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宝仙伝  作者: 神無月拓楼(旧HN現武壱)
21/23

宝仙伝クリスマス限定ショートストーリー 『鏡の奥に映る雪』

「夢を見る・・・」


「それは・・・とても、とても長い夢で・・・」


「とても暖かい夢で・・・」


「とても悲しい夢で・・・」


「あなたは・・・誰?」


「キミは・・・誰?」


「あなたは・・・私?」


「キミは・・・ボク?」


「まるで・・・鏡を見ている様な・・・」


「まるで・・・双子の姉妹の様な・・・」


『とても・・・とても不思議な夢・・・』


「嬉しいはずなのに・・・」


「悲しいはずなのに・・・」


「あなたは・・・幸せですか?」


「ボク?・・・ボクは・・・」


夢を見る・・・


どこか懐かしく、とても悲しい夢を・・・


遠い遠い・・・とても遠い時代で・・・ボクは、誰かをずっと待っていた。


夢の中のボクは、気の遠くなる様な時間を、一匹の大きな黒犬と、親の居ない子供達と一緒に、誰かの帰りを待っていた。


ずっと・・・ずっと・・・


冬の雪に、想いを馳せて・・・


春の桜に、心を綻ばせながら・・・


夏の蝉に、自分を重ねて・・・


秋の月夜に、泣きながら・・・


また訪れた冬の雪に、想いを馳せて・・・


何度も・・・何度も移り変わる季節に、願いを込めて・・・


夢の中のボクが、どうして待っているのか・・・


ボクは・・・知っている・・・


『また、巡り逢うさ。』


彼のその言葉を信じて・・・


ただずっと・・・信じ続けて・・・


ずっと・・・ずっと・・・


鏡の中のボクは、悲しそうな表情で聞いてくる。


『あなたは・・・幸せですか?』


ボクは・・・どう答えれば、良かったんだろうか・・・


「・・・遅い。」


駅の近くの時計台を見てみると、もうすでに約束の時間は30分も過ぎていた。


「もぉ~、何してるのよ・・・」


苛立たしげに、地団駄を踏みながら、現れるはずの彼をずっと待っていた。


駅から見える街の風景は、一年に一度のクリスマスを祝うため、色とりどりのイルミネーションが、夜の街を照らしていた。


街に流れるクリスマスソングも、人の喧騒で掻き消されるのではないかと思うほどだ。


周辺には、サンタさんの恰好をした人が、多く見受けられる。


この時期ならではのコスチュームを身に纏い、仕事に勤しんでいる様だ。


今日はクリスマス・イブ。


家族でこの日を楽しんだり、好きな人と一緒に過ごしたりする神聖な日。


ボクの場合は、後者だった。


でも、その人は、今尚約束の場所に現れなかった。


今日は特別な日という事もあり、少しだけお洒落にも気を遣ってきた。


一週間くらい前から、服を選んだり、友達と一緒に、お化粧の仕方を勉強したり。


普段は見せない一面を、あの鈍感男に見せつける良い機会だと思ってた。


なのに・・・当のあいつは・・・


「・・・~っ!」


いつの間にか拳を握って、ぷるぷる震えている事に気が付いた。


周囲の人達の視線に気が付き、慌てて拳を解くと、恥ずかしさの為、俯いてしまう。


それもこれも・・・みんなあいつの所為だ。


それが、ただの八つ当たりだとしても、そう思わなければ気が晴れない。


顔を上げて、先程の時計台を見てみる。


さっきよりも10分程進んでいた事を確認し、深いため息を吐いた。


「ねぇねぇ彼女!今暇?」


「えっ?!」


突然呼びかけられた声に、一瞬待ちに待ったあいつが現れたと思ったけど、その期待は裏切られた。


そこには、全く知らない男の人が、陽気な笑顔でボクに話しかけていた。


「さっきから見てたんだけどさ~もしかして、彼氏にすっぽかされたとか?」


やたらと馴れ馴れしく、笑顔で嫌な事を言ってくる男の人を見て、気分が憂鬱になっていくのが自分でも解る。


「・・・うるさいなぁ。」


「え?何々?」


鬱陶しさを込めながら、不機嫌に呟いた言葉は、どうやらこの人には聞こえなかった様だ。


とりあえず、この人が諦めるまで、ボクは無視する事に決めた。


「この近くにさ、うまいイタメシ屋が有るんだけど一緒にどう?ねぇねぇ、行こうよ~」


「・・・」


「君の名前なんて言うの?ねぇねぇ、教えてよ。」


「・・・」


「もしかして、まだ彼氏待ってるの?もう来ないよそんな奴~ねぇねぇ行こうよ!」


そう言って、ねぇねぇ男(今命名)は、ボクの腕をいきなり掴み、引っ張ろうとする。


「ッ!!いいかげんに・・・」


「いい加減にしとけよ。嫌がってるだろ?」


ボクが言いかけた言葉を遮り、ボクたちの会話に割って入ってくる声。


その声は、ボクの後ろから発せられた。


ボクの聞き慣れた・・・ボクが待っていた・・・


街の喧騒を突き刺す様な、とても低く、それでいて響く声。


「あぁ~ん?なんだ、おまえ?おまえには関係ないだろ?」


そう言って、さっきまでの態度が消え失せ、ねぇねぇ男が声の主に凄味を効かせる。


「手前の為に言ってんだよ。その姉ちゃん怒らすと恐いぞ?」


声の主は、ねぇねぇ男の凄味など全く意に介していない様子で、戯けながらボクの悪口を言ってくる。


「ちょっと!人聞きの悪い事言わないでよ!」


さすがのボクも、そんな事言われて黙っている事なんて出来ない。


勢いに任せ、後ろを振り向き、あいつを睨んだ。


「遅れてきたのに、随分な挨拶じゃない!お陰で、こんな『ねぇねぇ男』に捕まったのよ?!ボクにしてみれば良い迷惑だよ!」


「なっ!?『ねぇねぇ男』だ~!?このクソアマ~!!」


ボクの言葉に怒ったねぇねぇ男は、振りかぶった拳を、ボクに向けて放つ。


気配だけでそれを察知したボクは、体の重心をずらし、拳を避ける。


「何すんの・・・よっ!!」


バコッ!


