第85話:光と影の決着
「あ……、う……あ……っ……」
地面に這いつくばったまま、美咲は指先一つ動かすことができず、ただ苦悶のうめき声を漏らしていた。かつて世界中からの歓声を一身に浴び、白金の輝きを纏っていた「聖女エレナ」の面影は、もうどこにもない。服は破れ、泥と涙に塗れ、ただただ圧倒的な深淵の前に怯えるだけの、憐れな敗北者がそこにいた。
前世から続いた長い戦い。光を騙った影と、影を纏った真の光の歪な関係。そのすべてに、今、明確な幕が下ろされた。
私は大鎌を消し去り、いつもの魔女の装いのまま、静かに彼女を見下ろした。
「貴方の勝ちよ、聖良……。私を殺して、かつての復讐を果たせばいいわ……っ!」
美咲は震える声で、せめてものプライドを保とうとするかのように、私を睨みつけて言った。彼女の中では、この絶望的な結末すらも「悲劇のヒロインの最期」という劇の一幕に仕立て上げようとしているのかもしれなかった。
だが、私はただ冷ややかに首を振った。
「勘違いしないで、美咲。私は貴方への復讐のためにここまで来たわけじゃない。ただ、私の大切な場所を脅かす害悪を排除しにきただけよ」
私はそっと視線を、遥か彼方にある平和特区『ベルンシュタイン・サンクチュアリ』へと向けた。そこには今も、私の帰りを待つルナリエやリリス、そして種族を超えて笑い合う人々の営みがある。
「貴方はいつだって、世界の中心でスポットライトを浴びることしか考えていなかった。そのためなら、親友を奈落に突き落とすことも、無辜の亜人を悪に仕立て上げることも躊躇わなかった。……でもね、そんな身勝手な舞台は、私の創る新世界にはもう存在しないの」
私はゆっくりと美咲から背を向けた。
「貴方の劇はこれで本当に終わりよ。もう二度と、貴方がスポットライトを浴びる幕が上がることはないわ」
その言葉は、死の宣告よりも冷酷に、美咲の肥大化したエゴを根元から粉砕した。 直接対決は、私の完全なる勝利という形で静かに幕を閉じた。『忘却の丘』に吹き抜ける冷たい風だけが、取り残された敗者の、言葉にならない嗚咽を虚しくかき消していった。




