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「さすがに認めざるを得ない」


 晶は洞窟で寝そべって呟いている。


「密かに夢なんじゃないかと思っていたが……現実らしい」


 色々考えていたのか。


「玄関で酒を呑んでいたのは間違いない。酔って倒れて頭を打ったとか災害で意識を失った可能性はあり得る」


 想像力豊か。


「でも一か月だもんなぁ……」



 晶が送られてきてから既に一か月が経っていた。

初めて見るもの、知らない常識。

そんな事に戸惑いながらも生き延びていた。

地球ですらバイトせずには生きていけなかった晶。

ボーッとしたり我が身に起こったことを嘆いていても事態は変わらない。

そこの所を正しく理解していた晶は、自ら動き、配下になったゼロに質問したりして頑張っていた。

もっともゼロはワイバーンであった時、戦う、食べる、飛ぶ、寝るくらいしかしていなかったらしく得られる情報は少なかった。

ワイバーン全体を見ても代々伝えられる様な情報はなかったらしい。

それどころか意志疎通も怪しかった模様。



 それでも色々な事を経験し学んでいた。

自身の能力の確認、応用。

配下であるゼロの能力確認もだ。

ゼロが倒したワイバーンの解体、そして肉を食べた。

肉は美味かったらしい。

脂身がもっとあれば最高だったとか。

元が一人暮らしでバイトの身。

だがグルメ雑誌の関係者であった姉のおかげで美味い物も食べていた。

ワイバーンの肉が美味いというのは嘘ではなさそうである。

余談だがゼロの尻尾攻撃時にトゲから猛毒がワイバーンに叩き込まれていた。

つまり尻尾らへんでなくとも毒は混じっていた……。

ええ、晶君は食べていましたね。

旨みの中に時々くるパンチのある美味さ。そんな批評をしていたとか……。

晶は倒れたりもせず未だにピンピンしてます。


 そうそう、ワイバーンの解体。

それはゼロがほとんどやった。

牙を突き立て爪も器用に使い解体していった。

細かい部分の処理は晶がやった様だが活躍したといえるほどではなかった。

ワイバーンの皮はゼロが唾液とともに噛みほぐした事により鞣した状態に近くなっていた。

獲物の皮をそうする事で住処に敷いて寝床にしていたりしていたらしい。

わりと文化的な部分もあるワイバーンだと判明した。

そんなワイバーンの革が洞窟の奥に溜めこまれていた。

牙や爪、そういった素材になりそうな物も取ってあった。

そして定番の魔石らしき物もあった。

少し大きいビー玉で乳白色に緑色の線が混じっていた。

晶が冒険者ギルドで使うんだと大事にため込んでいた。

ゼロはそうなんですかーと素直に受け止めていたとか。



 生活環境はどうなのか?

衣食住のうち食は何とかなっていた。

住、まごうことなき穴と言われた洞窟も革の敷物で多少は住みやすくなっていた。

もっともゼロは体の大きさにより入れず、いつも洞窟の外で寝ていた。

風呂、トイレはない。

晶はゼロに水場の位置を聞き水浴びをして体を清めていた。

晶は男なので水浴びに色っぽい場面はない。

たぶん。

トイレは必要なかった。

何故かというと出なかったからだ。

不思議な事もあるものだ。

食べて入る物はあるのに出る物がないなんて……。

そこに疑問を持った晶。

驚愕の事実が判明する。

何と食べる事すら必要なかった。

食べる事は趣味嗜好の一環でしかなくなっていた。

さすがに晶も自分の異常性に気が付いた。

せっかくの特殊能力、食料の具現化……密かに価値が下がっていたが晶は目を背けていた。



「どうやらこの体を覆わせている力のせいっぽいんだよなぁ……」



 異常性の原因についても思いあたる事があった模様。



「覆うのを止めて生活したらトイレが必要だったし……」



 ちゃんと検証も進めていたらしい。

アホの子返上である。



「水浴びも必要ないんだよなぁ。汚れてないけど気分の問題でやってるが」



 晶は綺麗好き。

いや多くの日本人と同レベルのはずだ。

温泉なんて見つけた日には狂喜乱舞するであろう。

気持ちは解る。



「岩山周辺の森を結構歩き回ったけどバッシュは汚れないし、靴下も匂わなかったもんな……」



 匂いフェチではないはず。

きっと……。

業の深いこの男の事だ。

断言出来ない。

まさかトランクスも……いやいやまさかね?


 着替えのないこの状態で問題がないとか……異常である。

本人はおかしいと思いつつもありがたそうにしている。

実際助かっているに違いない。



「この力って何なんだろう……魔力だと思うんだけど便利過ぎだろ」



 ブツブツ言っている。



「これだけの事が出来ているのに何かが減っている気がしないんだよなぁ……逆に怖い」



 タダより怖い物はない。

そこに思い至れる晶。

判断力はあるみたいだ。

ラッキー!で済ませたらそれはそれで問題であろう。

色々楽に生きられるとは思うが。



「異世界人って線もあるか……」

「さて眠る必要もないが寝るのは好きだから止められない。ふわぁー」



 洞窟で寝る前のひとときであった。

晶も考えて生きている。

そしてゼロは外であった。







「とりゃ!」



 晶とゼロはワイバーンが縄張りとしていた範囲に入った魔物と戦っていた。

晶の掛け声は気合が入っているのか入っていないのか判り難かった。


 侵入してきた魔物はワイバーンと縄張り争いをしていた大蜘蛛、デススパイダーである。

デススパイダーは人が乗っかれるほど大きい。

しかし森では縦横無尽に動く。

とても素早くだ。

まさに森の狩人であった。

猛毒を持っており、神経をマヒさせ心臓をも止めてしまう。

そんな厄介な魔物であった。

しかも周辺の蜘蛛系魔物を引き連れてである。

蜘蛛のボスと呼べるだろう。


 蜘蛛が苦手な人がこの光景を見たら卒倒するに違いない。

周りの木、見上げた木の上に大小様々な蜘蛛……。

晶は知らないが、その中にはスナイパースパイダーやロックスパイダーといった他所でボスを出来る様な蜘蛛も混じっていた。

見なければ良かった……そんな事を思わせる光景だった。

幸い晶は苦にしなかった。

苦にしなかったというのは蜘蛛が苦手というだけでなく戦闘面でもそうであった。

射出された蜘蛛の糸に絡まれても難なく引きちぎったり逆に大元の蜘蛛すら手元に引き寄せて殴ったりしていた。

殴られた蜘蛛の結末?

