第75話:概念武装『深淵の処刑者』
天空から降り注ぐ、大陸の半分を焼き尽くすほどの莫大な熱量を孕んだ『神罰の劫火』。それは、もはや魔法という枠を超えた、純粋なる破壊のエネルギーの奔流だった。
しかし、その黄金の破滅を前にして、私はただ静かに右手の指先を天へと向けた。
私の纏うこの禍々しくも美しい漆黒の衣装。これはただの魔力による防壁でも、強化魔法でもない。かつて世界を救った「聖女」としての在り方を反転させ、この世界そのものの法則を私に都合よく書き換える力――概念武装『深淵の処刑者』である。
「消えなさい」
私が短く告げた瞬間、指先から波紋のように広がった漆黒の概念が、空間そのものを塗り替えた。 私の纏う概念は、ただ一つ。 『あらゆる光と事象を深淵へ収束させ、消滅させる』こと。
「い、行けぇぇぇッ! 燃え尽きなさい、魔女ォォッ!!」
エレナが血を吐きながら絶叫し、神罰の劫火が私を呑み込もうと殺到する。 だが、その黄金の業火は、私に触れることすら叶わなかった。私の周囲の空間に侵入した瞬間、まるで巨大なブラックホールに引きずり込まれるかのように、熱も、光も、破壊のエネルギーすらもが、空間ごとねじ曲がり、音もなく漆黒の闇へと吸い込まれていく。
ジュッ……という、取るに足らない水滴が蒸発するような微かな音だけを残して。
「な……え……?」
エレナの口から、間の抜けた声が漏れた。 数万の狂信者の命と、エレナ自身の生命力を削って発動した、大教会の最高位たる絶対の破壊。それが、私の指先一つ、いや、私の纏う『存在』の前に、次々と虚無へと還っていくのだ。
黄金の太陽は瞬く間にしぼみ、色褪せ、そして完全に闇へと呑まれて跡形もなく消滅した。 荒野には再び、私がもたらした静寂と、深淵の冷たい夜風だけが吹き抜ける。
「貴方のちっぽけな奇跡の光など、私の深淵を照らすことすらできないわ」
絶対的な威力を誇ったはずの魔法をあっさりと無に帰され、腰を抜かしてへたり込むエレナ。その哀れな姿を冷たく見下ろしながら、私は処刑の時を告げるように漆黒の衣装を翻した。




