第2章の23 メイドイン匠
ショートショート形式でお送りいたします。
朝の学校。
秀斗は窓際の席を陣取って、ペンをくるくると回していた。窓際といってもそれは窓ではなくただの穴なのだが……。
そこにあくびを噛み殺しながら勇輝が近づく。
「おはよ~。あれ? 秀斗が文房具持ってんの初めて見た」
「ど~だ? キマってんだろ?」
そう言って見せるペン回しは無駄にうまい。
「似あわないけどね」
「おい……ま、いいけどな。これペンじゃねぇし」
秀斗はニタッと笑ってペンを勇輝の前で振った。それはどう見ても二色ボールペンにしか見えない。
「どーいう意味?」
「この通り書けるけど」
とさらさらと机にインクで文字を刻む。見にくいが、赤い文字が見てとれる。
「……勇輝のばーか。あ? 秀斗のバーカ」
「ムキになんなって」
可愛い奴だな、と言わないのは、さすがに秀斗も学習したらしい。あのアッパーはなかなか痛かった。
「ここを回して、この赤印どうしを合わせて」
秀斗はグリップの部分を回して、赤い印を合わせた。赤印がハートなのはつっこまないほうがいいのだろう。
「そしてぐっと押しこむと」
「押し込むと?」
ノックのところがピカピカと点滅する。
勇輝はどこに電球が入っているのだろうと疑問に思ったが、そんなものは次の言葉で吹き飛んだ。
「爆発する」
「は?」
勇輝はまたまた~と秀斗の肩を叩く。
「見てろよ?」
と、秀斗はそれを窓から放り投げた。窓の下はグラウンドだ。
数秒後、光とともに爆発音が響く。
勇輝はぽかーんとその光景を見ていた。
「……クレーター」
グラウンドに開いた丸い穴。砂煙がもうもうと舞っている。音に驚いたクラスの不良は花火か? と空を見ていた。
「匠が学校に行くならこれぐらい持って行けってさ。試作品だってよ」
「いや……学校に爆弾はいらないと思う」
カモフラージュをするなら、本物そっくりに。
細部へのこだわりと確かな威力。
それが匠クオリティー。
放課後の如月。
癒慰が自室で小躍りしながら服をとっかえひっかえしていた。
服と言っても、クローゼットに吊られているのは変装服の類なのだが……。
「迷うわね~。この可憐なお嬢様もいいけど、深窓の姫君も捨てがたいわね。ここはむしろメイド? ねぇどう思う?」
手当たりしだいに服を出しては見比べていく、それはドレスであったりメイド服であったり、巫女装属であったり……。
振り返った先にあるのは植木鉢。そこに植わっている植物の茎が右に左にと揺れていた。
癒慰の属性は土であり、植物を育てるのが趣味なのだ。たとえそれが動こうとも、植物は植物である。
「メイド? うん、やっぱりそうよね。一つ目は決まりっと、次のお色直しは……」
癒慰はメイド服をベッドに置いて、クローゼットの奥へと進む。その広さはもはや部屋と言っても良かった。
「バニーガール? 猫耳? はぁ、何でも似合っちゃう。あ、セーラー服もある」
結局、猫娘セットと魔女っ子セットを持ってクローゼットを出る。
それらをベッドの上に広げて置く。
「あとはネグリジェね」
癒慰は別のクローゼットを開けた。そこにあるのは全てネグリジェ。きわどいシースルーからフリフリの可愛いのまで種類は多様だ。
「この水玉もいいし、フリルもリボンもいいわね。で、も、やっぱりベビードールよね!」
寝苦しそうなほどフリルがついたネグリジェを引っ張りだし、ベッドの上に置いた。
ベッドの上には四つの衣装。一度にそれを見ると少々うなされそうだ。
「は~、いいわぁ。勇輝君って罪ねぇ」
妄想の被害者が、現実の被害者となる日はそう遠くはない。
変装用具はおまかせあれ。どんな制服も細部まで再現し、全ての女の子と男の子を可愛く変身させます。
密かに人気、匠ブランド。可愛さで女の子の心を掴む。
それも匠クオリティー。
夜の裏技術研究所。
匠は徹夜七日目を迎えていた。そこに忍び寄る影。
「た、く、み」
「うわっと、びっくりさせないでくださいよ美月さん……」
美月は匠の作業を興味深そうに覗いたが、すっとズボンのポケットに手を入れると写真を取り出した。
「この子をモデルにして人形を作ってくれ。もちろん細部までリアルにね」
「もうそれ、フィギアですが……」
「かまわないよ。そっくりにつくってくれ」
軽く溜息をついて、その写真を見る。
写真に写る美少女はやんわりと笑っている。
「俺が言うのもなんですが。……変態ですよ?」
「愛だよ、愛」
「しつこいと嫌われますよ?」
「いいから、作ってくれ」
写真を押し付けると美月はさっさと研究所から出ていった。その写真を見て、匠は頭をかいた。
美月の依頼はこの写真の女の子にバレるとここが水没する危険がある。
「はぁ……こういう依頼が来るから、俺が変態だって疑われるんだ」
細密な再現は人型でも可能。お客の望みは最大限に実現する。それも匠クオリィティー。
「まぁ、優先順位はこっちかな」
匠は作業机に座り直し、目の前の写真を見ながら紙に線を足していく。
壁に貼られている写真は勇輝のものだ。
顔のアップと全身の写真。
会った時に隠しカメラで撮っておいたものだ。
レンズは白衣のボタン。シャッターは左手に嵌めた指輪の小石だ。ピントがずれるのが難点だが、なかなかうまく撮れた。
さすがに弥生にはバレ、彼女を取ることは出来なかった。ついでと言わんばかりにあのどさくさで両方真っ二つにされたのだが……。
「う~ん。ふわっと裾を広げるのもいいけど、やっぱりスタイリッシュにいくか。泣かれても困るしね。……あ、いや、それはそれで」
匠の足もとには段ボール箱が二つ。大きいものと小さいもの。思いつくものがそこに放り込まれ、大きい方はもういっぱいになっている。
会ったばかりの少年を想いながら、ペンを滑らせる。
「よし、これでいこう。喜んでくれるような服を作らないとね」
匠はペンをくるりと回し、服のデザインを決めた。
明日からは服を作る作業だ。
オーダーメイドもメイドイン匠。
服はその人の特徴に合わせてそれぞれ違う。
相手のことを考えてつくる。
それが一番の匠クオリティー。
少し短めです。
もともと独立の短編だったのですが、(ネタは秀斗オンリー)いろいろつなげて一つにしました。実際授業中にペンを見ながら爆弾にならんかと考えていた……。
そして話の種をまきまき。花開くのは、すぐ先か、まだ先か、咲かないか。
それは作者にもわかりません。
ひとまず。変態と間違われそうな匠ではなく。
職人としての匠を(え、まだ変態?)出してみたのですが……。
いかがでした?
さて話は変わり、もうすぐバレンタインですね。
書けたら短編として神名メンバーでバレンタインをしたいです。
本編の軸とはずれるので番外編となりますが、たぶん……載せられるかな。
まだ白紙だけど。
では、次回、もしかしたらバレンタインデーに。




