宝仙伝クリスマス限定ショートストーリー 『鏡の奥に映る雪』
「夢を見る・・・」
「それは・・・とても、とても長い夢で・・・」
「とても暖かい夢で・・・」
「とても悲しい夢で・・・」
「あなたは・・・誰?」
「キミは・・・誰?」
「あなたは・・・私?」
「キミは・・・ボク?」
「まるで・・・鏡を見ている様な・・・」
「まるで・・・双子の姉妹の様な・・・」
『とても・・・とても不思議な夢・・・』
「嬉しいはずなのに・・・」
「悲しいはずなのに・・・」
「あなたは・・・幸せですか?」
「ボク?・・・ボクは・・・」
夢を見る・・・
どこか懐かしく、とても悲しい夢を・・・
遠い遠い・・・とても遠い時代で・・・ボクは、誰かをずっと待っていた。
夢の中のボクは、気の遠くなる様な時間を、一匹の大きな黒犬と、親の居ない子供達と一緒に、誰かの帰りを待っていた。
ずっと・・・ずっと・・・
冬の雪に、想いを馳せて・・・
春の桜に、心を綻ばせながら・・・
夏の蝉に、自分を重ねて・・・
秋の月夜に、泣きながら・・・
また訪れた冬の雪に、想いを馳せて・・・
何度も・・・何度も移り変わる季節に、願いを込めて・・・
夢の中のボクが、どうして待っているのか・・・
ボクは・・・知っている・・・
『また、巡り逢うさ。』
彼のその言葉を信じて・・・
ただずっと・・・信じ続けて・・・
ずっと・・・ずっと・・・
鏡の中のボクは、悲しそうな表情で聞いてくる。
『あなたは・・・幸せですか?』
ボクは・・・どう答えれば、良かったんだろうか・・・
「・・・遅い。」
駅の近くの時計台を見てみると、もうすでに約束の時間は30分も過ぎていた。
「もぉ~、何してるのよ・・・」
苛立たしげに、地団駄を踏みながら、現れるはずの彼をずっと待っていた。
駅から見える街の風景は、一年に一度のクリスマスを祝うため、色とりどりのイルミネーションが、夜の街を照らしていた。
街に流れるクリスマスソングも、人の喧騒で掻き消されるのではないかと思うほどだ。
周辺には、サンタさんの恰好をした人が、多く見受けられる。
この時期ならではのコスチュームを身に纏い、仕事に勤しんでいる様だ。
今日はクリスマス・イブ。
家族でこの日を楽しんだり、好きな人と一緒に過ごしたりする神聖な日。
ボクの場合は、後者だった。
でも、その人は、今尚約束の場所に現れなかった。
今日は特別な日という事もあり、少しだけお洒落にも気を遣ってきた。
一週間くらい前から、服を選んだり、友達と一緒に、お化粧の仕方を勉強したり。
普段は見せない一面を、あの鈍感男に見せつける良い機会だと思ってた。
なのに・・・当のあいつは・・・
「・・・~っ!」
いつの間にか拳を握って、ぷるぷる震えている事に気が付いた。
周囲の人達の視線に気が付き、慌てて拳を解くと、恥ずかしさの為、俯いてしまう。
それもこれも・・・みんなあいつの所為だ。
それが、ただの八つ当たりだとしても、そう思わなければ気が晴れない。
顔を上げて、先程の時計台を見てみる。
さっきよりも10分程進んでいた事を確認し、深いため息を吐いた。
「ねぇねぇ彼女!今暇?」
「えっ?!」
突然呼びかけられた声に、一瞬待ちに待ったあいつが現れたと思ったけど、その期待は裏切られた。
そこには、全く知らない男の人が、陽気な笑顔でボクに話しかけていた。
「さっきから見てたんだけどさ~もしかして、彼氏にすっぽかされたとか?」
やたらと馴れ馴れしく、笑顔で嫌な事を言ってくる男の人を見て、気分が憂鬱になっていくのが自分でも解る。
「・・・うるさいなぁ。」
「え?何々?」
鬱陶しさを込めながら、不機嫌に呟いた言葉は、どうやらこの人には聞こえなかった様だ。
とりあえず、この人が諦めるまで、ボクは無視する事に決めた。
「この近くにさ、うまいイタメシ屋が有るんだけど一緒にどう?ねぇねぇ、行こうよ~」
「・・・」
「君の名前なんて言うの?ねぇねぇ、教えてよ。」
「・・・」
「もしかして、まだ彼氏待ってるの?もう来ないよそんな奴~ねぇねぇ行こうよ!」
