第1章の23 空を自由に飛びたいな
正直、あいつらのいない授業なんてつまらなかった。だから何気なく外の景色に目を向けたんだ。
もしかしたらあいつらが登校してこないかな~とか思いながら。
だが、俺の目に映ったのは違う光景だった。
校門へと続く道には、確かにあいつらがいたが、穏やかに登校という風には見えない。
しかも一人の老人を取り囲んでいるようだ。そこまで気づいた俺は教室を飛び出した。
私刑なんて許さない!
そして、今俺は、空を飛んでいる……。
勇輝はなんとかこの危機を乗り越えようとここに至る経緯を思い出してみた。
(おかしいだろこれ。だって俺、このじいさんを助けようと思って出ってたのに、何で逆に捕まってるわけ? しかも、なんで羽生えてんだ?)
もしかしたらこれはなんかの撮影でワイヤーとかあるのかも、と淡い期待を抱いたが、そんなものは何かを突き破ったあたりからなくなっていた。
(そりゃ、空を飛びたいとか思ったことはあるよ。空を飛ぶなんて子供の夢の定番じゃないか。
俺だって、幼稚園のころはじいちゃんの作ってくれた竹トンボに夢を描いたよ。
でも、現実で起こるわけないってわかって俺の夢は散ったのに……)
勇輝の頭はぐるぐる回る。酔ったのか気持も悪い。
(しかもこんな捕獲された状態で飛びたくなんてなかった~! やばいよこれ、俺絶対食われるって、さながら鷲に掴まれた兎だって! 巣に持ち帰られて子供に分けられるって!)
もう自分でも意味の分からないことに頭を回転させていると、少しずつ高度が下がっていることに気がついた。
(まじで?もう巣? え、まだ心の準備が……)
「なんでこんなことになったんだよ!」
学校では、障壁に空いた穴を見上げながら、秀斗が悪態をついていた。
ひとまず気絶してしまった零華を寝かし、今後の行動を話し合っていたのだ。
「まさか勇輝君を持っていかれるなんて……」
「おい! さっさと助けにいくぞ!」
駆け出した秀斗の行く手に錬魔が立ちはだかる。
「お前、あいつの本陣に乗り込むつもりか」
「決まってんだろ!」
「忘れたのか! あいつの本陣には奴の部下が何百といるんだぞ」
錬魔は珍しく声を荒げた。その顔には怒りと焦燥が滲み出ている。
彼自身、この状況に戸惑っているのだ。
「そんなこと知るかよ!今なら奴の気を追って本陣が掴めんだ!」
「何故……人間相手にそこまでする。あいつが勝手に巻き込まれただけだろ」
「こんな時に人間がどうとか言ってんじゃねぇよ!」
秀斗と錬魔が互いに睨みあっている隣で、弥生は静かに地面に刺さった剣を抜いた。
「確かに、勝手に出てきて巻き込まれたのは勇輝よ。でも、巻き込ませたのは私たち……あの時一撃で仕留められなかった私にも責任はある……助けに行かないと」
「弥生……」
秀斗は呆然と弥生を見つめる。それは他の二人も同じだった。
「……わかった。お前がそう言うなら俺は反対しない」
錬魔は苦々しい顔で、秀斗に背を向けた。
(弥生が、人間を助ける……だと?)
「――私も、行かせていただきます」
「零華ちゃん!」
零華の傍に付き添っていた癒慰が嬉しさに声を上げた。
「もう、いいのか」
錬魔が零華の顔色を見て、状態を把握する。
特に問題はなさそうだった。
「はい。力も少ししか奪われませんでしたし、戦えます」
零華は体を起こし、怪我の具合を確認する。外傷は特になく、しいて言えば制服がかなり汚れた。
「癒慰、昂乱の本陣は掴める?」
「ちょっと待ってね」
そう言うと癒慰は神経を集中させて辺りを探る。癒慰は彼らの中で一番能力を感知することに長けていた。昂乱は能力を使ったままで移動した。そのおかげで気を追うのは容易い。
「弥生、怪我を見せろ。治す」
「うん。ありがとう」
錬魔は一瞬虚を突かれたような顔をしたが、すぐに普段の無表情に戻って弥生の傷を塞いだ。
錬魔が使う魔術は治癒。使えるものは数少ない貴重な術だ。
「何度も言うが、俺の力は自己治癒力を高めるだけだからな。無茶をするとまた開くぞ」
「わかってるよ」
弥生は頷くと肩に手を当てた、すっかり傷は無くなり、破けた服からは白い肌がのぞいている。
「捕らえた! 町はずれに空間が一つ隣接してるの、そこに入ったみたい」
「ありがとう癒慰。じゃぁ、勇輝を助けに行くよ」
彼らは町の外れを目指して、学校を後にした。
作者 「空を飛んだ感想は?」
勇輝 「なんかあれ、UFOキャッチャーの景品になった気分だった」




