第2章の6 号外~号外だよ~
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勇輝がしゅんと項垂れていると、荒々しく扉が開かれた。
音に釣られて二人は視線をそちらに向ける。
「た、大変よ!」
そこにいたのは癒慰だった。
走って来たのか息が上がっており、表情は硬い。ふだんの和み系の彼女からは考えられない表情だ。
「何かあったのか?」
秀斗が怪訝そうに訊いた。
癒慰はソファーの間にある小さな机に持っていた紙を叩きつけた。
それはやや薄いが新聞のようだ。
「まずいことになったわ……」
二人はその紙面を覗き込む。
目立つように見出しもついており、新聞社名はないが普段目にするものと大した違いはない。
「死堅牢如月が復活」
秀斗が読んだのは一番大きな見出しだ。
「その影には謎の少年が……あれ?」
そして勇輝が読んだのが次に大きな見出しで、ご丁寧にすぐ下に写真が添えてある。
可愛い男の子の振り向きざまの写真だった。
「――これ俺?」
指をさして確認する。
(俺、新聞に載るようなことやったっけ?)
不思議に思いつつも勇輝はその記事に目を通す。
内容は昂乱を捕まえたことにより如月が正式に復活したということと、それにある男子高校生が協力したというものだった。全て事実だ。
「勇輝……さっき言ったことなしな」
その記事を読んで秀斗は呻くように言った。
「え?」
「弥生から逃げろって話はなし。どうにかしてあいつに人間《お前》の存在を認めてもらえ」
「なんで?」
(この記事に載ったからなんなんだ? 少し悪名が上がっただけじゃないか)
「裏社会にお前の存在が広まった以上、お前にとばっちりがいく可能性が高けぇ。自慢じゃねぇけど俺
らは恨まれまくってるからよ」
過去の因縁だけではない。この機に四剣琅を打ち取ってハクをつけようとするごろつきもでてくるのだ。
だろーな、という言葉は飲み込んで言葉の続きを待つ。
「勇輝、俺らの仲間になれ」
「はい?」
全く話の筋が見えていない勇輝に、見かねた癒慰が説明を加える。
「勇輝君、今のままでは殺されてしまうわ。それを回避するためにも龍牙隊に入ってほしいの」
勇輝は間抜けな顔で癒慰を見返した。殺されると言われても平和な日本、まったく真実味がない。
「龍牙隊の名を持っていれば襲撃の数はかなり減るし、私たちも隊外の人間では思うように動けないの」
癒慰が勇輝に向ける眼差しは真剣で、勇輝はじわじわと不安になる。
「殴り込もうにも大義名分がいるからな」
「それで、弥生ちゃんに認めてもらわないといけないの」
二人はどんどん話を進めていく。ついていけなくなった勇輝が慌てて制止した。
「ちょっと待って。もっとわかりやすく」
癒慰はため息を喉元ぎりぎりで飲み込むと、ゆっくりと話しだした。気は急くが、勇輝が理解しなければ話は進まない。
「あのね、この新聞は裏社会にしか発行されない特殊なものなの。影響だけ言えばやくざに絡まれるわ」
「あ……」
勇輝は短く声を上げた。思い当たる節がかなりある。
「もう絡まれたのね……仲間に入るのはそういうのを防ぐためでもあるの」
「でもなんで弥生が出てくるんだ?」
「弥生が俺らのリーダーだからだ」
(なんだって?)
「お前らのリーダーって弥生だったの?」
勇輝はてっきり錬魔か零華だと思っていた。弥生はあまり発言をしなかったうえ、彼らをまとめたところも見たことがなかったからだ。
「そ、俺らの中で一番強ぇから。そんで俺が副リーダー」
「え? 秀斗が副?」
勇輝は明らかに疑わしい顔を向ける。なぜ一番ちゃらんぽらんが副なのか、とそこからはっきりと心を読むことが出来るような顔だ。
「文句あっかぁ?」
やや脚色気味に心の声を受け取ってしまった秀斗はガンを飛ばして戦闘態勢に入る。
「やるかぁ?」
売られた喧嘩は高額買取りを信条とする勇輝も臨戦態勢を取る。
(喧嘩だ喧嘩!)