避けた勢いを殺さず、そのままの勢いで手に持っていたバックを、ねぇねぇ男の顔面に叩き込む。


ドシャ・・・


「・・・ってぇぇぇ~」


「あ~ぁ~・・・だから言ったのに。」


情けない声を上げているねぇねぇ男は、バックが当たった勢いで、その場に尻餅を付いて、当たった部分を手で押さえている。


辺りからは、ボクたちのやり取りを見てか、笑いを堪えながら、ねぇねぇ男に視線が集まっている。


あいつは、呆れながらにため息でも吐いてるのだろうか。


・・・ちょっとやりすぎたかな。


そんな考えが過ぎったけど、とりあえず今は気にしない事にする。


「お、覚えてろよ~!」


お約束な捨て台詞と共に、恥ずかしさのあまり顔を赤らめたねぇねぇ男が、人混みを掻き分けながら去っていった。


それを、見えなくなるまで見送り、ボクは軽くため息を吐いてから、振り返る。


「・・・何分の遅刻か・・・その体に教えてあげましょうか?一分一発の計算で・・・」


「あ~・・・勘弁してくれ。妹に捕まっちまったんだよ。」


そう言って、悪びれた様子もなく、後頭部を掻いているあいつ。


「も~・・・今日クリスマスだってのに・・・静菜ちゃんも、相変わらずのブラコンぶりね。」


「対処に困ってるんだ、よかったら貰ってくれ。」


「そんな・・・犬や猫じゃ無いんだから・・・」


ボクの呟きに、あいつは面白そうに笑っている。


「んじゃま。行くか聖。」


普段のじゃれ合いもそこそこに、そうあいつが言ってくる。


「・・・うん。」


なんとなく、話をはぐらかされたみたいだけど、あいつの申し出に依存もないので苦笑して答える。


彼の右腕に、ボクの腕を絡ませて、ボクたちは歩き出した。


知り合って5年・・・付き合いだして2回目のクリスマス。


いつの間にか、腕を組んで歩く事が、当たり前になっていた。


最初の頃は、気恥ずかしくって、彼の後ろを歩いていたっけ。


それが、並んで歩く様になって・・・手を繋ぐ様になって・・・


気が付いたら、彼の右腕が、ボクの指定席になっていた。


「どこ行くよ?」


そう言って、彼は、器用に左手で煙草を銜えると、火を付けようとする。


それを見たボクは、彼の口から煙草を奪い去った。


「おい・・・」


そんなボクをジト目で見て、呟いてくる。


「こんなに人混み有るのに、煙草なんか吸ったら危ないよ?」


そう言って、ボクは、彼の鼻を奪い去った煙草で軽く叩くと、煙草を彼に返した。


彼は、ため息を一つ吐くと、ボクの注意に素直に従ってくれた。


「まず最初に、この先の公園に行こうよ。そこなら吸えるでしょ。」


「へぇへぇ。おまえさんは正しいよ。」


そう言って、彼はため息を吐いてくる。


街の人混みを掻き分けて、中央公園へと入っていく。


人の居ない遊歩道を二人で歩く。


彼は煙草を吸いながら。


ボクは、彼に寄り添いながら。


煙草の煙が、ボクに掛からない様、気を付けて歩いている彼を見上げて、ふと、夢の中のボクの事を思い出す。


途端に、彼に絡めていた腕を解き、足を止めてその場に立ち止まる。


「ん・・・?どうした?」


ボクから2歩ほど先に進んだ所で、振り向いてきた彼の顔を見つめる。


どこか人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している彼。


無造作に伸びた髪に、ややきつめに吊り上がった、力強い瞳と細い眉毛。


鼻は、大きすぎず、小さすぎず。


口の端には、煙草が銜えられている。


端正に整えられたその顔を見ていると、何故か懐かしくも、悲しい気持ちがこみ上げてくる。


「・・・話したっけ、ボクの夢のお話。」


「うん?将来の夢か?」


そう言ってくる彼に、ボクは無言で首を横に振った。


「・・・ボクが眠っている時に見る夢・・・誰かをずっと待っている・・・そんな夢。」


「・・・あぁ。そういやそんな話を聞いたっけな。」


確か・・・高校を卒業間際の時だったかな・・・


ボクたちが付き合いだす少し前・・・友達と言うには、仲が良すぎて・・・恋人と言うには、ちょっと早すぎて・・・


そんな曖昧な時期に、一度だけ彼に話した事のある、不思議な夢のお話。


いつから見始めたのか・・・もう良く覚えていない。


ただ・・・彼と出会う前には、見ていなかった事だけは確かだった。


「急にどうした?」


そう言って、彼はボクの前まで移動してきた。


2歩分の距離が無くなり、限りなくゼロになる。


「・・・夢の中で・・・ボクは・・・キミを待っていたんだと思う・・・冬の雪に、想いを馳せて・・・春の桜に、心を綻ばせながら・・・夏の蝉に、自分を重ねて・・・秋の月夜に、泣きながら・・・移りゆく季節に願いを込めて・・・ずっと・・・」


「・・・そいつは光栄だな。」


そう言って、ボクの左頬に、苦笑を浮かべながら、彼は右手を添えてくる。


少し煙草臭いその右手の手首を、ボクは掴んだ。


「・・・時々、すごく不安になるの・・・夢の中で、鏡に映ったボクが聞いてくるの・・・『あなたは・・・幸せですか?』って・・・ボクは、何も言えなかった・・・キミと一緒にいるだけで・・・とっても幸せな筈なのに・・・」


