3-21
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「お前達、解るか?」
(解る)
(おお)
暗くても解る銀色の鎧。
晶が話しかけると念話を返して来た。
「名前はあるのか?」
(グラム)
(ロック)
「なら名前はいらないな。直ぐに戦ってくれるか?」
(承知)
(おお)
「武器は何を使う?」
(剣)
(大剣)
「ちょっと待ってな……カヅキ頼む」
(はーい。終の手札)
晶によって生み出されたリビングアーマーは二体。
グラムとロック。
彼らは牢屋にいた霊体だ。
晶に拷問をした奴らのいる牢屋……過去に強い力を持つ者が殺されていてもおかしくない。
実際に、人型で力のある霊体であった。
しかし神気持ちであるカヅキやタケマツほど格納しても負担は多くなかった。
彼らの力は弱くないが、記憶や知識が欠けていた。
長い年月の結果なのかは判らない。
リビングアーマーになった今も言葉は短い。
グラムとロックはカヅキがカード化解除した剣、大剣を手に取った。
晶に歓喜が伝わる。
今の彼らには暗い感情しかない。
その彼らが喜ぶ……戦闘が出来るという事に対してた。
武器も人を傷つける物だ。
タケマツと違い、アンデッドらしいといえばアンデッドらしい。
「グラム、ロック、お前達の実力が解らない。一緒に戦え!」
(戦う)
(おお)
「あの人形達を潰せ、その後、俺の命令がなければ大きなゴーレムを狙え!襲ってくる者には反撃を!!」
(承知)
(おお)
晶の指示を受けて走り出すグラムとロック。
人間と大差ない速さで走っている。
金属音を響かせながら……。
隠密行動は無理だろう。
仮面紳士と戦っているエル。
背後から音を立てて走り寄るリビングアーマー達を警戒したりはしていない。
各感覚が鋭いエルだ、ちゃんと晶の話を聞きとっていたのだろう。
戦闘中だし他に剣戟の音もするのに器用な事だ。
想像以上に優秀。
高速移動している訳ではないリビングアーマー達。
庭の奥がぼんやり明るくなったかと思うと、グラムとロックへ向けて火の玉が放たれる。
後から来た魔法使いの仕業だろう。
火の玉はグラムとロックにぶつかり火を散らす。
「いただきー!」
誰かの声が響き渡る。
若そうな女の声だ。
「って……」
女の声が続く。
思った展開にならずテンションが下がっている。
そう、グラムとロックは走る勢いは削がれたものの、ダメージらしいダメージは見当たらない。
武器を構えて人形へ切りかかっていた。
人形の腕が飛び、体が両断される。
グラム、ロック、彼らにとって人形は強敵ではなさそう。
腕を失くした人形に追撃をかけるグラム。
新たな人形へ向かうロック。
大剣を使っているロックの方が威力あり。
生前使っていた武器が今の武器種であろう。
「大丈夫そうだな」
(ですねー。エルの負担を減らせますー)
ちゃんと戦力になりそうなのを確認して一安心の晶。
カヅキも同意。
フローラも頑張っていた。
フローラの手元に浮かんだ魔法陣から火の玉が飛ぶ。
火の玉で庭が明るくなる。
敵には当たらなかった。
「ダメか。夜に火の玉は目立ち過ぎかな……よし」
石礫へ切り替えていた。
魔法陣が目立つのは変わっていないが、射出後の軌道は読まれない。
暗さがそれを助けていた。
人形、兵士を削っている。
さすがというべきか『反帝十傑』の面々には当たらない。
名前は伊達ではないのだろう。
晶も仕事をしている。
フローラの魔法陣目掛けて飛んでくる矢を叩き落としていた。
動体視力も並ではない。
この場で魔法使いは目立ちすぎる。
威力は十分だが使いどころが難しいようだ。
晶の視界、その端でノックが弾き飛ばされた。
相手はノックと同じくらい大きい男。
大剣を振り切っていた。
ノックは獲物の六尺棒で受け止めたが威力を殺しきれなかったのだろう。
追撃しようとした大剣男にシーベルが迫り、低い体勢で足払い。
素手ながら体術が得意で体も柔らかい獣人ならではの動き。
大剣男は避けきれず体勢を崩される。
それでも大剣でシーベルを牽制している辺り戦い慣れている。
そうこうしている内にノックが復活。
こちらの頑強も伊達ではない。
ダメージはなさそう。
二人がかりながら、キッチリ戦えている。
タフなノックと獣人シーベル。
時間は彼らに味方しそう。
増援がなければであるが……。
鉄腕兄弟こと、ワイザーとバドは押され気味。
相手は若い剣士。
コンビネーションで対応しているが、剣士の斬撃を細かく喰らっていた。
振るうハンマーは地面を叩き、剣士には当たっていない。
体術での蹴りも逆に剣で切られる有り様。
細かい切り傷、そして出血。
鉄腕兄弟の顔は獰猛な笑顔であるのが救いであろう。
戦意は衰えていない。
全体で見ればエルのおかげで拮抗していた。
彼女が仮面紳士トール、ゴーレム、人形、魔法使いを自由に動かさせなかった。
暗闇での高速移動。
落ちている石を投げては牽制。
