第1章の24 医者~! 精神科医と外科医はいませんか~!
勇輝は未だに自分が見たものが信じられなかった。昂乱は町のはずれまで飛んでいくと、突然止まり、空間を刀で突き刺した。
何もなかった、何もなかったはずなのに、次の瞬間、大口を開けて二人を飲み込んだ。
そしてそこにある古ビルに降り立ち今に至る。
勇輝は椅子に座らされ、ご丁寧にも手足を縛られている。あれほど無抵抗だったのに、だ。
そして捕獲者と一対一で向き合っている。
勇輝は不良の称号を掲げる男、捕まったことの一度や二度ある。
ついでに金属バットや鉄パイプで滅多打ち、なんてことも多々あった。
しかし今目の前の敵の得物は鉄パイプなんて可愛いものではなかった。真剣。しこみ杖というやつだ。
(あ~あれがしこみかぁ初めて見るな~)
と脳の半分が現実逃避し、逃げきれなかったもう半分はその刀身に付着している血から離れられなかっ
た。
(俺のせいだよな。俺が割り込んじゃったから弥生はかばって怪我したんだ)
まだ乾ききっておらず、光を反射してぬらりと光る血にますます自責の念に駆られた。
昂乱は刀身を自分の口元へと寄せると、その身に舌を添わせた。それを見た瞬間、勇輝はぞっと全身の毛が逆立った気がした。
(なんでこいつを助けようなんて思ったんだよ俺! いかれてる! このじいさんまじでやばい!)
昂乱は血を舐め取り、味わい、それを喉へと降下させた。
「あぁ、力が漲ってくる」
(やばいやばいやばい! 俺もやられる! じわじわいたぶられて血を吸われちまう!)
驚愕し、脅えの色を見せる勇輝に昂乱は満悦の笑みを見せた。
「くっくっく。貴様らは知らなかったのだろう。わしは血からも能力を奪うことができるのだよ」
「の、能力ってなんだよ。つーかじいさん何?」
話しかけられたことで、勇輝は言語機能を解凍することが出来た。
疑問は次から次へと湧いてくる。
「奪うって何? 誰から? 何であいつらと闘ってんだよ」
今度は昂乱が目を丸くする番だった。杖を壁に立てかけ、勇輝へと歩みよる。
「お前、まさか人間か?」
「人間以外何があるのさ」
昂乱はそこでやっと自身の思い違いに気がついた。
「まさか貴様。奴らの仲間ではないのか?」
「え?」
(仲間? いや、確かに仲良くはしてるけど、主に秀斗と癒慰だし、友達かもしれないけど仲間かどうかは……)
昂乱の端的な質問は逆に勇輝を悩ませた。
「たぶん、仲間ってのじゃないとは思う」
なんか自分で言って悲しくなる勇輝だ。
「では何故、あの女がお前を守った?」
「わかりません。俺に聞かないでください」
正直な言葉だった。むしろ勇輝が訊きたいほどだ。
「……まぁいい。どっちにしろお前はわしの能力を見たのだ。生きては返さん」
(え~何それ!まさかのどっちに転んでも死にますパターン? おーい! 俺の現実カムバーック!)
「まぁ、助けに来たところを仕留めるのも悪くはない」
そう結論づけると昂乱は勇輝から離れ、刀の血を手元にあった布で拭いとった。
そして再び杖の先端をつけ、元の姿に戻す。
(助け? 誰か助けに来てくれるかな……。来てくれるなら秀斗だろーな。……来て、くれるかなぁ)
十数分が立ち、勇輝がどんどん弱気になり始めた時鈍い音につられて顔を上げた。
どうやら昂乱が杖を落としたらしい。
「うぐっ」
その上片膝をついている。
「って、え? ちょっとじいさん大丈夫か? なんか無理したんじゃ……おい! 聞こえてっか?」
さらに勇輝は異変に気付く、昂乱の左手から煙が上がっているのだ。
いや、あれは水蒸気といった方が正しい。
「じいさん! 手から湯気出てるって! その手袋外しなよ!」
苦痛に呻きながら、昂乱は手袋を剥ぎ取る。だが現れた左手はただのそれとは違った。
色は浅黒く変色し、その上血管が浮き出ている。
そして今、その血管が透けて、中で赤や青の光が暴れまわっているのが見えた。
「くっ、一度に5つ取りこんだからな。少し反動が大きいか」
「体に毒なことすんなよ! その手、半分壊死してんじゃないのか?」
「ふん、敵の心配をするとは、殊勝なものだな」
「そんなこと言ってる場合じゃないって! 医者! 医者に行け!」
昂乱が右手を左手の上にかざすと、そこからとめどなく水が落ちてきた。
左手にかかったとたん、水蒸気へと変わり蒸発していく。
「……じいさん、人間じゃないのか?」
目の前で水を出現されたらもう信じるしかない。
「いや、人間だ。これほどの力を手に入れてもな」
魔術師には、なれないのだ。
「ってことは超能力者?」
昂乱が答えの代りに自嘲の笑みを浮かべるのと、爆音が轟いたのはほぼ同時だった。




