3-14
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晶は牢屋から出されている。
周りを兵士達に囲まれて歩かされる事、少々。
同じ屋敷内の一室。
かび臭い牢屋とは大きく違う部屋。
絨毯、カーテン、彩りも鮮やかで金が掛っていそう。
机も重厚で渋い。
そこまではいいが金ぴかの鎧や、ナゾ造形の壺は趣味が悪い。
「こいつが例の男か」
「そうです」
「ふんっ」
革張りのソファーに座ってジロリと晶を見ている男が偉そうにしゃべる。
立ったままの晶は左右、後ろを兵士に固められていた。
兵士の返事を鼻で笑う男。
偉そうにしているのは若い男だ。
アレスより年上だと思われる。
金髪イケメンな所はアレスに似ている。
ただ笑った顔が下品だ。
口元が歪んで嫌な感じである。
態度にも性格が出ていそう。
「お前が役に立つ事が確認された。使ってやるからありがたく思え」
(顔は良いのに馬鹿ボンボン。救えない男ですねー)
(馬鹿息子のヤーロじゃな。醜悪な顔をしておる)
タケマツ達はこの男が誰なのか調査済みらしい。
言いたい事を言って、もう用は終わったとばかりに手で去れとジェスチャー。
良い態度である。
兵士達も慣れているようで、一礼した後で晶を小突き、部屋を出るのであった。
カヅキはヤーロの顔を褒めているが軽蔑している。
タケマツも嫌そうな口調。
(アキラの血肉で実験したのじゃろう)
(……異世界人と確実にばれていますね)
(ありがたく思えかぁ……どうしてやろうか)
(ですよねー)
(倍返しではすまんのぅ)
(すぐ動きましょうよー!私の方が耐えられません!)
(色々情報は集まったじゃろ?)
(自分でもおかしいとは思うんだけど……自分が痛い目にあう分には耐えられるんだよなぁ)
牢屋への通路を歩きながら念話で話す晶達。
怒りを溜めこんでいる。
(フローラの方はどうなってます?)
(首輪を着けられたままですが丁重に扱われていますね)
(あのメイドも付いておる)
(そっか。良かった)
晶がフローラの事をカヅキ達に聞く。
自分は何とかなる自信があるのだろう。
そうではないフローラを気遣っている。
とは言え隷属の首輪が嵌められている。
解除の方法を調べなくてはなるまい。
付けたケインや中年給仕、後は魔力を登録したという者達なら知っているだろう。
情報が集まりつつあるがやらねばならない事が多い。
そしてかび臭い牢屋へ戻るのであった。
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また血肉をとられた晶が粗末なベッドに横たわっていると、牢屋が騒がしくなった。
「お、大人しくしやがれ!」
「いってーなぁ……こいつを殺しちゃいかんのか?」
「簡単には殺さないんだろう」
「そういう事ならいいか。ざまーみろ」
「ガッハッハ!ワイをやりたきゃドラゴンでも連れて来いってんだ!!」
「バカが……」
「こいつ頑丈すぎるだろ……こっちの手の方が痛いぜ」
「まぁ、もう終わりさ」
「そうだな。最後だと思えば怒りも収まるってもんだ」
複数の声が牢屋に響き渡る。
何やら小物っぽい声の集団と大物っぽいガサツそうな声。
殴る方の拳が痛いとか……頑丈でガサツな男が牢屋へ連れて来られたらしい。
「あ、あいつって……」
(坊主頭……)
(赤いマントはとられておるが……)
(犬耳さんもいますー!)