縦横無尽の活躍。
今も仮面紳士トールを前蹴りで吹き飛ばした。
初めて土が付いた。
敵の長柄武器を物ともしない接近戦。
強い。
(アキラ、ピエロ達が下がったのじゃ。迂回されたと思われる)
(タケさんを抜けなければそうなるか……了解)
(ワシも攻めに出て屋敷内の兵士を蹴散らしてから外へ出るのじゃ)
(お願いします)
(ピエロ達が来ると均衡が崩れるかもですねぇ)
(うん……逃げるべきか……)
そこへタケマツからの報告。
嬉しくない報告でもあった。
だが当然の展開とも言える。
カヅキの予想を聞いて考え込む晶。
それでも戦場から目を離してはいない。
一際大きな音が響く。
三mはありそうな身長。
そんなゴーレムの腕が地面を叩いていた。
その側にはエルの姿。
どうやらエルがゴーレム、人形の主である女達を直接狙おうとして防がれた模様。
彼女達も当然狙われるのが解っているのだろう。
対応方法はいくつもありそうだ。
仮面紳士トールが長柄武器でエルに突きこむ。
エルが大きく飛び退いて避けた。
この距離は仮面紳士トールの距離なのだろう。
仕切り直しといった感じ。
「トール様!遅れて申し訳ありません」
庭に響く声。
声の主はピエロであった。
タケマツに進路を防がれて足止めを喰らっていたピエロと細目の姿があった。
ピエロは仮面紳士を様付けで呼んでいる。
そういえば、白い仮面は血の涙を流しているような仮面だ。
ピエロの化粧も同じに見える。
関係者らしい。
「うむ、こっちより先に魔法使いを叩け!」
「解りました。お任せを」
「おんな、女の血ぃぃぃっ!!」
「俺の側から離れてくれないか?」
「柔い肉!お、俺が!」
「……こっちが離れよう」
仮面紳士がピエロに指示を出す。
エルが邪魔をしようと動いていたが敵の魔法で仮面紳士との距離を詰められなかった。
個人個人で戦いそうな相手であったが、割と連携がとれていた。
ピエロが返事をし、細目が危なそうな事を言っている。
細目の口許が歪み歓喜に打ち震えていた。
変質者、殺人鬼、とにかく危なそうな男。
見た目は普通っぽいのに……。
「うわぁ……」
「フローラ、俺の後ろに。タケさんが来たら攻勢に出る」
「うん」
狙われているのが自分らしいと判って嫌そうな声を上げるフローラ。
ドン引きである。
その声も直ぐに変わる。
晶が守ると言ってくれたからだと思われる。
何となく嬉しそうな気配を漂わせながら晶の後ろへ隠れていた。
(マスター!二つ目の城壁は超えられないようです……すみません)
(……ゼロ!越えられないってのは?)
ゼロの念話が入った。
問題があったらしい。
晶の方も問題あり。
かなりの速度で迫って来たピエロと細目。
その動きを見た晶はフローラをお姫様抱っこして屋敷の側から離れた。
庭で誰もいない方へ走っている。
二人が違う方向から襲ってきたらフローラを守り切れないと思ったのだろう。
逃げに入った。
一人だけなら難なく倒せたのであろうが……。
それでも念話に答えられるくらいの余裕はあった。
(瘴気を払うモノがあります。小物であれば動けなくなっていたでしょう)
(結界みたいなもんか)
(おそらく)
(二つ目の壁は、ここ貴族街のヤツだな。それくらいしてあるか……)
(無理をすれば突破出来るでしょうが、どうしましょうか?マスター)
(ぴよこもいるんだろ?)
(早く行こうと私を突いていますね)
ゼロからの報告。
対魔物用の結界が張られているらしい。
晶がぴよこの事を聞いている。
誘拐後、別れる時にゼロに預けたままだ。
ゼロは無理やり突破出来てもぴよこには厳しいだろう。
だから晶が聞いている。
ぴよこがゼロを突いているとの事。
何となく想像出来る。
ゴォォンッ……貴族街に突如響き渡る鐘の音。
闇を震わす音。
鐘は合計三回鳴った。
コス家の騒動が外へ伝わったのか、ゼロの襲来のせいか……。
おそらくそのどちらかであろう。
増援が来る可能性も高くなった。
貴族のみならず王城にも聞こえるであろう音。
並の事では鳴らさないはず。
やばそうである?
戦ってはいるものの、時期を見て逃げようと考えたのが甘かったのか。
フローラを抱えたまま眉に皺を寄せる晶。
(ゼロ、一度森へ退避しておけ。敵に襲われるかもしれないから注意な)
(……解りました。また連絡します)
参戦できずに悔しそうなゼロ。
(ワシ参上)
(おぉ!タケさん待ってた)
(来ましたねー!)
屋敷からタケマツが飛び出してくる。
盾ごと体当たりされ吹き飛ぶ兵士達。
参上で惨状。
コス家の庭は乱戦。
屋敷からの兵士達が加わって逆にノック達は上手く戦えている。
兵士を盾代わりに出来るのは大きい。
やり難そうになった大剣の大男と若い剣士は少し引いた場所で全体を見直していたり。
響き渡った鐘により、貴族街も慌ただしくなるはず。
戦いは終わっていない。
晶には逃げる伝手もない。
時間は晶達を追い詰めるのであった。




