第80話:新世界の覇者
大教会の総本山と巨大な軍事要塞群が地形ごと消滅し、そこに刻まれた『空白の地平』。大陸の地図が物理的に書き換えられたという圧倒的な現実を前に、人類諸国の王たちや残された将兵は、完全に戦意を喪失していた。
「逆らえるはずがない……。私たちは、神ではなく『本物の深淵』を敵に回していたのだ……」
抗う意志すら奪われた諸国は、競い合うようにして人類勇者連合からの離脱を表明。精神的支柱と物理的な拠点を同時に失った大教会は、抗議の声一つ上げることすらできず、事実上の完全な解体を迎えることとなった。
荒野に吹き付ける風が、静かにその熱を失っていく。 敵のすべてが排除されたことを確認し、私は小さく息を吐いた。
「――変身解除」
呟きとともに、私の身体を包んでいた禍々しくも美しい『漆黒の魔法少女衣装』が、静かに黒い光の粒子となって霧散していく。顕現させていた概念武装を解き、いつもの見慣れた魔女の装いへと戻った私は、待たせていた仲間たちの元へと歩みを進めた。
「お見事でした、アリシア殿。これほどまでの力、もはや天上の神々であっても跪くほかありませんね」 ルナリエが深い敬意を込めて一礼し、リリスもまた、その瞳を歓喜と心酔に濡らしながら私の元へと駆け寄る。 「お姉様、本当に素敵でしたわ! これで邪魔なネズミどもは一匹残らず消え去りました。これからは、お姉様が望むままの世界を作ることができますわね」
背後に控える魔王軍の精鋭たちも、一斉に武器を掲げて勝利の勝鬨を上げる。その圧倒的な熱気に包まれながら、私は再び平和特区『ベルンシュタイン・サンクチュアリ』へと帰還した。
特区の城門をくぐった私を迎えたのは、かつてのような「魔女への恐れ」ではなかった。 そこにいた人間も、亜人も、魔族も、誰もが恐怖を超えた絶対的な敬畏の念を抱き、ただ静かに、しかし熱狂を孕んだ瞳で私を見つめ、道をあけていく。
力による支配ではない。しかし、世界を滅ぼすことも救うことも容易いその絶対的な存在の前に、人々は自ら従うことを選んだのだ。
偽りの救世主は堕ち、新たな世界のルールは私を中心に回り始める。 名実ともに、この大陸のすべての運命を握る絶対的な覇者となった私――アリシア。サンクチュアリの玉座へと向かう私の背中を、新世界の夜明けの光が静かに照らし出していた。




