショックで、自分を聖女だと思い込んでる哀れな狂人だよ。関わるな、仕事の邪魔だ」
「嘘……嘘よ……! 私を見て、私を褒めなさいよッ!!」
美咲の絶叫は、風にかき消されて誰の心にも届かない。シオンとミチルもまた、ただの力のない作業員として、周囲の粗野な男たちに顎で使われ、誰にも特別視されない「その他大勢」の日常に埋もれていた。
他者を見下し、世界中のスポットライトを浴びることでしか自らの存在価値を証明できなかった彼女たち。そんな彼女たちにとって、誰も自分を認めず、賞賛もせず、ただの一人の無力な人間として無視され続ける日々は、肉体を刻まれる拷問よりも遥かに過酷な生き地獄だった。
どれだけ叫んでも、どれだけ涙を流しても、世界の中心はもうここにはない。 かつて親友を奈落へ落として掴み取った栄華の代償として、裏切り者たちは誰に看取られることもなく、静かに、そして完全に、社会の底辺へと沈んでいった。