そう言って、ねぇねぇ男(今命名)は、ボクの腕をいきなり掴み、引っ張ろうとする。
「ッ!!いいかげんに・・・」
「いい加減にしとけよ。嫌がってるだろ?」
ボクが言いかけた言葉を遮り、ボクたちの会話に割って入ってくる声。
その声は、ボクの後ろから発せられた。
ボクの聞き慣れた・・・ボクが待っていた・・・
街の喧騒を突き刺す様な、とても低く、それでいて響く声。
「あぁ~ん?なんだ、おまえ?おまえには関係ないだろ?」
そう言って、さっきまでの態度が消え失せ、ねぇねぇ男が声の主に凄味を効かせる。
「手前の為に言ってんだよ。その姉ちゃん怒らすと恐いぞ?」
声の主は、ねぇねぇ男の凄味など全く意に介していない様子で、戯けながらボクの悪口を言ってくる。
「ちょっと!人聞きの悪い事言わないでよ!」
さすがのボクも、そんな事言われて黙っている事なんて出来ない。
勢いに任せ、後ろを振り向き、あいつを睨んだ。
「遅れてきたのに、随分な挨拶じゃない!お陰で、こんな『ねぇねぇ男』に捕まったのよ?!ボクにしてみれば良い迷惑だよ!」
「なっ!?『ねぇねぇ男』だ~!?このクソアマ~!!」
ボクの言葉に怒ったねぇねぇ男は、振りかぶった拳を、ボクに向けて放つ。
気配だけでそれを察知したボクは、体の重心をずらし、拳を避ける。
「何すんの・・・よっ!!」
バコッ!
避けた勢いを殺さず、そのままの勢いで手に持っていたバックを、ねぇねぇ男の顔面に叩き込む。
ドシャ・・・
「・・・ってぇぇぇ~」
「あ~ぁ~・・・だから言ったのに。」
情けない声を上げているねぇねぇ男は、バックが当たった勢いで、その場に尻餅を付いて、当たった部分を手で押さえている。
辺りからは、ボクたちのやり取りを見てか、笑いを堪えながら、ねぇねぇ男に視線が集まっている。
あいつは、呆れながらにため息でも吐いてるのだろうか。
・・・ちょっとやりすぎたかな。
そんな考えが過ぎったけど、とりあえず今は気にしない事にする。
「お、覚えてろよ~!」
お約束な捨て台詞と共に、恥ずかしさのあまり顔を赤らめたねぇねぇ男が、人混みを掻き分けながら去っていった。
それを、見えなくなるまで見送り、ボクは軽くため息を吐いてから、振り返る。
「・・・何分の遅刻か・・・その体に教えてあげましょうか?一分一発の計算で・・・」
「あ~・・・勘弁してくれ。妹に捕まっちまったんだよ。」
そう言って、悪びれた様子もなく、後頭部を掻いているあいつ。
「も~・・・今日クリスマスだってのに・・・静菜ちゃんも、相変わらずのブラコンぶりね。」
「対処に困ってるんだ、よかったら貰ってくれ。」
「そんな・・・犬や猫じゃ無いんだから・・・」
ボクの呟きに、あいつは面白そうに笑っている。
「んじゃま。行くか聖。」
普段のじゃれ合いもそこそこに、そうあいつが言ってくる。
「・・・うん。」
なんとなく、話をはぐらかされたみたいだけど、あいつの申し出に依存もないので苦笑して答える。
彼の右腕に、ボクの腕を絡ませて、ボクたちは歩き出した。
知り合って5年・・・付き合いだして2回目のクリスマス。
いつの間にか、腕を組んで歩く事が、当たり前になっていた。
最初の頃は、気恥ずかしくって、彼の後ろを歩いていたっけ。
それが、並んで歩く様になって・・・手を繋ぐ様になって・・・
気が付いたら、彼の右腕が、ボクの指定席になっていた。
「どこ行くよ?」
そう言って、彼は、器用に左手で煙草を銜えると、火を付けようとする。
それを見たボクは、彼の口から煙草を奪い去った。
「おい・・・」
そんなボクをジト目で見て、呟いてくる。
「こんなに人混み有るのに、煙草なんか吸ったら危ないよ?」
そう言って、ボクは、彼の鼻を奪い去った煙草で軽く叩くと、煙草を彼に返した。
彼は、ため息を一つ吐くと、ボクの注意に素直に従ってくれた。
「まず最初に、この先の公園に行こうよ。そこなら吸えるでしょ。」
「へぇへぇ。おまえさんは正しいよ。」
