3-22
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「ぐぅっ……」
「あぁ……」
乱戦の庭。
そこへほぼ同時に声が上がった。
一つは苦痛に呻く男の声。
もう一つは悲しげな女の声。
男はバド。
ハンマーを持っていない左手首辺りから血を流している。
他の細かい傷と違い傷は深そう。
苦痛に顔を歪ませている。
バドの兄であるワイザーがバドの側で細目へハンマーを振っていた。
細目は魔法使いを狙えと言われていたがバドを襲っていた。
彼らの関係性が良く解らない。
女は美女をお師匠様と呼んでいた少女。
町娘っぽい子だ。
彼女の目の前にいた人形が崩れ落ちた。
その人形を倒したのは晶の生み出したロック。
大剣を振り切っていた。
そして動いている人形はいなくなってもいた。
そのおかげでエルが大きな動きのゴーレムを掻い潜り仮面紳士トールと対峙している。
(タケさん!いただく物はいただいたし、暴れた。もう離れよう)
(良かろう。ゼロも来れなさそうじゃしな)
(また殿を頼んでも?)
(うむ。任せておくのじゃ)
晶はタケマツに念話を入れると走り出した。
彼の腕の中には驚いて口を押えているフローラ。
悲鳴を抑えてもいるのだろう。
お姫様抱っこに?いや晶の移動速度にかも知れない。
闇を引き裂いて進む晶。
視認出来ている者がいるかどうか……。
晶の向かった先はコス家の庭で一番手薄そうな壁。
門の外には人の気配。
だから壁に向かったのだろう。
「うおりゃあっ!」
「きゃぁ」
晶が速度を緩める事なく石造りの壁を蹴り破る。
フローラは怖かったようで、彼女から小さな悲鳴があがる。
晶の身長以上ある壁に大きな穴が開く。
勢いのまま穴を通り抜けた晶。
その背後で穴周辺のレンガらしき物がボロボロと落ちた。
崩れて穴が大きくなる。
晶が穴から庭へ顔を出す。
「お前ら!もうここには用はない!外へ狩りをしに行こうぜぇ!!」
(ふふっ。素直に逃げるって言えばいいのにー)
(何か悔しいじゃん)
空気が震えるほどの大声。
カヅキが晶をからかう。
調子を取り戻した感じ。
自分のテリトリーではない事がプレッシャーになっていたのだろう。
「おう!」
「おう」
「鉄腕兄弟!先に行け」
「私達が抑えましょう」
「お前らもだよ、ノック、シーベル!タケさん、エルと鎧の人達が後ろを抑える!早く来い!!」
(タケさん、グラム、ロック、よろしく!)
(任せい)
(承知)
(おお)
「エルも時期を見て離脱。無理はしなくていい!出来るな!?」
「ええ」
晶の指示を聞いて動く者達。
しかし晶の声は庭にいる者全てに伝わっている。
コス家の庭が騒がしくなる。
「行かせるな!衛兵も動かせ!もはや大事になっても構わん!」
「トール様、お任せを!」
「せっかくの血袋、行かせはしない……」
仮面紳士トールが叫ぶ。
ピエロがトールへ返事をする。
細目は晶の方を見ながらブツブツ言っている。
「あの兄弟を仕留めきれなかったぜ……ムカつく」
「あの坊主、タフ」
若い剣士と大剣の大男。
彼らは怪我はしていない。
少なくとも見た目で判るような怪我はなかった。
それぞれ息の合ったコンビを相手にしていたのにだ。
しゃべりながら歩き出し、どんどん速度を上げていく。
「はぁ……面倒」
「まったく面倒ねぇ」
「お師匠様!気合入れましょうよ!!」
「あんたうるさい」
魔法使いの女が気怠そうな声でぼやいている。
同意見なのか美女師匠も似たようなぼやき。
女の中で一人周囲の熱を上げていそうな少女。
お師匠様に文句を言われていたり。
それでも動き出していた。
大きなゴーレムが崩れていく。
そして残ったのは金属の骨格。
未来から来た終結させるモノ、そんな感じである。
大きいままでは追撃には使えないのだろう。
「門から回り込め!」
「怪我人をまとめろ!」
「さっきの鐘はうちの件か!?」
「判らん」
「自分のやるべきことをやるだけだ」
コス家の兵士達も動いていた。
だが『反帝十傑』や、その従者と違い怪我人だらけ。
起きて動いている者の倍以上倒れ伏している。
惨状だ。
少人数で戦った脳筋ズを褒めるべきだろう。
壁の穴へ向かって走る脳筋ズ。
鉄腕兄弟が先頭だ。
