第57話:電撃の救出作戦
ベルンシュタイン辺境伯の館は、不気味なほどの静寂に包まれていた。 館を取り囲むのは、白銀の鎧に身を包んだ王国の聖騎士団・別働隊。彼らは「魔族との内通者」を捕らえるという大義名分のもと、いつでも突入できるよう抜刀し、殺気をみなぎらせていた。
「よし、時間だ。反逆者どもを一人残らず引きずり出せ!」
隊長の号令と共に騎士たちが一歩を踏み出そうとした、その瞬間。 彼らの足元から、音もなく無数の植物の蔦が這い上がり、その自由を完全に奪い去った。
「な、何だこれは!? 身体が動かん……! 伝令、すぐに王都へ報告を――」 「無駄よ。この領域の風は、すでに私の統治下にあるわ」
木々の隙間から姿を現したのは、ルナリエ率いるエルフの隠密部隊だった。彼女たちが放つ精霊の結界は、館の周囲の音や魔力の波動を完全に遮断し、王国の情報網を瞬時に遮断していた。
「敵襲だ! 総員、構え――」
混乱する聖騎士団の前に、地響きと共に現れたのは、漆黒の鎧を纏った魔王軍の精鋭たちだった。彼らが手にするのは、ガルバ鉱山のドワーフたちが魂を込めて鍛え上げた極上の武具。人間側の安物の剣など紙切れのように切り裂き、魔法の盾すら容易く打ち砕く圧倒的な強度が、聖騎士団の防衛線を文字通り一瞬で蹂躙していく。
「馬鹿な……! なぜこんな辺境に、魔王軍の主力が配置されているんだ!」
悲鳴と怒号が飛び交う外回りを余所に、館の正面扉が内側から吹き飛んだ。
濃密な深淵の闇を纏い、悠然とエントランスへ足を踏み入れたのは、私とリリスだ。
「さあ、お姉様。お邪魔虫たちのお掃除を始めましょう」
リリスが妖しく指先を振るうと、館内に配備されていた騎士たちが突如として狂乱し、互いに斬り合いを始めた。彼女の精神攪乱魔法の前に、強固なはずの聖騎士の精神など、ただの脆い玩具に過ぎない。
私は行く手を阻む騎士たちの喉元を、闇の触手で容赦なく締め上げ、一人、また一人と床へ転がしていく。一歩、また一歩と中央階段を上る私の足音は、侵略者たちにとって死神の秒読みそのものだった。
「ひっ、化け物め……!」
怯える騎士の胸を闇の衝撃波で貫き、私は辺境伯の執務室の扉を静かに開け放った。
部屋の奥では、剣を構えて家族を庇う父・ベルンシュタイン辺境伯と、怯える母、そして妹が固まって座っていた。彼らは王国の騎士ではなく、禍々しい魔族を従えて現れた「深淵の魔女」の姿に、息を呑んで戦慄している。
「……遅くなってごめんなさい。もう大丈夫よ」
私は溢れ出していた闇の魔力をすっと収め、かつての我が家であるその部屋を見渡した。王国の魔手から、私の大切な家族の身柄を、今度こそ完全に確保した瞬間だった。