そう言って、彼はため息を吐いてくる。
街の人混みを掻き分けて、中央公園へと入っていく。
人の居ない遊歩道を二人で歩く。
彼は煙草を吸いながら。
ボクは、彼に寄り添いながら。
煙草の煙が、ボクに掛からない様、気を付けて歩いている彼を見上げて、ふと、夢の中のボクの事を思い出す。
途端に、彼に絡めていた腕を解き、足を止めてその場に立ち止まる。
「ん・・・?どうした?」
ボクから2歩ほど先に進んだ所で、振り向いてきた彼の顔を見つめる。
どこか人を寄せ付けない雰囲気を醸し出している彼。
無造作に伸びた髪に、ややきつめに吊り上がった、力強い瞳と細い眉毛。
鼻は、大きすぎず、小さすぎず。
口の端には、煙草が銜えられている。
端正に整えられたその顔を見ていると、何故か懐かしくも、悲しい気持ちがこみ上げてくる。
「・・・話したっけ、ボクの夢のお話。」
「うん?将来の夢か?」
そう言ってくる彼に、ボクは無言で首を横に振った。
「・・・ボクが眠っている時に見る夢・・・誰かをずっと待っている・・・そんな夢。」
「・・・あぁ。そういやそんな話を聞いたっけな。」
確か・・・高校を卒業間際の時だったかな・・・
ボクたちが付き合いだす少し前・・・友達と言うには、仲が良すぎて・・・恋人と言うには、ちょっと早すぎて・・・
そんな曖昧な時期に、一度だけ彼に話した事のある、不思議な夢のお話。
いつから見始めたのか・・・もう良く覚えていない。
ただ・・・彼と出会う前には、見ていなかった事だけは確かだった。
「急にどうした?」
そう言って、彼はボクの前まで移動してきた。
2歩分の距離が無くなり、限りなくゼロになる。
「・・・夢の中で・・・ボクは・・・キミを待っていたんだと思う・・・冬の雪に、想いを馳せて・・・春の桜に、心を綻ばせながら・・・夏の蝉に、自分を重ねて・・・秋の月夜に、泣きながら・・・移りゆく季節に願いを込めて・・・ずっと・・・」
「・・・そいつは光栄だな。」
そう言って、ボクの左頬に、苦笑を浮かべながら、彼は右手を添えてくる。
少し煙草臭いその右手の手首を、ボクは掴んだ。
「・・・時々、すごく不安になるの・・・夢の中で、鏡に映ったボクが聞いてくるの・・・『あなたは・・・幸せですか?』って・・・ボクは、何も言えなかった・・・キミと一緒にいるだけで・・・とっても幸せな筈なのに・・・」
「聖・・・」
「幸せな筈なのに・・・言えなかった・・・」
いつの間にか、ボクは泣いていた。
とても苦しく・・・とても悲しい・・・
幸せな筈なのに・・・悲しい涙が・・・止まらなかった。
「いつか・・・夢の中みたいに・・・キミがどこかに行っちゃうんじゃないか・・・ボクが見る夢は・・・それを予見してるんじゃないか・・・そう思うと・・・」
ボクの頬に添えられた彼の手の感触を確かめながら・・・その手に自分の手を重ねながら・・・
静かに、瞳を閉じて泣いているボクと、夢の中のボクを重ねながら・・・
ペシッ・・・
「痛っ!」
「バ~カ、何泣いてんだよ。」
一瞬何が起きたのか解らなくなった。
閉じていた瞳を開くと、彼の左手が、ボクの眼前に来ていた。
鼻の頭に感じる痛みと併せて、デコピンならぬ、鼻ピンをされたみたいだった。
「未来なんざ、誰にもわかりゃしねぇのに、何時かなんて日が来ると思ってんのか?」
びっくりした思いで、彼の顔を見てみると、苦笑を浮かべながらボクの事を見て言ってくる。
「何時か・・・なんてのはな。俺達が望まない限り、やって来る事はないのさ・・・それが良い事にしろ、悪い事にしろ・・・な。」
独り言でも言うかの様に、ゆっくりとした口調で言う彼。
「俺は今・・・ここに居る。おまえの目の前にな。おまえは今・・・ここに居る。俺の目の前に・・・な。それじゃ不満か?」
「え・・・?」
「夢の中のおまえに言ってやれよ。今のおまえの気持ちをよ?」
そう言って、満面の笑みを浮かべて、ボクの頭をポンポン叩いてくる。
「もしそんな日が来るとしたら・・・そうだな。俺がおまえに愛想を尽かした時だな。」
