第76話:理(ことわり)を切り裂く刃
「そんな……私の『神罰の劫火』が、跡形もなく消えるなんて……嘘よ、こんなの嘘よッ!」
最大最強の禁忌魔術を指先一つで虚無に還され、エレナは完全に戦意を喪失し、地面に這いつくばったままガタガタと震えていた。神の奇跡を盲信していた彼女のプライドは、存在の根底からへし折られたのだ。
だが、私の歩みは止まらない。 溢れ出る漆黒の魔力を収束させると、私の手の中に、空間そのものを切り裂くような禍々しい「大鎌」が形成された。刃が放つ絶対的な死の気配に、エレナの前に身を挺した数少ない大教会の近衛騎士たちが、恐怖に顔を歪めながらも必死に剣を構える。
「エ、エレナ様をお守りしろ! 聖なる防壁を展開――」
騎士たちが慌てて複合結界を張り巡らせ、神聖なる魔力の盾で私を拒絶しようとする。 しかし、私は彼らを一瞥することすらなく、ただ静かに大鎌を横一文字に振るった。
――パリン。
何重にも重ねられた強固なはずの神聖防壁が、まるで薄い紙細工のように、一瞬の抵抗もなく綺麗に切り裂かれた。いや、切り裂かれたのではない。大鎌の刃が触れた瞬間、その防壁を構成していた魔術の数式、さらには騎士たちが構えていた至高の聖剣までもが、この世界から「存在しなかった」かのように、サラサラと黒い砂となって消滅したのだ。
「ひっ……!? 俺の剣が、結界が……消えた……?」
圧倒的な力の格の違い。戦いという概念すら成立しない絶対的な差を前に、騎士たちは腰を抜かして後退りする。彼らを睨み据え、私は冷徹なる警告を告げた。
「虐殺はしない。だが、私の邪魔をするなら、その存在ごと消し去る」
その言葉は、冷酷な脅しではなく、淡々とした世界の事実だった。 恐怖に狂った一人の騎士が色めき立ち、素手で私に掴みかかろうと突撃してくる。だが、私が大鎌の石突で軽く地面を叩いた瞬間、彼の纏う闘気も、放たれた攻撃の意志も、文字通りその「存在そのもの」が根元から消滅し、彼はただ勢いよく前のめりに転がることしかできなかった。
向かってくる敵の武器、魔術、そしてあらゆる反抗の選択肢が、私の歩む先から次々と消えていく。理すらも切り裂く漆黒の刃を携え、私はただ絶望に目を見開く美咲の眼前へと、容赦なく肉薄していった。