怪我をしたバドをワイザーが後方を守るように走っている。
手にはハンマー。
ノックほどではないが巨体なので足はそれほど速くない。
そのノックも鉄腕兄弟の後ろを走っている。
隣にいるシーベルにとっては余裕の速度らしく、時折後方を振り返っている。
更に後方にはタケマツ率いる鎧ズ。
彼らは全方位が視えているようで走りながら後方へ剣を振って敵を近寄らせなかった。
さすが霊体の仕事である。
迫る矢も魔法も難なく潰していた。
頼もしい殿。
そんな中逃げていない者が一人。
エルである。
厄介そうな仮面紳士を釘付けにしている。
晶達を追う者達へも投石をしていたり。
これだけやれるとは……彼らとは頭一つ実力が違うようだ。
さすがヴァンパイアロード。
夜の支配者。
「さて……みな離脱できそうだな」
(ですねー。これからどうします?ゼロちゃんは来れそうにないですし、さっき響き渡った鐘も気になりますー)
(だよね)
(貴族街を覆っているという壁もぶち抜きましょうー)
(やってみないと判らないけど、やれるかなぁ)
(少なくとも門は通れないでしょうー)
(壁も高いんだろうな。とりあえず壁まで走って、蹴ってみよう)
(はーい)
晶には明かりの少ない闇でも問題無く視えている。
晶の方へ走ってきている脳筋ズが大丈夫そうなので一安心。
自分の身は守れるが人の身を守るには限りがある。
腕の中にいるフローラだけは確実に守るであろうが。
カヅキ相談役と相談。
ここからは行き当たりばったり作戦っぽい。
ゼロは来れそうもない。
鐘の音も不安要素だ。
晶のずば抜けた力で力技を披露する事になりそう。
(カヅキ、ナビよろしく)
(任せてー。あっちは大通りだから……右へ真っ直ぐ行きましょうー)
(おう)
鉄腕兄弟の姿が近づいたので、次の行動へ移る晶。
晶はキーナ商業国の首都コナモに詳しくない。
いや、まったく知らないと言うべきか。
誘拐されて馬車で連れて来られただけだもの。
土地勘などまったくない。
霊体で偵察していたカヅキに全てを任せている。
正しい選択だろう。
出来る者がやる。
そういう事だ。
(脳筋ズが壁を越えそうだ。タケさん、エルを連れて離脱してください。グラム、ロックはタケさんに従え!)
(任せい)
(承知)
(おお)
晶とエルに繋がりはあるが、晶の力ネクロマンサーの力ではないので念話が出来ない。
さきほど指示を出していたので、エルは様子を見て勝手に動いてくれるとは思うがタケマツに頼んでいる。
殿が鎧ズと実力者のエル。
そう簡単には戦闘不能にはならないはず。
晶が頼むに足る仲間だ。
晶は暗い通りを少し進んでは後ろの様子を見た。
脳筋ズは壁を越え、ちゃんと付いて来ている。
彼らの先、大通りの方に人が視えた。
しかし走ってどこかへ消えていった。
今、貴族街を走り回っているのはコス家の者達だけではない模様。
他にも何かが起こっていそう。
まだ、晶は気づいていないだろうが。
(ゼロ、俺達は二つ目の壁を越えるつもりだ。敵がいないなら近くに来ていてくれ)
(解りました。マスター)
ゼロに指示を飛ばす晶。
忙しい事だ。
そこへ近寄る影。
晶も魔眼で気づいていた。
少し速度を落として警戒。
晶の魔眼は魔力が視える。
指紋ではないが魔力も人によって違う。
そして魔眼に映った魔力は晶が知っているモノであった。
「デルマ」
「あら、良く判ったわね」
「まぁな。何の用だ?逃げたんじゃなかったのか?」
コス家の牢屋で一緒だった女。
水商売風の女、デルマ。
晶が影に声をかけると通りの陰からデルマが出て来た。
着ている物も変わっていない、粗末な服だ。
だが、どことなく色っぽい。
デルマがちょっと驚いている。
隠れていたのだ、驚くのも無理はない。
晶は待ち伏せていたデルマに疑問を持っている。
だからこその質問。
「んー。もういいかしら……私は王家直属の密偵なの」
「……密偵?王家の?」
「ええ。帝国の惨劇以来、異世界人絡みの事は禁忌なの」
「それが判って動いていたと?」
「そういう事ね。あなたがコス家に連行されるとの情報、それで先に牢屋で待っていたのよ」
「ほぉ……たいした情報力だな」
「国内では一番の諜報力を誇っているわ」
デルマが右手を顎に当てて首を傾げた。
考える時のポーズらしい。
だが、直ぐにぶっちゃけて来た。
