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「ゼロさんや……ワイバーンの死体を放置しておくのも何なので、そこらに纏めておくんなまし」
(おくんなまし?)
「あぁ、そこは気にしなくていいからゴー!」
(はい)
ゼロにさん付け、語尾が変になっている辺り動揺しているのが丸出しであった。
言葉に慣れていないゼロは律儀に語尾の事を確認していた。
晶から何らかの情報を引き出している様だが真面目そうなのは元々の性格であろうか?
いきなり人を襲う暴れん坊だったというのに……主人の一面に似たのかも知れない。
素直な返事であった。
ゼロが空に浮かび上がり空を飛んだ。
晶はその様子をポカーンと口を開けてみていた。
グッグググッ、そんな感じで体が浮かびツィーッと空を滑る様な移動であった。
「いいなぁー俺も飛べないかなぁ……」
指でも咥えそうな感じである。
羨望の眼差しだ。
「しかし……あのでっかい羽は広げただけだったな。どうやって飛んでんだ……」
ちゃんと見ているところは見ていたらしい。
ゼロの謎飛行に疑問を持っていた。
ゼロに聞くであろうし、いずれ真実に辿り着くはずである。
そのゼロは遠くの死体から運ぶことにした模様。
性格が出ている。
美味しい物は最後に食べる、面倒な事は先に片付ける。
そんな性格だろう。
おそらく主人である晶も同じに違いない。
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(死体を纏めました。マスター)
「お疲れ様。いや下の者にいう時はご苦労様か?まぁいいや」
晶はゼロを労っている。
労ってはいるが自身ではまったく手伝っていなかった。
何やら考え込んでいた様なのでセーフか?
くだらない事だった可能性は大いにあったが。
ワイバーンの死体が山積みになっている。
並べずに積み重ねる辺りにも性格が出ているのかも知れない。
功績を判りやすくしただけだろうけども。
ゼロはしっかり者らしい。
「コレ食べられるのかな?」
(私は食べた事があります)
「えっ、共食いしたって事!?」
(強敵を倒した者が死んだ場合は皆で喰うのが習わしでした)
「お、おぉ。日常の事でなくて良かったよ」
目の前に積まれたモノを見て聞いている。
そしてゼロの共食い発言にドン引きする晶であった。
幸い日常的に喰らいあっていた訳ではない模様。
強い者を自身に取り込むとか、受け継ぐといった様な事が近いかも知れない。
「俺は食えるのかなぁ」
(尻尾の付け根から尻尾の先までは毒腺、毒の経路があるのでダメかも知れませんね)
「毒!毒はヤバイ」
(私的にはビリッとして美味いんですけども)
「そらー体内に毒を持っているお前だけだ」
(残念です)
「食ってほしかったのかよ!」
(同じ物を食べる……共同体では大事な事らしいので……)
「俺からの情報か……同じ釜の飯だな」
(はい)
「まぁいいや。ゼロのメシはしばらくコレで大丈夫か?」
(そうですね……同朋って感じではなくなったので問題なさそうです)
「良かった。どうやってメシを食わせていこうかと思っちゃったぜ」
(お気になさらずに。自分で狩りにもいけますから)
「あーそうか。今までそうして生きていたんだもんな」
(マスターは違う様ですね)
「そうなんだよ……今後が心配だ……ってある程度解決はしていたんだった」
せっかくの獲物を無駄にするのが悔しかったのか食べる事を考える晶。
そしてゼロからの毒情報。
ペットは責任を持って飼わないとね。
晶はそんな事を思っていたに違いない。
ゼロにとって狩りは日常の事だったらしく問題にはならなかった。
むしろ晶が食わせてもらう立場だと言いたい。
もっとも特殊能力で食べ物の心配はない。
その事に漸く気づく晶であった。
まぁ、ワイバーンも食べるつもりである様だった。
自分の身を削って食べていたら詰む。
そのくらいは考えていた。
意外とまともな晶。
(どうかしましたかマスター?)
晶が洞窟の方を見て黙っている。
それを見てゼロが問いかけている。
いきなり築かれた関係ではあったが中々上手くいっている。
どちらかと言えばゼロの方が上手くまわそうとしているのであった。
ほぼ、ぼっちだった晶に大きな期待をするのは間違っているので良かったと言える。
「我輩が思うに我が現れたこの洞窟がただの洞窟であるはずがない」
(ワ、ガハイ……?)
「おそらくダンジョンだと思われる。きっとどこかにダンジョンコアがあるに違いない」
(ダン、ジョン……)
「そうは思わないかねゼロ君」
真面目な顔をしていたと思えば、この程度である。
口調の変わった晶に戸惑うゼロ。
そんな様子に気づかない晶。
何やら妄想を垂れ流している。
ドヤ顔がイラつく。
だがそれを追及する者はいない。
「そうは思わないかねゼロ君」
大事なことなのか二回繰り返して言う。
(はぁ……)
「今は十m足らずの洞窟だが我によって拡張、そして我が領土、王国へと変貌する未来が見える!」
(寝不足ですか?)
「我はぐっすり寝たぞ」
(ワレ……)
「……おりゃーさ、この洞窟がただの洞窟じゃねーと思う訳よ」
ゼロからの視線が尊敬の眼差しではない事に気付く晶。
相当砕けた口調になった。
「ゼロはどう思う?」
(岩山に開いた穴ですね)
「……穴」
(はい。穴ですね)
「えーっと、言い方が悪かったかな?何か仕掛けがあるんじゃないかな?ちょっと違う所がないか?」
(まごうことなき穴ですね)
「……そっか」
しょんぼりする晶。
何が彼をそこまで駆り立てていたのか。
どこに自信を持ってダンジョンだと言い張ったのか。
謎は深まるばかり。
どうせラノベの読み過ぎといった所だろう。
これまた業の深い事である。
「人のいた痕跡はなかったけど誰が掘ったんだろう」
(上の岩山がワイバーンの住処だったので、少なくとも最近の穴ではありませんね)
「そっかー」
(そういえば人というのはオークやゴブリンに似ていますね)
「ん?オーク、ゴブリン?」
(森の奥で偶に見かけます)
「二本足であるく豚と子鬼?」
(ソレです)
「おー!やっぱいるんだなオークもゴブリンも!いきなりワイバーンとか間違ってんだよ!!」
(私に言われましても……)
「誰かの嫌がらせだな」
(はぁ……)
「くっそー」
(マ、マスターはどこから来たのですか?この辺りでは見かけない種族ですが……)
「俺?俺は遠くから送られて来たんだよ……って見かけない!?」
(送られて……って人というのはマスターの様な姿形をした種族ですよね?初めて見ました)
「ちょっと待って!」
嘘松かな?
いや違う。
「あの、その……この辺りってどのくらい?」
恐る恐る晶がゼロに問いかける。
(私が飛んで休んで三日くらいの距離ですかね)
「ギャーーッ!!」
「ギャーッ!」
「千kmとかそんなんじゃねーか!辺境どころか魔境かよっ!!」
動揺しつつもざっくりと暗算する晶。
どんな計算をしたのかは判らない。
だが速かった。
おバカではない模様。
そして悲鳴を上げたのは理解できる。
人の住んでいない魔境だと確認出来たからだ。
いや、それ以前に人がいる世界なのかも疑わしくなった。
因みにゼロも悲鳴を上げていた。
マスターである晶の叫びに驚いたらしい。
晶は悲鳴とともにガックリと膝を付いて茫然と洞窟の方を見ている。
それを見てオロオロとするゼロ。
大きな体なのに何だか可愛らしく見える不思議。
この主従、前途多難である。




