第59話:魔王軍直轄「平和特区」の誕生
聖騎士団の別働隊を容赦なく排除し、実家の救出を果たした翌朝。辺境伯の執務室の大きな円卓を囲み、私たちは今後のベルンシュタイン領の行く末について話し合っていた。
「聖良……いや、アリシア。王国の別働隊を全滅させた以上、もはや我が領が王国と致命的な決別を迎えたのは明白だ。遅かれ早かれ、王都は本隊を派兵し、この地を焦土にしようとするだろう」
父・ベルンシュタイン辺境伯は、深刻な表情で地図を見つめながら呟いた。王国を完全に敵に回した今、一地方の領主が抗いきれる規模ではない。
「ええ、想定の範囲内よ、お父様。だからこそ、王国が二度とこの地に手を出せないよう、前代未聞の統治プランを用意してきたわ」
私は懐から、一枚の新たな羊皮紙を取り出して机に広げた。そこには、ベルンシュタイン領の境界線を塗り替える、禍々しくも緻密な魔力の紋章が描かれていた。
「本日をもって、ベルンシュタイン領は人類の王国から完全に独立します。 Gentile な交渉などもう不要。この地を、魔王軍直轄・平和特区――『ベルンシュタイン・サンクチュアリ』とすることを宣言するわ」
「魔王軍の、直轄特区だと……!?」
父が驚愕に目を見開く。背後に控えていたルナリエとリリスは、誇らしげに胸を張った。
「これはゼノス様との間にすでに交わした盟約よ。この領域は魔王の絶対的な庇護下に置かれ、侵す者は魔王軍全軍が敵とみなす。そして何より――」
私は視線を上げ、毅然とした声で続けた。
「ここでは魔族、エルフ、ドワーフ、 Alexander らの人間が、すべて等しく『法の下に対等』として扱われます。種族間の搾取や奴隷化は一切禁じ、背く者は私の深淵の炎で灰にする。人間たちの歪んだ正義から離絶した、大陸初の中立地帯としての基盤を、この地から整備していくのよ」
かつて他種族を虐げた人間の欺瞞を、そして亜人を恐怖で縛った偽りの女王を打ち砕いてきた。その先に目指すべきは、力と法によって真の共存を強制する絶対的な聖域。
私の提示した冷徹かつ理想的なプランに、父はしばらく絶句していたが、やがてその瞳に領主としての新たな覚悟の光を宿し始めた。