いいのか?大事そうな話だが……。
デルマ、その後ろにいる組織は晶が異世界人だと理解している模様。
帝国崩壊へ繋がった事件、異世界人が原因の事件でもある帝国の惨劇。
この国の王家の方針とコス家の行動は別らしい。
晶が来る前に牢屋へ入るとは……コス家内にも協力者がいるとみるべきだろう。
「で、惨劇の再来を恐れて動いている訳か?」
「ええ。コス家はやってはならない事をやってしまったわ……」
「ほう」
「王家のみならず、多くの者は望んでいないの」
「へぇ」
「だから力を貸して害意はないと知ってもらおうと、私が来たの」
「ふーん。まぁ敵ではないってんなら、ありがたいかな」
晶は情報収集。
情報の真偽、自分の知っている情報と合わせて自分の行く道を探っている。
デルマのいう事を信じるならば、味方になってくれそうだ。
「敵対するつもりはないわ。まず……ここからの脱出を手伝います」
「おっけー。俺達の関係は脱出してから考えるさ」
晶は軽く返事をしているが、コス家と今回の事件に関わった者達を許さないはず。
俺達の関係……協力しだいでは王家の意向を少しは聞くかも。
潰してもらっては困る貴族などもいるはず。
商人などもそうだ。
そして今後の付き合い方も当然考えるのであろう。
「ええ。それでお願い」
「俺達はどう動けばいいんだ?」
「この先の壁を右へ行ってちょうだい。ある屋敷の所に私の仲間がいるわ」
「ふむ」
「黒いローブを頭から被っている仲間よ。私の名前を出せば攻撃してこないし、その先へ連れて行ってくれるわ」
「デルマが一緒に行くってのは?」
「アキラには付いていけそうにないもの。速度的に」
「そっか」
デルマは晶達の脱出に手を貸してくれるようだ。
既に手を打って出て来た模様。
さすが諜報部というべきか。
先の展開を読んでいる。
味方なら頼もしいものだ。
晶は後続が付いてきているかを確認。
バドとワイザー、その後ろにはノックとシーベル。
ちゃんと向かって来ている。
(タケさん、デルマが手助けしてくれる。彼女はここの王族、その諜報関係だってさ)
(ほぉ、デルマとは牢屋にいたあの女じゃな)
(うん)
(まぁ、ワシや晶、エルは問題あるまい。脳筋ズだけ何とか出来れば良かろう)
(最悪はそうだね。大暴れは最後の手段にしたい)
(そうじゃな。この国に近づけなくなるからのぅ)
(そういう事です)
(解ったのじゃ)
晶がタケマツに報告。
一番後ろを支えてくれているタケマツだ。
情報の共有は大事。
晶も馬鹿ではない。
「デルマ、最後に聞いていいか?」
「何かしら?スリーサイズ?結婚しているかどうか?」
「ぶっ!ちげーよ!」
「あら、残念」
晶がデルマにからかわれている。
女に慣れていない事が見抜かれている模様。
まぁ、そんな晶の腕の中にはフローラがいるのだが。
フローラは不満そうに頬を膨らませているが、黙って聞いている。
「何で俺達がここに来ると判った?」
「あぁ、その事ね。コス家の周囲には私の仲間が何人か控えているの。大通りが騒がしいからここが本命だとは思っていたけれどね」
「おー!やるな」
「でしょー」
デルマがここにいた事を訝しがっていたらしい晶。
デルマが本命であったものの、他にも人がいたようだ。
抜け目ない。
「デルマじゃねーか」
「何でこんな所にいるんだ?」
「アキラ、後ろの奴らをやっちまおうぜ?」
「がんばりますよ?」
脳筋ズが追いついて来た。
晶の隣にいるデルマを見て反応する鉄腕兄弟。
ノックとシーベルはデルマに気が付いていたが戦いの方が気になっていた。
物騒な脳筋。
デルマはここで時間を使いたくないのか、手を振っただけで返事はなかった。
晶もそれを見て察する。
「デルマが手助けしてくれるってさ。行くぞ」
「お、おう」
「そうなのか」
「行くのかー」
「行きましょう」
晶がフローラを抱えたまま走り出す。
脳筋ズも晶に続いて動く。
デルマは晶達を見送って壁の陰へ。
タケマツ達に必要があれば、また出てくるのだろう。
大通りは騒がしい。
兵士達が走り回っていそう。
コス家からの追手も付いてきているがタケマツと鎧ズ、エルに阻まれて迂闊に動けなそう。
晶と脳筋ズ、敵と距離を置く事が出来ていた。
晶を先頭に月のない夜道をひた走るのであった。




