第44話:洗脳の檻
「……うるさい、うるさいわ! 私を惑わすな、この魔女め!」
ルナリエの絶叫と共に、放たれた矢が嵐のような旋風を巻き起こす。しかし、私はその暴風を割るようにして、彼女の至近距離まで一気に肉薄した。
「ぐっ……!? 近い……!」
弓の間合いを潰されたルナリエが、短剣を抜こうと腰に手をやる。だが、それよりも早く、私の指先が彼女の額に浮かぶ「女王の紋章」を叩いた。
「『深淵の楔』」
私の闇の魔力が、カレンの甘ったるい精神魔術を内側から食い破る。 「あ、が……っ!」 ルナリエの瞳の桃色の霧が激しく揺らぎ、彼女は膝から崩れ落ちた。
「——ちょっと! 何をしているのよ、役立たず!」
塔の上から見下ろしていたカレンが、不快そうに扇を叩きつける。彼女は、自慢の「最高傑作」であるルナリエが揺らいだことに、我慢がならないようだった。
「いいわ、聖良。そこまで言うなら、この里の全員と心中させてあげる。……私の愛を、全身で浴びなさい!」
カレンが両手を広げると、里全体を覆う巨大な魔法陣が展開された。 『救済の檻』。 里にいた数百人のエルフたちが、一斉に獣のような咆哮を上げ、理性を失った形相でこちらへ走り出す。
「お姉様! 数が多すぎるわ! このままじゃ踏み潰される!」
リリスが叫び、精神障壁を展開する。だが、洗脳によって「痛覚」すら失ったエルフたちは、自分の骨が折れるのも構わず、障壁に体をぶつけてくる。
「アリシア様……逃げて……。私たちは、もう……」
意識を取り戻しかけたルナリエが、血を吐きながら私の裾を掴む。 里の同胞たちが怪物のように変貌していく光景に、彼女の心は絶望に染まりかけていた。
「逃げる? まさか。……多種族が共に生きるということは、意志を奪い、人形にすることではないわ。カレン」
私は一歩前へ出た。 私の周囲に、闇の魔力が渦を巻き、巨大な蓮の花のように展開していく。
「リリス。貴女の精神介入魔法を、私の魔力に乗せて増幅しなさい。……この偽りの檻を、内側から爆破するわよ」
「……! はい、喜んで!」
リリスが私の背中に手を添え、全魔力を注ぎ込む。 私が前世で「聖女」として学んだ精神浄化の術式に、今世の「深淵」の爆発力を加えた、前代未聞の広域魔法。
「『静寂なる深淵の夜』!!」
私の足元から放たれた漆黒の衝撃波が、押し寄せるエルフたちの波を飲み込んでいった。




