第53話:激突、盾と矛
地響きと共に要塞の至る所から黒煙が吹き上がり、武器を手にしたドワーフたちの怒号が響き渡る。地下からの蜂起とルナリエたちの襲撃により、不落を誇った聖騎士団の防衛網は内側から瓦解しつつあった。
その大混乱の渦中、要塞の中央広場で、私はアイラと対峙していた。
「……身の程を知れ、魔族どもがッ!」
アイラが巨大なタワーシールドを地面に叩きつける。凄まじい衝撃波が走り、近づこうとした魔族の兵たちが弾き飛ばされた。しかし、私はその衝撃を闇の衣で容易く受け流し、静かに歩みを進める。
「周囲を見なさい、アイラ。貴女の言う『正義の要塞』は、もう足元から崩れているわよ」
私の冷徹な声に、アイラは激しく肩を揺らした。彼女の白銀の鎧には、飛び散ったドワーフたちの血と煤がこびりついている。光の壁の向こう側で、彼女の瞳はかつてないほどの狂気と動揺に濁っていた。
「黙れ……黙れ、黙れ! 私は間違っていない! 私は神の正義の騎士、悪を挫く不落の盾だ!」
「本当にそうかしら? 貴女のその頑丈な盾は、目の前の現実から目を背けるためのただの『目隠し』。前世で私を見捨てた罪の意識から、必死に逃げ回っているだけの臆病者の壁よ」
「違うっ!!」
私の言葉が、アイラの心の最も深い傷を正確に抉った。 アイラは顔を真っ赤に腫らし、自らの罪の意識を裏返したような、悲痛な絶叫を上げた。
「聖良が死んだのは、あいつが弱かったからだ! 聖女のくせに魔族の不意打ちを喰らうような、あいつが、あいつの弱さが悪かったんだ! 私は私の義務を果たした! だから私は、絶対に間違ってなんかいないぁぁぁ!!」
その叫びは、自分自身に「お前は悪くない」と言い聞かせるための、醜い自己弁護の咆哮だった。
「神よ、我が正しさを証明せよ! 『イージス・ウォール・マキシマム(絶対神聖不落結界)』!!」
アイラが自身の全魔力、そして生命力すらも削りながら放った光は、これまでにない密度で収束していった。彼女の周囲に、幾重にも重なる幾何学的な光の防壁が展開される。触れるものすべてを消滅させ、あらゆる概念の攻撃すらも跳ね返す、彼女の歪んだ信念が具現化した最大級の防御陣。
「……そう。そうやって最後まで自分の正しさを疑えないのね、蘭」
私は右手を天へと掲げた。 私の指先から溢れ出すのは、昨晩の調律によって完成した、光を一切通さない完全なる「無」の闇。
「貴女のその硬い盾が、私の絶望にどこまで耐えられるか、試してあげるわ」
今、前世の因縁を乗せた、最強の「盾」と最強の「矛」が正面から激突する。




