第86話:奪われし特権
『忘却の丘』での決着から数日後。 平和特区『ベルンシュタイン・サンクチュアリ』の厳粛なる謁見の間には、重苦しい沈黙が満ちていた。
床に並んで膝をつかされているのは、美咲、そして前世で私を笑顔で裏切り、今世でも大教会の幹部として亜人や魔族の弾圧を先導してきたシオンとミチルの三人だった。かつて驕り高ぶっていた彼らの顔は一様に青ざめ、ガタガタと無様に震えている。
「聖良……頼む、悪かった! 私たちは大教会の教義に従っていただけなんだ!」 「そうよ、私たちは脅されていたの! だから命だけは、これまでの地位だけは奪わないで……っ!」
シオンとミチルが涙ながらに必死の弁明を口にする。だが、玉座に深く腰掛けた私は、冷徹な一瞥をくれるだけだった。
「今更そんな見苦しい言い訳が通ると思っているの? 貴方たちが私からすべてを奪い、奈落へ突き落としたあの時、私の声に一度でも耳を傾けたかしら」
私の冷たい言葉に、二人は息を呑んで絶句した。 隣にいる美咲は、すでに魂の根幹を折られ、虚ろな目で床を見つめたまま一言も発しない。
「貴方たちがこれまで貪ってきた贅沢、人々を従えてきた権力、そして他者を傷つけるために使ってきたその力。それらすべては、この世界には不要なものよ」
私はゆっくりと立ち上がり、右手を彼女たちへと向けた。 概念武装『深淵の処刑者』の残滓たる漆黒の魔力が、三人の身体を蛇のように締め上げる。
「――概念封印」
「「「あ、あああああああッ!!!」」」
三人の絶叫が謁見の間に木霊した。 彼女たちの体内から、光り輝く聖属性の加護と莫大な魔力の粒子が、容赦なく引きずり出されていく。大教会の聖騎士、聖魔導士として築き上げてきた超一流の異能。そして、世界の頂点に君臨していた「聖女」とその一派という絶対的な社会的地位の証明。
それらすべてが、私の深淵の闇へと吸い込まれ、二度と再生することのない虚無の彼方へと完全に封印された。
光の粒子が完全に消え去ったとき、三人は力なく床へと頽れた。 肌の艶は失われ、纏っていた神聖な覇気は霧散し、そこに残されたのは魔力を持たない「ただの無力な人間」の器だけだった。
「これでもう、貴方たちは誰も従えることはできないし、誰も傷つけることはできないわ」
すべてを奪われ、文字通り文字通りの空っぽになった裏切り者たち。その絶望に染まった姿を冷たく見下ろしながら、私は彼女たちに相応しい、次なる「檻」を宣告するための準備を整えた。