「はいストーップ。今二人がここでやりあってもなんの進展もないでしょ」
見るに見かねた癒慰が呆れながら二人の間に割って入る。今ここで騒ぎを起して弥生が来れば間違いなく二人は血を見ることになるだろう。
「止めんなよ。癒慰」
「そーそー。久しぶりに楽しもうと思ったのにさ」
この瞬間に癒慰は悟った。勇輝君は熱血喧嘩バカの不良なのね、と。
「まず身の安全を確保しないと喧嘩もできないのよ?」
「――そっか……よし、俺もお前らの仲間になりたいし、弥生と話をつけてやる!」
そう意気込んではたと気付く。
「そういや、お前らって何の団体?」
昂乱の一件では彼らの組織がかかわっていたようだったが、勇輝は特に追及しなかったのだ。
今さらの質問に二人は脱力してソファーに座る。勇輝も座って、場は仕切り直しとなった。
「まず、俺たちの所属してる組織は龍牙隊。表じゃ普通の会社をやってっけど、裏では政府の要人の護衛とか、密偵とか色々やってる何でも屋」
「龍牙隊?」
(ずいぶん古風な名前)
勇輝はもらったプレゼントを開ける子供のようにわくわくしていた。自分が幼いころ憧れていた非現実的な世界がすぐそこにあるのだ。
「そう。それで俺らのチームが死堅牢、如月」
「はい。しけんろーの意味がわかりません」
勇輝は潔く手をあげた。外国人の名前でよくある、どこまでが苗字でどこからが名前ですか、の状態だ。
その質問に癒慰が親切に紙に死堅牢と書いてくれた。その上に龍牙隊とも書き加えてくれる。
「死堅牢ってのは階級の名前だ。これはもともとは四剣琅って漢字で……」
秀斗は死堅牢と書かれた隣に四剣琅と書いた。
「すごい字面。縁起悪」
その字を見た瞬間つい突っ込みを入れてしまう。これは物騒だがもう一つの字も普通じゃない。
「まず、階級ってのがあってね。能力者の強さに応じて一から十まで割り振られるの。四剣琅の方はその四番目の呼び方。階級をもらった能力者は自分のチームを作ることができて、それが如月」
癒慰は紙を指さしながら丁寧に教える。
きっと面倒みのよい、いいお姉さんになるなぁ、と勇輝はいらないことを考えていた。
「うんうん。それで?」
雑念を振り払って、聞いていますよアピールをする。
(四剣琅の如月っと)
頭のメモに書きつけておく。これを名乗ることになるとはなかなかかっこいい。
「で、死堅牢の方は通り名だな。あだ名みたいなもんだ。昔は一つの階級に複数のチームがあったから、各チームにあった当て字が使われててよ」
勇輝は死堅牢と書かれた紙に目を落とす。
チームにあった漢字と言う割にはずいぶん恐ろしい字ではないだろうか。
「俺らにつけられた意味は、狙われれば最後。脱出不可能の堅固な牢の中で死を待つしかない……んだとよ」
これは彼らが自分たちで言ったわけではない。いつのまにか誰かが言いだし、広まったのだ。
「へ~。ということは前みたいな危険がいっぱい」
勇輝の目が遠い。きっと昂乱との一戦を思い出しているのだろう。
「もうあんな仕事はねぇよ。あれが最後の生き残りだったし、今不景気で暗殺の仕事なんて入ってこねぇから」
「――暗殺?」
不穏な言葉に訊き返す。
「そ、俺ら如月は暗殺専門だから」
しかし、彼らは暗殺を昼夜問わず堂々とやるので、暗殺の如月はいつしか抹殺の如月と呼ばれるようになったことを彼らは知らなかった。
(……聞かなきゃよかった)
あっけらかんと笑う秀斗に、本当にここに入って身の安全があるのかと不安に思う勇輝だった。