第4話:歪んだ鏡
「ねえ、聖良。……どうしてそんなに平気な顔をしていられるの?」
拠点の豪華なリビング。パッキングの手を止めた美咲が、鋭い、どこか苛立ちを含んだ視線を聖良に向けた。
別荘へ向かう準備を進める四人と、ボロボロの衣装を魔法で繕う聖良。その対照的な光景が、美咲の神経を逆撫でしているようだった。
「えっ……? 平気なんて、そんなことないよ。私も、みんなと一緒で怖いし、悲しいし……」
聖良が繕う手を止めて顔を上げると、美咲はあからさまに鼻で笑った。
「嘘よ。あなたは自分が『正しい』と思っているから、そんな風に毅然としていられるの。私たちが世論を怖がって逃げ出そうとしている横で、一人でパトロールに行って、傷だらけで帰ってきて……。それ、当てつけのつもり?」
「そんな……当てつけなんて、一度も思ったことない。私はただ、誰かが行かないと街が——」
「その『誰か』が、どうしていつもあなたなわけ?」
美咲が詰め寄る。後ろで詩織や蘭、未来も、気まずそうに、しかしどこか同意するような冷ややかな目でこちらを見ていた。
「あなたが一人で全部背負い込んで、無私無欲なリーダーを演じるたびに、私たちは自分がどれだけ卑怯で、浅ましい人間か突きつけられている気分になるのよ。あなたが正しいほど、私たちは惨めになるの。わかる?」
「……!」
聖良は言葉を失った。 みんなが傷つかないように。みんなが笑っていられるように。そう願って引き受けてきた「汚れ役」が、仲間たちの目には、彼女たちを裁くための「鏡」として映っていたのだ。
「聖良ちゃんさ、本当は心の中で私たちを見下してるでしょ?」
未来が、鏡越しにこちらを睨みつける。
「『自分はこんなに頑張ってるのに、あいつらはチャラチャラして』って。……正直、その『いい子ちゃん』なオーラが、もう息苦しいんだよね」
「違う……違うの! 私はただ、みんなの力になりたくて……!」
「だったら、その『最強の力』に見合うだけの責任を取りなさいよ」
美咲が冷たく言い放つ。
「あなたは強すぎる。だから、一人でいても平気だし、一人で戦っても死なない。でも私たちは違う。私たちを守るのがあなたの義務でしょう? だったら、私たちがこれ以上傷つかないように、黙って一人で戦っていればいいのよ」
かつて「君にしかできない」と言ってくれた光の使者の言葉。 今はそれが、仲間たちの口から放たれる「搾取の免罪符」へと成り下がっていた。
「……ごめん。……ごめんね、みんな」
聖良は、それ以上何も言えなかった。 自分が善意で行ってきたことが、仲間の歪んだ嫉妬と憎悪を育てていた。その事実に、胸が張り裂けそうだった。
数時間後、四人は高級車に乗り込み、街を去っていった。 「あー、やっと解放される! 聖良、あとの報告とかよろしくね!」 窓から手を振る彼女たちの笑顔に、かつての純粋な友情の面影はどこにもなかった。
独り残された、広すぎる拠点。 聖良は、美咲が投げ捨てた雑誌を拾い上げた。 表紙には、加工で完璧に修正された「エトワール」の四人が、仲睦まじく手を繋いで笑っている。そこには、背後から彼女たちを支え続けた聖良の姿は、影さえも描かれていない。
「……私が、間違っていたのかな」
ぽつりと漏らした言葉は、誰にも届かない。 聖良は、震える手で再び針と糸を持った。 魔法の魔力さえ惜しいほど、彼女の心は枯れ果てようとしていた。
裏切りの火種は、もはや消しようのないほど大きく、醜く燃え広がっていた。 そして、その火が「外神」という最悪の風に煽られるあの日まで、カウントダウンは続いていた。