殴られた部位が爆散していました。ええ。


 ゼロは上空から攻撃しやすい相手を狙って倒していた。

こちらも被害はない。

突っ込んだその場で戦わず、一撃離脱の戦法をとっていたのが大きい。

以前であればとらない戦法でもあった。

晶からお前が倒すのはいいがお前は倒されてはならない。

そう厳命されていたからである。

また蜘蛛の一匹を尻尾のトゲで始末した。

ゼロは上空へ進みつつ晶の方を見た。

晶は木を蹴り飛ばしへし折っていた。

そして攻撃範囲内へ入った蜘蛛へビンタである。

ビンタ……なぜビンタ?

だがビンタが当たるとその部位は爆散し欠損、または魔物の活動停止という結末になっていた。


 ゼロは思う。

凄まじい破壊力だと。

そして蜘蛛の得意領域である森で踊る様に戦うマスター。

その姿を見て戦慄とともに憧憬を抱いていた。

素晴らしいマスターに仕える事になった。

歓喜の感情が湧き上がるのは無理もない事であろう。


 実際、晶はカッコイイ。

そう言えるだけの動きであった。



「あれがボスか……あれよりでかいのもいたけど何だかヤバそうな感じ。色が特になぁ……」



 晶が手で日光を遮りながら木の上を見上げて呟く。。

農家の人が、さて一休みすんべぇか、そんな事を言っている様な呑気さであった。

少なくても切羽詰まった感じではない。

余裕か。

晶が見上げている場所には大蜘蛛がいた。

黒色をベースにして紫色の線が混じり斑になっている体。

何やらキチキチッという音で威嚇されていた。

無機質な複眼が不気味。



「棍棒は岩っぽい蜘蛛を殴って折れたし、素手で殴るしかないかなぁ……触りたくない感じだけれども」



 ヤバそうな相手でも引くつもりはない様だ。

どうした晶、覚醒でもしたか!?

ある意味覚醒であった。

ワイバーンを倒した自身の力。

蜘蛛にも通用していた。

拳を握って殴る、ズブリと体にめり込む拳。晶の顔は歪んだ……気持ち悪かったのであろう。

手をパーにして殴る、なぞる様に殴ったせいか打点がずれて蜘蛛の体が広く弾けた。爆散。

体の動き、力の入れ方、どんどん上手く戦えるのが判っていく。

殺生もなんのその、楽しくなっていた。


 そして残るはボスであろう個体のみ。


 大蜘蛛は何本かの木に飛び移り蜘蛛の糸で自らの領域を造りだしていた。

迎え撃つ格好。

蜘蛛は待ちの狩人だ。

本来ならば蜘蛛の糸で動けなくなった所を奇襲するに違いない。

急遽張った糸は、思った展開にならない現状での苦肉の策であろうか。

そして、その糸は白くなかった。

絶対に何か良くない物が混じっている。

そう言わんばかりの糸であった。

警戒せざるを得ない。


 まぁ、晶が蹴りで木をぶち折って行き無駄にさせていましたがね……。

大蜘蛛は違う木へ移ろうとして飛んだところを大地に放り出され晶の方を向いていた。

おそらく茫然として見ていたのであろう。

だが、その時間は短かった。

すぐさま身を翻し逃げに移っていたのはさすがと言うべきである。

もっともそれを見逃す晶ではなかったが。


 大地を蹴り大蜘蛛の背後を追う晶。


 そして大蜘蛛の足は吹っ飛び、次いで大蜘蛛の体が爆散した。


 大魔王からは逃げられない、そんな言葉が似合いそうであった。



「触っちゃったけど……大丈夫っぽい。まぁさっき違うヤツの毒液を浴びた時も大丈夫だったしな」



 既に毒は経験していた模様。

同じ毒とは限らないのだが……実際違っていた。

猛毒である。



「この体を覆う魔力って凄すぎだろ。ゼロは使えないのかな?町の人がみんな使っていたら怖いかも」



 晶は力が強いだけでなく抵抗力、耐性に関しても性能を発揮させていた。

それから晶よ、町があるのは確定なのか?

都合のいい希望、願望は後で失望に変わるかもだぞ?



 ゼロは上空から晶と大蜘蛛の戦い、その様子を見ていた。

何一つ見落とさない。

それくらい気合の入った見学であった。

マスター強い……。

あのデススパイダーを瞬殺とか……今の自分でも倒せるだろうが短時間では無理だと思っている。

昔、仲間の何体かがやられていた。

その記憶は残っていた。

それがこの結果。

ゼロは晶の凄い所を見た。

元々晶に支配されている身ではあるが自ら従おうと思わせる力であった。



 やれば出来る子。

晶は頑張った。

息も乱さずに……魔物の上を行く怪物。

晶はそんな存在になっていた。

当の本人も天狗にはなっていない様だが自信ありげに見える。

この世界で生きていく不安は減った事だろう。

殴り後衛、殴りネクロマンサーはどうかと思うけれども……。



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