第45話:偽りの女王の崩壊
漆黒の衝撃波が里を駆け抜けた瞬間、狂奔していたエルフたちが糸の切れた人形のようにその場に頽れた。 彼らの首筋に浮かんでいた桃色の紋章が、煤のようにボロボロと剥がれ落ち、森に本来の清浄な静寂が戻る。
「な……っ!? 私の『救済の檻』が……書き換えられた!? そんな、ありえないわ! 聖属性の術式を、あんな禍々しい闇で上書きするなんて!」
塔の上で、カレンが顔を真っ赤にして絶叫した。 彼女の誇りだった「楽園」は、今や意識を失った同胞たちが横たわる、静かな森へと逆戻りしている。
「……上書きしたのではないわ。貴女が彼らの魂に植え付けた『偽りの幸福』を、私の絶望で中和してあげたのよ。猛毒を薄めるには、より強い毒が必要でしょう?」
私は倒れたエルフたちを跨ぎ、一歩ずつ、カレンのいる塔へと歩みを進める。 ルナリエが朦朧としながらも顔を上げ、信じられないものを見るかのように私を見つめていた。
「どうして……。どうして、魔族の側にいる貴女が、私たちを助けるの……?」
「勘違いしないで。助けたのではないわ。……私はただ、あんな薄っぺらな女に、私の故郷と同じ『嘘の平和』を作られるのが我慢ならなかっただけよ」
塔の階段を、私の足音が冷たく鳴らしながら上っていく。 逃げ場を失ったカレンは、かつて私を裏切った時と同じ、醜い傲慢さを剥き出しにして光の剣を形成した。
「来ないで! 私は女王よ! この世界で、私だけがみんなを幸せにできるの! 貴女みたいな死に損ないの魔女に、私の正しさを否定させてたまるもんですか!」
「正しさ……? 笑わせないで、花音」
私はカレンが放った光の礫を、右手の平で握りつぶした。 前世、私を後ろから貫いたあの「聖なる光」。今の私には、それはただの、自分を飾り立てるためだけの安っぽいアクセサリーにしか見えなかった。
「貴女はエルフを救ったんじゃない。自分を崇めるための『生きた人形』が欲しかっただけ。……貴女の聖なる力は、誰かのために振るわれることは一度もなかった。ただ、自分を可愛く見せるための照明だったのよ」
「うるさい! 死ね! 死んでよ、聖良ぁぁ!!」
カレンが半狂乱で剣を振り下ろす。 私はそれを避けることすらせず、彼女の喉元を、冷たい指先でそっと捉えた。