「聖・・・」


「幸せな筈なのに・・・言えなかった・・・」


いつの間にか、ボクは泣いていた。


とても苦しく・・・とても悲しい・・・


幸せな筈なのに・・・悲しい涙が・・・止まらなかった。


「いつか・・・夢の中みたいに・・・キミがどこかに行っちゃうんじゃないか・・・ボクが見る夢は・・・それを予見してるんじゃないか・・・そう思うと・・・」


ボクの頬に添えられた彼の手の感触を確かめながら・・・その手に自分の手を重ねながら・・・


静かに、瞳を閉じて泣いているボクと、夢の中のボクを重ねながら・・・


ペシッ・・・


「痛っ!」


「バ~カ、何泣いてんだよ。」


一瞬何が起きたのか解らなくなった。


閉じていた瞳を開くと、彼の左手が、ボクの眼前に来ていた。


鼻の頭に感じる痛みと併せて、デコピンならぬ、鼻ピンをされたみたいだった。


「未来なんざ、誰にもわかりゃしねぇのに、何時かなんて日が来ると思ってんのか?」


びっくりした思いで、彼の顔を見てみると、苦笑を浮かべながらボクの事を見て言ってくる。


「何時か・・・なんてのはな。俺達が望まない限り、やって来る事はないのさ・・・それが良い事にしろ、悪い事にしろ・・・な。」


独り言でも言うかの様に、ゆっくりとした口調で言う彼。


「俺は今・・・ここに居る。おまえの目の前にな。おまえは今・・・ここに居る。俺の目の前に・・・な。それじゃ不満か?」


「え・・・?」


「夢の中のおまえに言ってやれよ。今のおまえの気持ちをよ?」


そう言って、満面の笑みを浮かべて、ボクの頭をポンポン叩いてくる。


「もしそんな日が来るとしたら・・・そうだな。俺がおまえに愛想を尽かした時だな。」


「な、何よそれー!ボクがキミに愛想尽かすとは思わないわけ?」


彼の言い分に、怒ったボクは、彼の手を払いのけて叫ぶ。


いつの間にか、涙は止まっていた。


そんなボクを見て、彼は楽しそうに笑っていた。


「んじゃま・・・お互いそうならない様に気を付けなきゃ・・・な?」


「あ・・・」


再び、彼の手がボクの頭に乗せられる。


からかう様に叩くのではなく、今度は優しく撫でてくる。


何度も・・・何度も・・・


「・・・うん。」


「んじゃ・・・行くか?」


そう言って、彼は短くなった煙草を、携帯灰皿に入れてから、歩き出す。


「うん!」


彼の右腕に自分の腕を絡めて、ボクも歩き出す。


離れぬ様に・・・離されぬ様に・・・


ずっと・・・一緒に・・・


「・・・聖。」


「うん?」


遊歩道も終わりを迎える頃、彼の呼びかけに答えて、彼の顔を見上げる。


そんな私の目に、白い結晶が映った。


「あ・・・雪・・・」


「・・・寒い訳だ・・・寒いの嫌いなんだよな俺・・・止まねぇかな。」


「もぉ~ちょっとは気の利いた事言ってよね。」


呆れながらに言うと、彼は少し拗ねた様な顔をしてくる。


「暑い方がまだ良いわ・・・」


「・・・キミ、夏に暑いの嫌いとか言ってなかったけ?」


