第42話:再会、そして「救済」の正体
精霊の森の奥深く。本来なら部外者を拒むはずの古の結界は、今の私にとっては薄いカーテンのようなものだった。
「あら……? 結界を抜けた先に広がるのが、これかしら」
森の深部、エルフの里に足を踏み入れたリリスが、呆れたように声を漏らす。 そこには、かつての「精霊の住処」としての静謐さは微塵もなかった。至る所に極彩色の花々が咲き乱れ、エルフたちは陶酔したような笑みを浮かべて、歌い、踊っている。
「お姉様、見て。あの子たち、足から血を流しているのに踊り続けてるわ。……精神が肉体の悲鳴を遮断しているのね」
リリスの指摘通りだった。 労働に明け暮れる者も、武器を磨く者も、一様に瞳には光がなく、ただ機械的に「幸せな光景」を演じさせられている。その中心に、白亜の塔がそびえ立っていた。
「——誰かしら。私の楽園に、許可なく土足で踏み込んでくる不届き者は」
塔のバルコニーから、光り輝くドレスを纏った女が舞い降りた。 金色の髪をなびかせ、背中には透明な羽のような魔力の残滓。かつての面影を色濃く残した、転生者カレン(花音)だ。
「……お久しぶり。花音、いえ、今はカレン様、だったかしら」
私が静かに名を呼ぶと、カレンの完璧な微笑みが一瞬だけピクリと歪んだ。
「……その声、その不遜な態度。……まさか、聖良!? 生きていたの? あの時、心臓を貫かれて死んだはずじゃ……!」
「ええ、死んだわよ。でも、貴女たちが作り上げたこの醜悪な世界を見届けるまでは、地獄の底も居心地が悪くてね」
カレンはすぐに動揺を隠し、大仰に両手を広げて周囲のエルフたちを指し示した。
「まあ、相変わらず可愛げのないこと。でも見てちょうだい、聖良。私のこの素晴らしい国を。誰も争わず、誰も悲しまない。私が彼らの『自由』という名の重荷を肩代わりしてあげているの。これこそが、私たちが目指した真の救済だと思わない?」
「……相変わらずね。貴女の言う『平和』は、自分を崇める観客を用意するための舞台装置に過ぎない。エルフたちを洗脳して、彼らの魂を削りながら自分の虚栄心を満たす……。反吐が出るわ」
「ふふ、負け惜しみね。今の私はこの森の神も同義。逆らう者は、一人もいないわ」
カレンが指を鳴らすと、周囲で踊っていたエルフたちが一斉に動きを止め、無機質な視線を私に向けた。その最前線、一際鋭い殺気を放つ一人の女エルフが、背中の長弓に手をかける。
「……ルナリエ。私の楽園を乱す不純物を、排除してちょうだい」
カレンの命令に従い、エルフの守護者と呼ばれたその少女が、私に向けてつがえた矢を引き絞った。




