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『裏切りの魔法少女、魔王軍で真の救世主となる』  作者: たい丸
【第1部:偽りの光と、決別の宣戦布告】

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第17話:踏みにじられた「愛の証」

王都近郊の討伐遠征も最終日を迎えていた。 エドワード王子の「偽りの武功」は積み上がり、軍の中では彼を次期国王に推す声さえ出始めていた。

「おい、無能。次の獲物はどこだ。僕の評価をもっと上げられるような、デカい奴を連れてこい」

天幕の中で、エドワードはふんぞり返りながらワインを煽っていた。 私は透明化を解き、泥と返り血で汚れた体のまま、その前に立っていた。三日間の不眠不休の戦闘で、意識は朦朧としている。それでも私は、胸元にある「膨らみ」だけを心の支えにしていた。

ベルンシュタイン領を去る日、父と母が持たせてくれた手作りのお守り。 中には領地のハーブと、二人の祈りが込められている。これに触れている間だけは、自分が「便利な道具」ではなく「アリシア」であることを思い出せた。

「……殿下、次の群れは北にいます。ですが、その前に少しだけ、休息を……」

「黙れ。お前が休む一秒が、僕の輝かしい時間の損失なんだよ」

エドワードはいら立ち紛れに、私の胸元から覗いていたお守りの紐を、乱暴にひったくった。

「あ……! 返してください、それは……!」

「なんだ、この薄汚いボロ布は。没落貴族の家宝か? 泥の匂いがして反吐が出る」

エドワードは、お守りを指先で摘まみ、ゴミを見るような目で眺めた。

「返してください……お願いです、それだけは……」

私が必死に手を伸ばした瞬間、エドワードは嘲笑を浮かべ、そのお守りを地面に叩きつけた。それだけではない。彼は贅を尽くした自慢の革靴で、それを執拗に踏みにじり、泥の中にめり込ませた。

「こんなゴミに執着するから、お前は無能なんだ。ベルンシュタインの愛? 笑わせるな。あんな貧乏人の感情なんて、この世で一番価値のないゴミだ」

エドワードは傍らにあった燭台を取り、泥まみれになったお守りに火を点けた。 小さな、けれど温かかったはずの家族の愛の証が、黒い煙を上げて燃えていく。

「……あ……」

声が出なかった。 前世で、自分の尊厳をどれだけ奪われても、私は耐えられた。 「最強だから」「正義だから」という言葉で自分を麻痺させ、痛みを無視できた。

けれど、これは違う。 これは、私が命をかけても守ると誓った、あのスープの温もりの結晶だ。 父が畑を耕し、母が微笑む、あの小さな世界の輝きだ。

それを、この男は「ゴミ」と呼び、焼き捨てた。

「……はは……あはは……」

私の口から、乾いた笑いが漏れた。 エドワードが「気味が悪い」と顔を顰める。

「なんだ、壊れたか? ちょうどいい、壊れた道具の方が使いやすいからな」

王子の言葉は、もう私の耳には届かなかった。 私の内側で、かつてないほどの巨大な闇の魔力が、静かに、そして激しく爆発した。

ブレスレットの「枷」が、私の膨大な魔力に耐えきれず、ミシミシと音を立ててひび割れていく。

(……ああ、そう。正義なんて、いらなかったんだ)

前世の私が最期に抱いた憎悪が、今世で手に入れた純愛と混ざり合い、真っ黒な「決意」へと昇華される。

「……エドワード殿下。建国祭での『公開討伐』……楽しみにしていてくださいね」

私はうつむいたまま、燃えカスの灰をそっと掌に収めた。 声は低く、凍りつくように冷たい。

「貴方の望む、最高の『光の演出』を……私が、完遂して差し上げますわ」

顔を上げた私の瞳からは、感情が一切消えていた。 そこにあるのは、獲物を仕留める直前の、冷酷な捕食者の眼差し。

家族の愛を踏みにじった報いは、死よりも残酷な絶望で支払ってもらう。 建国祭という、この国で最も華やかな舞台が、一人の王子の処刑場へと変わるまで、あと三日。


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