第2章の3 お手紙
「お~い。歩~」
勇輝は歩の目の前で手を振った。
どうもどこかへ飛んで行ったらしい。
「戻ってこ~い」
でこピンを一発喰らわせると、歩は短くうめいて我に返った。
そしてすぐさま秀斗にでこピンを放つ。
「痛っ、さっきやったのは勇輝だぜ?」
「あ……つい」
だがこれでぼこぼことは言えないがぽこぽこくらいにはなったのではないかと前向きに考える。
やっとリーダーにまともな報告ができそうだ。
「そうだ。弥生いるよな」
「弥生? あぁ、そこに……」
歩ははたと思いだしたように秀斗に尋ねた。
秀斗が指さした先には、癒慰と談笑をしている弥生がいる。食後のティータイムという優雅な時間が流れていた。
勇輝はそれを目にして、やっぱ俺と住む世界違うなと、遠い目をした。
歩は弥生に近づきながらポケットから封筒を出す。
「弥生」
歩の呼びかけに弥生が振り向いた。
「これ、リーダーから」
その封筒は彼が去っていくときに預けられたものだった。いや、むしろ押しつけられたと言った方がいい。歩はそれを懐にいれておくだけで心臓を握られている気持ちだった。
「鷺君から? なになに? ラブレター?」
癒慰が身を乗り出して封筒を見る。
その封筒は目立った装飾もなく、白地にペンで弥生様と書かれたのみだった。
弥生は無言で封を解き、手紙を広げる。
「はぁ? 鷺の野郎がなんだって?」
話を聞きつけた秀斗が弥生の後ろから手紙を覗き込んだ。
鷺と秀斗は昔から事あるごとに衝突し、隊内外に被害を与えてきた。彼らの仲は爆裂に悪い。
「招待状よ。五日後に隼に属する隊員を労うためにパーティーを開くみたい」
「え? まじで?」
それにいち早く反応したのはその知らせを持ってきた本人だった。
「歩君聞いてないの?」
「初耳……」
「弥生。そんなとこに絶対行くなよ! 鷺がいるってだけで、虫唾が走るぜ」
秀斗は弥生から手紙を奪おうとするがあっさりかわされる。
「秀は黙ってて。訊きたいこともあるし丁度いいわ」
「は? 絶てぇいかせねぇ! なんなら俺もついてく!」
「招待されたのは弥生ちゃんだけですよ」
零華は読んでいた本から視線を上げた。
「弥生ちゃん。鷺さんによろしく言っておいてくださいね」
「わかった」
弥生はこくりと頷く。
「おい零華! ちっ、こうなりゃ乗り込んで奴の首を……」
「癒慰」
「おっけ~。秀斗君は私に任せといてね」
癒慰はすぐに弥生の言いたいことをくみ取って親指を立てる。
「なぁ、お前のリーダーってそんなに危険な奴なの?」
彼女たちが弥生の着ていく服について話している隣で、勇輝は歩にそっと訊いた。
「いや……そんなことはないけど」
基本無害だが、その気になれば危害は加えたい放題だ。
彼の持つ情報量は半端じゃない。
「けどおもしろい名前。鷺って鳥だよな」
「まぁ……」
おそらく、というか絶対偽名だろう。
チーム名自体が隼と鳥の名から取ってあるから、リーダーの名前が鳥でもなんの不思議もない。
「でも鷺ってイメージ悪いよな」
歩は、それはお前の勝手な思い込みじゃね? とは言わずに黙って続きを促す。
勇輝の話に下手につっこみをいれると何倍もの語数で言い返される。変なスイッチを押した日には長い弁舌が始まってしまう。
「なんならもっとかっこいい鳥から取ればよかったのに」
「たとえば?」
「ん~鷲とか、鷹とか」
「あれ以上おっかなくなって欲しくないんで嫌」
確かに切れ長の目や灰色の髪は鷲のイメージがあるが、猛禽類の名前なんて洒落にならない。
(完全に食われる)
「じゃぁ鳩、すずめ、カラス」
今度は身近な鳥を挙げ始めた。どれも登下校のおりに見かけるものばかりだ。
「親近感湧くけど、なんか違う」
(そんな可愛い人じゃない)
「え~じゃぁ……」
そう言って、勇輝は歩がもういいと止めるまで思いつく鳥の名前を挙げていった。
そして勇輝はそのまま授業をサボり、元気に帰宅した。
家の近くには鷺がいます。
さて、第二章での目標。
タイトルを内容と関わりのあるものをつける。
変なところで切らない。
二つだけか? とか言わないでください。
はるかな目標として、まともな文章を書くがあります。
では、また~