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第2章の5 よくわかる魔術師講座

 勇輝は呆然と立ち尽くす。


(カトウシュ? それって俺のこと?)


 ぐるぐると同じ言葉が勇輝の頭をめぐる。突然向けられた敵意と、別人のような弥生。

 秀斗は溜息をつくと勇輝の肩に手をおいてソファーに座らせた。


「弥生って双子?」


 まったくもって理解不能だ。三日前は普通の弥生だったはずだ。


「……実は、あれが弥生なんだ」


 秀斗は難しい顔で話しだした。実際、彼らも相当戸惑ったのだ。


「え?」


「もともとの弥生の性格はああいう感じ。今までの方が異常」


 勇輝は今までの弥生を思い出す。


(彩に似て、可愛らしい、女の子……彩に似て?)


「これは俺らの推察だけど。今まではお前の彼女の影響が残ってたんじゃねぇかと思う」


「あー、なるほど」


 思い当たる節はかなりある。弥生は時々彩のようなしぐさをする時があった。

 魂が繋がっていたので無意識の内に影響を受けたのだろう。


「そんで、その影響も薄れて本来の弥生が戻ったんじゃねぇかと……」


「え? なんで彩のこと知ってんの?」


 勇輝はさらりと流しかけたがつっこんだ。秀斗はこともなげに返す。


「お前が屋上で弥生と話してる時に俺らもいた」


 勇輝の頭の中にこの間の出来事がすごい勢いで駆け巡る。


(え、見られてた? 俺が拳銃突きつけたところも?)


 とたんに勇輝は青くなって、勢いよく頭を下げた。


「悪い秀斗! 俺もあんなつもりじゃなくて、ただちょっと頭に来てて!」


 弥生に思いを寄せている秀斗が勇輝を許すはずがないのだ。勇輝は拳骨でも落ちてくるかと身構えるが、秀斗は怒るわけでもなく、やや目を伏せた。その瞳にさみしさが横切る。


「別に誰もお前を責めやしねぇよ。逆にいい度胸してると思ったぜ」


 呟くような秀斗の声に勇輝ははじかれたように頭をあげると、顔を輝かせた。


「まじ? よかった~。絶交されるかと思ったぁ」


「俺たちも、似たようなことをしてきたからな……」


 一瞬秀斗の表情に混ざった複雑さは、すぐにかき消えた。


「それより、だ。豹変した弥生にどう対応するか考えねぇと」


「だなぁ。変わった理由はわかったけど、なんで俺を嫌うのさ」


 勇輝は好かれるような覚えはないが嫌われる覚えもない。拳銃を向けたこともあったがあれは雨降って地固まるで解決したはずだ。それなのにまさかの雨降って土砂崩れとは……


「……それがなぁ、けっこうややこしいんだ」


 ちょっと長いけど聞くか? との問いに勇輝は即刻頷く。


「俺らが魔術師ってことは言ったよな」


 彼らの人ならざる能力については、昂乱の一件で目の当たりにしていた。


「うん」


「弥生は人一倍魔術師ってことに誇りを持ってるから、無能な人間が好かないんだ」


「それってひどくない?」


 秀斗は頭を掻きながら言葉を選んで話をすすめた。


「魔術師ってのは根本的に人間を嫌う。俺らの世界では人間の印象は悪いからな」


「俺らの世界?」


 勇輝は気になる単語に目を輝かせた。


「魔術界つう、霊界、魔界、人間界と並ぶ異空間があんだけど……信じるか?」


「信じる」


 勇輝は未だに死んだら霊界、妖怪は魔界から来ていると信じている純粋な少年だった。


(――こいつは相変わらず強ぇな)


「それでさ……俺らの世界では、程度に差はあっても人間は悪い奴って教えられんだ」


「え、なんで?」


「――俺らは元々人間界にいたんだけどよ。迫害されて逃げたんだ」


 迫害。

 その一言が勇輝の胸に深く沈んだ。

 それがどういうことかぐらいは知っている。

 ナチスのユダヤ人への迫害。アンネの日記で涙を流したのは小学校四年生の時だった。

 そして高校で魔女狩りを知り、世界史の教科書を破りたい衝動に駆られた。


「ま、それも大昔のことだけどな……だから俺はもう気になんかならねぇし、人間はおもしれぇと思う。でも、まだ嫌ってる奴もいるんだ」


「もしかして錬魔も?」


 最初に会った時からいい感情を持たれてないことは感じていたが、最近は特に顕著だ。


「まぁな。でもあいつはまだまし……あいつは理由があって嫌っているからな。まだ解決の糸口はある」


「理由?」


「あぁ、詳しくは知らねぇけどこっちに来たときに人間といざこざがあったらしい。問題は弥生だ。こっちは完全に食わず嫌い」


 弥生が人間に協力したことはなく、会話を交わすことすらまれだった。ゆえに彼らは弥生が人間二人と行動を共にしたことに驚いたのだ。


(たとえ食われても俺はおいしくないです……)


 例えなのはわかっているが洒落にならない。

 あの剣で三枚おろしにされそうだ。


「こればかりは俺らにもどうしようもねぇ。まぁ弥生は無差別に殺すようなことはねぇけど……逆鱗に触れたら終わりだぜ」


 秀斗は念を押しながら、その脳裏には今まで自分が受けた痛い目が高速で流れた。

 守護障壁を身に纏う秀斗だから生きてこられたが、人間の勇輝ではあの世行きは確実だ。


「……仲良くなれると思ったのにな」


(彩のことを知ってる、数少ない友達だと思ったのに……)


「死にたくなけりゃ、極力弥生には近づくな」


 秀斗の言葉が胸に染みる。その胸に広がるものはただの悔しさではなく、理不尽な壁への苛立ちも含んでいた。


(人間の、何が悪いんだよ……)



 神名の裏話


 初期設定では転校生がもう一人いました。涼くん。風使いです。

 髪の毛は緑色……ここらへんやめてよかったと思う。

 転校生多すぎる、という理由でさよなら……

 ついでに癒慰の属性は雷でした。

 たぶん風神雷神感覚。

 その後神名の迷走はさらに続く……

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