「・・・毎年言ってるねぇそんな事。」


「・・・バカ。フフッ・・・」


一言そう呟いて、今度は笑顔で彼の腕を抱きしめる。


ボクは知っている・・・彼が雪に気が付いて、ボクに教えてくれた事を・・・


「・・・何だよ、急に笑い出して・・・」


「フフッ・・・良いの。秘密だもん。」


そう言って、抱きしめた腕に、更に力を込める。


「・・・歩きにくいなぁ・・・少し離れろ。」


「や~だよ~」


鬱陶しそうに言ってくる彼の腕を、今度は前後に動かしながらじゃれる。


静かに舞い降る雪の道を、二人で歩く。


いつまでも、こんな穏やかな日々が続きます様に・・・


また訪れた冬の雪に、想いを馳せながら・・・祈りを捧げた。


「夢を見る・・・」


「それは・・・長く・・・儚く・・・悲しい夢?」


「穏やかに・・・幸せで・・・楽しく日々が続く夢を・・・キミに見て欲しい・・・」


「あなたは・・・誰?」


「ボクは聖・・・キミは?」


「私は・・・私の名は・・・聖・・・」


「キミは・・・ボクで・・・」


「あなたは・・・私で・・・」


「キミの夢は・・・ボクの記憶で・・・」


「あなたの夢は・・・私の願いで・・・」


『それは・・・終わりのない輪の様に・・・』


「私は・・・あなたの夢を見る・・・」


「ボクは・・・キミの悲しみを知る・・・」


『今も・・・昔も・・・これからも・・・』


「見ているだけで・・・安らぐ夢・・・」


「キミにも、知って欲しい・・・ボクの想い出・・・」


「あなたは・・・幸せですか?」


「ボクは・・・幸せだよ・・・とっても・・・とっても・・・」


「それは・・・とても良い事ね・・・」


「キミは・・・今、幸せ?」


「私?私は・・・」


夢を見る・・・


とても安らぎ・・・とても暖かい夢・・・


遠い遠い・・・とても遠い時代で・・・私は、一人の男性と、共に過ごしていた。


ずっと・・・ずっと・・・


冬の冷たい雪を、二人で触れて・・・


春の見事な桜並木を、二人で歩いて・・・


夏の蝉の鳴き声を、二人で聞いて・・・


秋の美しい月夜を、二人で眺めて・・・


また訪れた冬の冷たい雪を、二人で触れて・・・


何度も・・・何度も訪れる季節を、二人で過ごして・・・


夢の中の私は・・・とても幸せそうで・・・


とても・・・とても・・・


これは夢・・・


叶わない・・・叶えたかった・・・そんな夢。


とても暖かく・・・とても微笑ましい・・・そんな夢。


それが・・・ずっと続く事を・・・私は願っている。


それが私ではないにしても・・・私は願う・・・


『また、巡り逢うさ。』


あの人の言葉を思い返す・・・


あの人は・・・約束を守ってくれた・・・


例えそれが・・・来世の出来事だとしても・・・


鏡の中の私が、複雑な表情で聞いてくる。


『キミは・・・今、幸せ?』


私は・・・どう答えたら、良かったの?