「な、何よそれー!ボクがキミに愛想尽かすとは思わないわけ?」
彼の言い分に、怒ったボクは、彼の手を払いのけて叫ぶ。
いつの間にか、涙は止まっていた。
そんなボクを見て、彼は楽しそうに笑っていた。
「んじゃま・・・お互いそうならない様に気を付けなきゃ・・・な?」
「あ・・・」
再び、彼の手がボクの頭に乗せられる。
からかう様に叩くのではなく、今度は優しく撫でてくる。
何度も・・・何度も・・・
「・・・うん。」
「んじゃ・・・行くか?」
そう言って、彼は短くなった煙草を、携帯灰皿に入れてから、歩き出す。
「うん!」
彼の右腕に自分の腕を絡めて、ボクも歩き出す。
離れぬ様に・・・離されぬ様に・・・
ずっと・・・一緒に・・・
「・・・聖。」
「うん?」
遊歩道も終わりを迎える頃、彼の呼びかけに答えて、彼の顔を見上げる。
そんな私の目に、白い結晶が映った。
「あ・・・雪・・・」
「・・・寒い訳だ・・・寒いの嫌いなんだよな俺・・・止まねぇかな。」
「もぉ~ちょっとは気の利いた事言ってよね。」
呆れながらに言うと、彼は少し拗ねた様な顔をしてくる。
「暑い方がまだ良いわ・・・」
「・・・キミ、夏に暑いの嫌いとか言ってなかったけ?」
「・・・毎年言ってるねぇそんな事。」
「・・・バカ。フフッ・・・」
一言そう呟いて、今度は笑顔で彼の腕を抱きしめる。
ボクは知っている・・・彼が雪に気が付いて、ボクに教えてくれた事を・・・
「・・・何だよ、急に笑い出して・・・」
「フフッ・・・良いの。秘密だもん。」
そう言って、抱きしめた腕に、更に力を込める。
「・・・歩きにくいなぁ・・・少し離れろ。」
「や~だよ~」
鬱陶しそうに言ってくる彼の腕を、今度は前後に動かしながらじゃれる。
静かに舞い降る雪の道を、二人で歩く。
いつまでも、こんな穏やかな日々が続きます様に・・・
また訪れた冬の雪に、想いを馳せながら・・・祈りを捧げた。
「夢を見る・・・」
「それは・・・長く・・・儚く・・・悲しい夢?」
「穏やかに・・・幸せで・・・楽しく日々が続く夢を・・・キミに見て欲しい・・・」
「あなたは・・・誰?」
「ボクは聖・・・キミは?」
「私は・・・私の名は・・・聖・・・」
「キミは・・・ボクで・・・」
「あなたは・・・私で・・・」
「キミの夢は・・・ボクの記憶で・・・」
「あなたの夢は・・・私の願いで・・・」
『それは・・・終わりのない輪の様に・・・』
「私は・・・あなたの夢を見る・・・」
「ボクは・・・キミの悲しみを知る・・・」
『今も・・・昔も・・・これからも・・・』
「見ているだけで・・・安らぐ夢・・・」
「キミにも、知って欲しい・・・ボクの想い出・・・」
「あなたは・・・幸せですか?」
「ボクは・・・幸せだよ・・・とっても・・・とっても・・・」
「それは・・・とても良い事ね・・・」
「キミは・・・今、幸せ?」
「私?私は・・・」
夢を見る・・・
とても安らぎ・・・とても暖かい夢・・・
遠い遠い・・・とても遠い時代で・・・私は、一人の男性と、共に過ごしていた。
ずっと・・・ずっと・・・
冬の冷たい雪を、二人で触れて・・・
春の見事な桜並木を、二人で歩いて・・・
夏の蝉の鳴き声を、二人で聞いて・・・
秋の美しい月夜を、二人で眺めて・・・
また訪れた冬の冷たい雪を、二人で触れて・・・
何度も・・・何度も訪れる季節を、二人で過ごして・・・
夢の中の私は・・・とても幸せそうで・・・
とても・・・とても・・・
これは夢・・・
叶わない・・・叶えたかった・・・そんな夢。
とても暖かく・・・とても微笑ましい・・・そんな夢。
それが・・・ずっと続く事を・・・私は願っている。
それが私ではないにしても・・・私は願う・・・
『また、巡り逢うさ。』
あの人の言葉を思い返す・・・
あの人は・・・約束を守ってくれた・・・
例えそれが・・・来世の出来事だとしても・・・
鏡の中の私が、複雑な表情で聞いてくる。
『キミは・・・今、幸せ?』
私は・・・どう答えたら、良かったの?
