第47話:女王の陥落とルナリエの決意
塔の床に這いつくばるカレンは、信じられないという顔でルナリエを、そしてエルフたちを見上げていた。
「……うそ。ありえないわ。ルナリエ、貴女は私の騎士でしょう? 忠実な、私だけの……! 跪く相手が違うじゃない!」
カレンの金切り声が虚しく響く。しかし、ルナリエは彼女に視線を向けることすらしない。ルナリエの弓は、もはや私ではなく、醜く取り乱した「偽りの女王」へと向けられていた。
「カレン様。……いいえ、カレン。貴女が私たちに与えたのは救いではなく、魂の死でした。私は、エルフの誇りにかけて、貴女をこの森の主とは認めない」
「な、なんですって!? 私がいなければ、貴女たちは今頃王国に狩られていたのよ! 感謝しなさいよ!」
「……その恐怖を利用して、私たちを人形にした罪は重いわ。カレン」
私はカレンの髪を掴み、強引に顔を上げさせた。彼女の瞳に、私の冷徹な眼差しが突き刺さる。
「……もう、貴女を崇める観客はどこにもいない。自分の足で立ち、自分の意志で戦う者たちの中に、貴女のような『虚飾の女王』の居場所はないのよ」
「ひっ……! 嫌、助けて……死にたくない、死にたくないわ!」
「安心しなさい。殺しはしない。……死よりも残酷な現実を、その目に焼き付けてあげる」
私はカレンの魔力を封印し、彼女を塔から突き出した。魔法を失い、ただの人間となった彼女を、かつて虐げられたエルフたちの冷ややかな視線が迎える。かつての女王は、今や森を汚した異分子として、同胞たちの手によって追放の路を辿ることとなった。
夕刻。 里の再建が始まる中、ルナリエは私の前に立ち、深々と頭を垂れた。
「アリシア殿。……私は、貴女の強さに救われました。そして、貴女が抱えるその計り知れない闇に……言いようのない敬意を抱いています」
「敬意? 私は魔王の使いよ。貴女たちから見れば、死神も同然のはずだわ」
「ええ。ですが、光を謳いながら私たちを壊した者より、闇を背負いながら『自分たちの足で立て』と告げた貴女の方が、ずっと誠実に見えるのです」
ルナリエは背中の長弓を解き、私の足元に置いた。
「私は、貴女の隣で、真の共存が成るかを見届けたい。……このルナリエの命、貴女の盾として捧げることをお許しください」
「……お姉様。また一人、奇特な信者が増えましたね」
背後でリリスが、面白くなさそうに、けれどどこか楽しげに口角を上げた。 狂信を捧げるリリスと、忠義を誓うルナリエ。
正反対の二人を従え、私はかつての仲間が残した残骸を後にした。 私の復讐は、まだ始まったばかりだ。