部屋の障子を開くと、冬の澄んだ空気が入ってくる。


今朝から降り出した雪は、夜になった今も尚、しんしんと降り続けている。


寝間着姿のままで、私は寒さに身震いをする。


「・・・風邪を引きます。」


「うん・・・大丈夫。もう少し・・・眺めていたいの・・・」


部屋の中にいるクロが、私の身を案じて注意してくる。


それでも私は・・・静かに舞い降りる雪を、眺めていたかった。


「ごめんね・・・クロ。子守みたいな事をさせてしまって・・・」


「・・・主の為ならば。」


「・・・ありがとう。」


短い会話の後、窓辺に腰掛け、暗い空を見上げる。


あれから何年経っただろうか・・・


あの人と別れてから・・・私は生まれ故郷の信州に帰ってきた。


あの人と初めて出会った場所でもあるこの地で・・・あの人を待つ事に決めた。


何年でも・・・何十年でも・・・


あの人の言葉を信じて・・・


この地に帰って間もなくの頃は、さすがに色々問題もあったけど、今はなんとかうまくやっている。


朽ちかけた寺院を修繕して、今では孤児を集めて、寺小屋の真似事も行っている。


私が、今こうしてやっていけるのは、麗姫お婆さんや、明王衆の皆さんのおかげだ・・・


鈴音さんや兼道さんも、年に数度遊びに来てくれる。


子供達も、とても元気で、良い子ばかりだ。


「主・・・体が冷えます。」


いつの間にか側まで来ていたクロに、視線を移して、自嘲気味に苦笑する。


「もう少しだけ・・・ね?」


そう言って、艶のあるクロの体毛を、ゆっくり撫でながら、また窓の外を見る。


相変わらず、ゆっくりと舞い降りる雪。


夢の中で見た雪とは、全然違うな・・・


「・・・また、あの人の夢を見たよ。」


空を見上げながら、呟く様に語り始める。


「どこか遠い・・・穏やかに時間が過ぎる時代で・・・皆が笑顔で暮らせる様な・・・そんな時代で・・・私は・・・またあの人に出会える・・・あの人は・・・ちゃんと、私との約束を守ってくれる・・・だから私は・・・」


「主・・・」


クロの呟きを聞いて、私は視線をクロへと移す。


「とても・・・とても長い時間だけど・・・私は・・・寂しくないわよ。クロも・・・子供達も居るもの・・・寂しく・・・無いわ・・・」


言い終わる頃には、私の視界は、涙で歪んでいた。


「あれ・・・?おかしいな・・・寂しくないのに・・・寂しくなんか・・・ッ!!」


堰を切った様に流れる涙を、必至で堪えようとする。


なかなか止まらない涙をクロに見られたくない為、顔を背けて天を仰ぐ。


不意に、夢の中の私の言葉を思い返す。


『キミは・・・今、幸せ?』


なんて言えば良かったのだろう・・・


答えられなかった私・・・


幸せだとは言えない・・・寂しくないと言えば嘘になる・・・


でも・・・


「妬ましいって・・・気持ちは無いんだよ・・・?どんなに羨ましくても・・・あの人の隣に居るのが・・・今の私じゃ無くても・・・」


それが、私の正直な気持ちだ。


来世のあなたと、あの人を・・・ただ見てるだけしか出来なくとも・・・


負の感情は・・・一切芽生えなかった・・・


ただ・・・あの二人を見ていると、とても穏やかな気持ちになれる・・・


だから・・・


「心より・・・おめでとう・・・」


それが・・・夢の中の私に対する答えだ・・・


「・・・寝ようか。」


いつの間にか止まった涙。


涙の跡を拭い、私は障子を静かに閉める。


布団に潜り込み、目を閉じると、次第に眠気が襲ってくる。


今夜も私はあの夢を見るだろう・・・


あの日だまりの様な・・・そんな暖かい夢を・・・


夢の中の私に、また同じ事を聞かれたら・・・さっきの言葉を言おう。


そう・・・心に決めて・・・


遠い遠い・・・未来に想いを寄せて・・・

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