部屋の障子を開くと、冬の澄んだ空気が入ってくる。
今朝から降り出した雪は、夜になった今も尚、しんしんと降り続けている。
寝間着姿のままで、私は寒さに身震いをする。
「・・・風邪を引きます。」
「うん・・・大丈夫。もう少し・・・眺めていたいの・・・」
部屋の中にいるクロが、私の身を案じて注意してくる。
それでも私は・・・静かに舞い降りる雪を、眺めていたかった。
「ごめんね・・・クロ。子守みたいな事をさせてしまって・・・」
「・・・主の為ならば。」
「・・・ありがとう。」
短い会話の後、窓辺に腰掛け、暗い空を見上げる。
あれから何年経っただろうか・・・
あの人と別れてから・・・私は生まれ故郷の信州に帰ってきた。
あの人と初めて出会った場所でもあるこの地で・・・あの人を待つ事に決めた。
何年でも・・・何十年でも・・・
あの人の言葉を信じて・・・
この地に帰って間もなくの頃は、さすがに色々問題もあったけど、今はなんとかうまくやっている。
朽ちかけた寺院を修繕して、今では孤児を集めて、寺小屋の真似事も行っている。
私が、今こうしてやっていけるのは、麗姫お婆さんや、明王衆の皆さんのおかげだ・・・
鈴音さんや兼道さんも、年に数度遊びに来てくれる。
子供達も、とても元気で、良い子ばかりだ。
「主・・・体が冷えます。」
いつの間にか側まで来ていたクロに、視線を移して、自嘲気味に苦笑する。
「もう少しだけ・・・ね?」
そう言って、艶のあるクロの体毛を、ゆっくり撫でながら、また窓の外を見る。
相変わらず、ゆっくりと舞い降りる雪。
夢の中で見た雪とは、全然違うな・・・
「・・・また、あの人の夢を見たよ。」
空を見上げながら、呟く様に語り始める。
「どこか遠い・・・穏やかに時間が過ぎる時代で・・・皆が笑顔で暮らせる様な・・・そんな時代で・・・私は・・・またあの人に出会える・・・あの人は・・・ちゃんと、私との約束を守ってくれる・・・だから私は・・・」
「主・・・」
クロの呟きを聞いて、私は視線をクロへと移す。
「とても・・・とても長い時間だけど・・・私は・・・寂しくないわよ。クロも・・・子供達も居るもの・・・寂しく・・・無いわ・・・」
言い終わる頃には、私の視界は、涙で歪んでいた。
「あれ・・・?おかしいな・・・寂しくないのに・・・寂しくなんか・・・ッ!!」
堰を切った様に流れる涙を、必至で堪えようとする。
なかなか止まらない涙をクロに見られたくない為、顔を背けて天を仰ぐ。
不意に、夢の中の私の言葉を思い返す。
『キミは・・・今、幸せ?』
なんて言えば良かったのだろう・・・
答えられなかった私・・・
幸せだとは言えない・・・寂しくないと言えば嘘になる・・・
でも・・・
「妬ましいって・・・気持ちは無いんだよ・・・?どんなに羨ましくても・・・あの人の隣に居るのが・・・今の私じゃ無くても・・・」
それが、私の正直な気持ちだ。
来世のあなたと、あの人を・・・ただ見てるだけしか出来なくとも・・・
負の感情は・・・一切芽生えなかった・・・
ただ・・・あの二人を見ていると、とても穏やかな気持ちになれる・・・
だから・・・
「心より・・・おめでとう・・・」
それが・・・夢の中の私に対する答えだ・・・
「・・・寝ようか。」
いつの間にか止まった涙。
涙の跡を拭い、私は障子を静かに閉める。
布団に潜り込み、目を閉じると、次第に眠気が襲ってくる。
今夜も私はあの夢を見るだろう・・・
あの日だまりの様な・・・そんな暖かい夢を・・・
夢の中の私に、また同じ事を聞かれたら・・・さっきの言葉を言おう。
そう・・・心に決めて・・・
遠い遠い・・・未来に想いを寄せて・・・




