第55話:解放の鉄槌
砕け散った光の破片が煤のように宙に溶け、ガルバ鉱山の中央広場には、ただ重苦しい静寂だけが残されていた。
その中心で、アイラはズタズタになった鎧のまま、呆然と地面に両手をついていた。かつてあれほど誇らしげに掲げていた巨大なタワーシールドは、今や見る影もない鉄くずとなって足元に転がっている。
「……終わりよ、蘭」
私が冷たく見下ろすと、ルナリエとリリスが音もなく彼女の左右に並び、その身を漆黒の魔力紐で強固に拘束した。
「嘘よ……こんなの、嘘……。私の正義が、私の不落の盾が、魔族ごときに……」
アイラは狂ったように首を振り、涙と泥にまみれた顔で呟き続ける。だが、どれだけ現実を拒絶しようとも、彼女のプライドを支えていた絶対の壁は二度と戻らない。自らの欺瞞ごと打ち砕かれた彼女は、そのまま抵抗する力も残っておらず、魔王軍の兵士たちによって引きずられていった。
要塞の各所からは、人間の騎士たちが武器を捨てて降伏する音が響き渡る。 それと同時に、坑道の奥から、鉄鎖を解き放たれたドワーフたちが一斉に姿を現した。
「おお……本当に、あの化け物じみた盾が、跡形もなく消えてやがる……」
最前線に立つドワーフの長老が、ひび割れた地面と、私の手に残る微かな闇の残滓を交互に見つめ、深く息を吐き出した。彼は手にした巨大な鉄槌を地面に置くと、私に向き直り、その分厚い胸に拳を当てて深く頭を垂れた。
「アリシア殿。……あんたの圧倒的な力、そして何より、俺たちの魂である『鉄』と『誇り』を奴らの侵略から守ってくれたその姿勢……見事だった。ドワーフの長として、心からの感謝を」
「感謝には及ばないわ、長老。私はただ、私の邪魔をする目障りな壁を壊しただけよ」
「ははっ、手厳しいな。だが、甘い嘘で縛る人間どもより、あんたのような苛烈で一本芯の通った強者の方が、俺たち職人にとってはよっぽど信用できる」
長老は顔を上げ、不敵な、しかし確かな信頼の宿った笑みを浮かべた。
「約束しよう。ガルバ鉱山は本日をもって、魔王軍、そしてあんたの完全な同盟者となる。俺たちの命が続く限り、あんたがたの軍勢には、人間どもの安物の鎧など紙切れのように切り裂く『極上の武具』を提供し続けてやるさ」
「最高の鍛冶技術、確かに受け取ったわ」
長老の言葉に応じるように、背後でルナリエが満足げに頷き、リリスが妖しく微笑む。
カレンのいたエルフの里に続き、アイラの支配していたドワーフの鉱山をも完全に掌握した。私の陣営には今、かつての王国を震撼させるに足る、大陸最高峰の鉄工技術と武装が加わったのだ。
遠くに見える王国の空を睨み据えながら、私の胸の中で、次なる復讐の炎が静かに、けれど激しく燃え上がっていた。