(こいつらであったか)
晶達が鉄格子の向こうを歩く者達を見た。
見ただけではない。
知っている顔であったので驚いている。
迷宮都市で見た冒険者、地竜討伐でも一緒だった男達。
ノックと奴隷の獣人。
ノックはふてぶてしく笑っていた。
そのノックが牢屋に視線を移す。
「お、おぉ!お前は……誰だ?」
「ノック様……」
晶と目が合ったノック。
晶の事を覚えていたのだろう。
しかし名前は出なかった模様。
アホっぽい。
後ろを歩かされていた獣人がノックの名前を呼んで悲しそうにしている。
二人だけであった。
地竜討伐では最後まで一緒だった槍使いはいない。
「おー、久しぶりだな。アキラだ」
「おぉ、おぉ!!そうだ!そんな名前だった」
晶は自分から名乗った。
名前に聞き覚えがあったのか嬉しそうな顔をするノック。
コス家のイケメン馬鹿息子ヤーロとは真逆。
坊主頭でいかつい顔、どちらかというと不細工寄りの顔でもある。
だが嬉しそうな笑顔には愛嬌があった。
何となく憎めない男。
得な男だ。
だがノックは後ろから兵士に小突かれて通路を進まされた。
職務に忠実な事である。
嬉しそうなノックを見てイラッとした結果かも知れないが。
喜ぶ事をさせたくないのだろう。
獣人は晶に一礼して通路を進んでいった。
(何をしたんですかねー)
(元気そうじゃったな。兵士達はボロボロであったが)
(妙な縁があったもんだ。あいつもコス家の敵なら、味方になるかも)
(奴は頑強の特殊技能持ちじゃ。使えそうじゃな)
(犬耳さんー)
(アキラの言う所の脳筋っぽいのが難点じゃな……)
(変に頭が回るより好感が持てますよー)
(俺もそう思う)
通り過ぎて行って牢屋へ入れられたであろうノックの話題で盛り上がる晶達。
殺しても死ななそうなふてぶてしさを持つノック。
味方に出来たら頼りになりそう。
カヅキは獣人の犬耳に興味深々。
顔見知りにあったせいか、晶の顔が明るくなっていた。
拷問まがいの事をされ嫌な思いをしていた晶。
良い事であろう。
▼
「俺かー?ノックってんだ」
(ば、馬鹿、小声で話せ)
夜になってノックの声が晶達にまで届いた。
おそらく晶の時のようにワイザーらの誰かが小声で話しかけたのだろうが、そういう機微が判らない男ノックなのだと思われる。
牢屋内に声が響くのであった。
まぁ、牢番達は居眠りをしているのか、それを咎めたりはしてこなかった。
怠惰な敵は、ありがたい。
咎められないのが判ったのか、声は止まらなかった。
どうしてここに来たのかなど色々話していた。
要約すると、ノックがコス家の馬車にひかれそうになっていた老婆を助けてもめたらしい。
そしてコス家の者達をボコボコにしたと。
晶達も耳を傾けていたが、それを聞いて感心していた。
漢気のあるノック。
バカっぽいが、やはり憎めない男だ。
(そろそろ動こう)
(私達は情報収集で手助けしますが、アキラさんだけで行くんですか?)
(やっとか)
(まぁ、色々と考えたけど、俺以外はその時の流れでー)
(テキトーですねー。まぁアキラさんっぽさが戻って来たのは良い事かとー)
(うむ。やろうではないか)
牢屋内が静かになった深夜。
やっと晶が動く。
鉄格子に手をかける晶の姿がそこにはあった。
(ちょっとちょっとー)
(お、起きてるのか)
晶が牢屋から出て暗い通路を歩くと、牢屋に入れられている者の一人、女が鉄格子の所まで来て小声で話しかけて来た。
驚いているっぽい。
割と若そうな女。
水商売が似合いそうな感じだ。
着る物を整えたら映えそう。
晶がのほほんと返事をする。
もちろん小声でだ。
(どうやって出たのよ)
(ちゃちゃっとね)
(わかんないわよ!)
小声ながら突っ込んでくる女。
中々器用である。
(騒がんでくれ。これからちょとあるけどさ)
(……何をするの?)
(んー、味方になるなら教えても良いけどなぁ……)
(私はデルマ。コス家の味方ではないわ)
(デルマさんか。味方ではないって微妙……)
(デルマでいいわよ、あなたはアキラだったわね。味方云々は今の所、それで勘弁して)
(ふーん)
「って行っちゃうの!?」
水商売風の色っぽい女はデルマ。
深夜で暗い牢屋内でも妖艶さがわかる。
まぁ、牢屋に閉じ込められっぱなしなので、多少やつれているのがもったいない。
そのデルマはこの屋敷、コス家の味方ではないと言っている。
巨大な力を持つコス家の味方ではないと言い切る……何か訳ありっぽい。
晶が苦手そうな女ではあるが、普通にしゃべっている。
成長したのだろうか?
鉄格子が間にあり、立場が上なのが大きいのかも知れない。
余裕は大切だ。
ふーんと言いつつ先へ進もうとする晶。
その様子を見てデルマが大きな声を出した。
思わずといった所だろう。
(気になっている所を見てきたら戻ってくる。その時に出たいなら出してやる)
(……わかったわ)
晶が今すぐは助けないと言っている。
大人しくなるデルマ。
敵か味方か判らない現状では、こんなものだろう。
(へー、アキラさんはああいう人に弱いかと思ってましたー)
(んー、何だろうね。俺も変わったって事なのかなぁ)
カヅキに突っ込まれる晶。
晶もハッキリとは解っていなそう。
そうこうしている内に通路の先にある扉へ辿り着く。
デルマ以外の者達はぐっすりと眠っていた。
(さぁて、行きますか)
(ワイザーさんが言っていた魔力の多い女性ですねー。ドキドキしますねー)
(アキラですらここの牢屋だったのだ。下という事はもっと警戒されている存在という事じゃろうからな)
(ですよねー)
晶が気になっているとデルマに言っていた場所。
それは下の階にいると思われる女性がいる所。
そこへ行くためには目の前にある鍵が必要な扉を通らねばならない。
枠は金属だが多くは木製。
抜き手を木に突っ込み、バリバリと音を立てて壊す晶。
誰かが動く気配はない。
牢屋番達は夢の中。
ドキドキ、ワクワクしている晶達。
下に何が待っているのだろうか。




