第51話:誇り高き鉄工たち
地響きのような不協和音が、暗い地下坑道に響き渡っていた。
カレンの張った光の結界『イージス・ウォール』の真下。要塞の最下層に広がるガルバ鉱山の心臓部では、無数のドワーフたちが重い鉄格子と鎖に繋がれ、休むことなくツルハシを振るわされていた。聖騎士団の見張りたちが鞭を鳴らし、容赦のない罵声を浴びせる。
その薄暗い岩陰の影が、不自然に揺らめいた。
「……ふん、脳みそまで筋肉で詰まってそうな騎士たちの割には、ずいぶんと効率的な奴隷の使い方をするのね」
影から音もなく這い出たのは、リリスだった。彼女は潜入任務を帯び、自らの気配を完全に遮断して地下へと足を踏み入れていた。
「おい、新入り。手を休めるな」
見張りの目を盗み、リリスは一際巨大な鉄槌を握りしめたまま、じっと機会をうかがっている老ドワーフに近づいた。この鉱山の職人たちを束ねる長老だ。彼の背中には、酷使されたことによる無数の傷が刻まれていたが、その瞳の奥にある頑固な光までは消えていなかった。
「……あんた、見かけない顔だな。魔族の小娘が、こんな地獄に何の用だ」
長老はツルハシを岩に打ち付ける音に紛れ込ませ、地を這うような低い声でリリスに問いかけた。
「アリシアお姉様の命よ。貴方たちをこの檻から解放しにきたわ」
「アリシア……? 悪名高き魔王軍の特務官か。どうせ俺たちを別の檻に移し替えるつもりだろう。だがな、ドワーフの誇りをナメるんじゃねえ。俺たちの魂であるこの鉄を、奴らの侵略の道具にさせるくらいなら、ここで干からびた方がマシだ」
「あら、頑固一徹ね。でも、お姉様が求めているのは奴隷の鉄じゃないわ。貴方たちの『意志』よ。……あの傲慢な重騎士の盾を、内側から叩き壊すためのね」
リリスが不敵に微笑んだ瞬間、地上のアリシアから、作戦開始の合図となる微かな魔力の脈動が地下へと伝わってきた。
「——そこまでよ、人間のクズども」
リリスが指先を向けた瞬間、通路にいた数人の聖騎士たちの目が、突如として虚ろになった。リリスの精神攪乱魔法が、彼らの脳内に「お互いが反乱を起こしたドワーフに見える」幻覚を植え付けたのだ。
「な、貴様! 反逆するか!」「何を言う、お前こそ!」 見張りたちが同士討ちを始め、地下は一気に大混乱に陥る。




