第68話:告発の檻
闇の触手に全身を縛られ、宙に吊るされたミチルは、どれだけ魔力を爆発させようとも一歩も動くことができなかった。深淵の魔力は彼女の隠密術式を完全に侵食し、その細い肢体をギリギリと締め上げていく。
「くっ……殺せよ! 捕まった以上、言い訳するつもりはないわ!」
ミチルは鋭い八重歯を剥き出しにし、私を憎悪の篭った瞳で睨みつけた。前世から変わらない、目的のためには手段を選ばない冷酷な暗殺者の目だ。
「殺す? いえ、そんな簡単な慈悲、貴方に与えるわけがないでしょう」
私は椅子から立ち上がり、冷たい足音を響かせながら彼女の目の前へと歩み寄った。
「リリス、ルナリエ。準備はいいわね」 「ええ、お姉様。世界中の『観客』の皆様は、すでに特等席でお待ちかねですわ」
リリスがパチンと指を鳴らす。その瞬間、ミチルの絶望に満ちた表情が、ふたたび大陸全土の通信碑と勇者連合の魔導スクリーンへと大々的に中継された。シオンに続き、今度は勇者連合の最高幹部である「影の英雄」が捕らえられた姿に、世界中の人間が息を呑む。
「な、何を……何をする気、聖良……っ!」
怯えるミチルの前に、私は一つの歪んだ『記憶結晶』を浮かび上がらせた。
「皆さんが『陰の英雄』と称えるこの少女の、真の姿を見せてあげるわ」
結晶が妖しく輝きを放ち、全世界の画面に次々と「凄惨な記録」が投影されていく。 それは、ミチルが大教会の命令でこれまで暗殺してきた、王国の不都合な真実を知る政治家や、口封じのために消された無辜の民間人たちのリスト。そして何より――二年前、私(聖良)を国家反逆罪に陥れる直前、美咲やシオン、そしてミチルが裏で交わしていた、生々しい対話の記録だった。
『これで聖良は終わりね。あの女、お人好しだから私たちが裏切るなんて夢にも思ってないわよ』 『フッ、彼女の強力な結界術式は惜しいが、大教会の権力を握るためには邪魔な太陽だからな』 『あはは、聖良ちゃん、最期まで私たちのこと信じて死んでいくのかな? 傑作だね』
結晶から再生される、ミチル自身の歪んだ嘲笑と嘲りの声が、通信碑を通じて大陸中に響き渡る。
「……あ……、あ……」
ミチルの顔から完全に血の気が引いた。 勇者連合の兵士たち、そして彼女を信じていた民衆の間から、凄まじい嫌悪と怒りの声が沸き起こる。 「おい、あれが本当に『影の勇者』の正体かよ……!」 「聖女・聖良様をハメたのは、大教会とあの裏切り者どもだったのか!」
「これで終わりよ、ミチル」
私は冷徹に告げ、彼女の足元に広がる闇の檻をさらに強固なものへと変えた。
「貴方がこれまで闇に葬ってきた人々の怨嗟と、世界からの軽蔑の中で、一生その檻の中で這い回りなさい」
世界の「陰の英雄」として称賛されていた少女の名誉は、一瞬にして消し飛び、大陸で最も醜悪な犯罪者へと堕とされた。力で命を奪うよりも遥かに重い絶望の檻に、ミチルはただガタガタと震え、涙を流すことしかできなかった。




