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3-13

3-13




「くっ、死ぬことはないけど、無茶しやがる……」


(アキラさん……何でいいようにされているんですか?)

(己の体ではなくとも気分の悪いものじゃな……)



 晶は牢屋内に来た者達に血肉を毟られた。

腕、足、脇腹と致命傷にならなそうな部分を抉られた。

まるで拷問官なのかと思わせるほどの仕事。

その男達は顔をにやけさせながら晶にナイフを突きたてていた。

だが殺すつもりはなくポーションで癒し、更に患部に薬草を当てて行った。

また来るという言葉を残して……。


 悲鳴どころか一言も漏らさなかった晶。

晶の血肉を採取していった者達が牢屋から出て行ってしばらくして晶が口を開いた。

敵には弱い所を見せない気概は褒めたい。

だがカヅキから問い詰められている。

何で大人しくしているのかと。

タケマツもそうだ。

顔が見えたらしかめっ面をしている事だろう。




(こんな首輪を着けられたんだ。こういう事をする奴らを許すつもりはない)


(だからと言って……)

(ただでは済まさない、そう決めた。やるからには徹底的にやる)


(ふむ。まだ暴れる訳にはいかないというのじゃな?)

(……)


(うん。俺だけでなく過去にやられた者がいたかもしれないし、これから被害にあう者も出るかも知れない。時間をかけてでも調べる)


(アキラがそういうのであれば力を貸すのじゃ)


(今、酷い目にあってでもやるのですね?)


(幸いと言っていいのか、頑丈な体、痛みを感じにくい体、再生する体、全てを持っているからね)


(……解りました。協力します)

(カヅキ、早く終わらせようではないか)

(はい)



 晶の決意表明。

痛い目にあう張本人がそう言っても嫌そうなカヅキ。

念話の口調も真剣そうだ。

タケマツもカヅキほどではないが嫌そうだし、怒ってもいそう。

淡々としているのが逆に怖い。


 しかしフローラと晶を誘拐した黒幕達は異世界人の事を知っている。

まともに話もせずに晶の血肉を毟っていったからだ。

過去にあった異世界人の悲劇は今も帝国の一地域を封鎖されるほどの爪痕を残している。

それを知ってなお晶に手を出していると思われる。

静かに怒る晶。


 晶の後には異世界人の被害者を出さない、晶の決意に同意し気持ちを固めるカヅキとタケマツであった。



「あんちゃん、大丈夫かぁ?」

「あいつらニヤニヤしやがって!ムカつくぜ!!」


「大丈夫なのー?」


「お、おれも酷い目にあうのかな……」



 ぐったりしている晶に声がかけられた。

他の牢屋にいる者達からであった。

同じ側に並んでいる牢屋なので直接は見えない。

それでも何をされていたのか想像出来たのであろう。

晶を心配してくれている。

子供らしき声だけは自分も酷い目にあうのかと怯えているが。



「心配してくれてありがとう。大丈夫だ。あいつらも死なせるつもりはないんだろう、手当をしていったからな」


「そうか!よかったなぁ」

「よくねーよ!兄者!気分悪いぜ!!」


「あんたは狙われないでしょ。ずっと閉じ込められているだけじゃない」

「そ、そうかな?だといいんだけど……」



 晶が心配の声に返事をすると、また声をかけられた。

子供を慰める女の声もあった。

中々気の良い奴ららしい。



「お前ら、うるせーぞ!痛い目にあいてーのか!!」



 牢屋番の一人が怒鳴る。

石造りの牢屋だと声が良く響く。

静かになる牢屋。



(夜になると居眠りするから、夜になったら話そうや)


(ああ。頼む)



 隣の牢屋から小声で話しかけられる。

兄者と呼ばれていた男の声だ。

牢屋番は夜に居眠りをするらしい。

兄者さんは晶に興味があるのだろうか?

晶の知り合いではなさそうなので興味本位であろう。

晶も情報収集をしたいようで、素直に返事をしている。


 晶は億劫そうだ。

怪我の治りが速いとはいえ、痛みと精神の疲労があったのだろう。

布の一枚もない木のベッドに横たわる晶。

石の冷たさを直接感じないとはいえ、酷い環境だ。



(カヅキさん、タケマツさん。俺、少し休むんで情報収集をお願いします……)


(ちゃんと休んでくださいね。仕事はお任せをー)

(うむ。任せておけ)



 晶はカヅキとタケマツに情報収集を頼み、目を閉じた。







(ここはキーナ商業国の首都コナモみたいです)


(貴族街にあるコス家の館らしいのぅ)


(コス家……ですか?)

(うむ。侯爵家だそうじゃ)


(侯爵って上の方でしたよね?)

(そうじゃ。貴族は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、騎士爵となっておる国じゃな)

(名前は出ませんでしたが伯爵も関わっていると言ってましたー)

(後、商人らしき名も数名でておったな)


(ここの当主らしき人が各所に伝令を飛ばしていましたよー)

(忙しく動いておったな)


(裏ギルド『欠けた月』『血刃』って名前も聞きましたー)

(傭兵団も複数協力しておるらしい)

(傭兵団といえばテツさんとヤスさんの元いた所も関係してますー)

(『犬』……いや『猟犬』じゃったな)


(えっと……貴族に、商人、裏ギルドに傭兵団ですか……)


(相手の規模は大きそうですー)

(個人の力はともかく手が足らんのではないか?)




 情報収集から戻ったカヅキとタケマツ。

偵察要員としては最高の仕事をしてくれている。

次から次へと情報が出て来る。

この牢屋がある場所はコス侯爵の屋敷らしい。

侯爵といえば、相当上だ。

その次に位置している伯爵も関係しているという。

もっと多くの貴族が関係してそう。

そして商人。

キーナ商業国というのだから商人の力は弱くはないだろう。

貴族とは違う力がありそう。

裏ギルドは裏社会の住人で構成されている組織。

犯罪者が多いとか。

そんなのが都市にいられるのは問題ではないだろうか?

人間がいる限り切り離せない存在なのかも知れない。

更に傭兵団。

多くは冒険者である。

大きなクランが傭兵団と呼ばれている場合もある。



(あのトールって仮面男の所属はどこなの?)


(コス家の私兵みたいですよー)

(私兵なのか)

(副長らしいのじゃ)

(へー)



 晶がカヅキ達に聞いている。

仮面で顔を隠した男、トール。

晶も迷宮都市で顔を隠していたから気になっているのかも知れない。

隊長ではなかった。

意外である。



(ここがコナモなら……シンとレイに連絡を付けたい所ですね)


(ふむ。彼らなら力を貸してくれそうではあるが……)

(コナモに拠点を持つ者としては表だって争えないのではないでしょうかー)


(……そうかも。まぁ、伝えられるのなら伝えよう)


(そのくらいでええじゃろ)

(ですねー)



 敵の集団は規模が大きそうだ。

一対一でなら晶が負ける事はないだろうが、全ての相手をする事ができまい。

バラバラに逃げられて、各地で同じ様な事をされては堪らない。

晶が眉の間に皺を寄せている。

面倒そう。

そんな事を思っていそうだ。

そしてドンに来てくれたシンとレイの名前が出た。

彼らはコナモにいるはずなので力になってくれるかも。

晶は絶対に彼らの力を借りねばならないとは考えていなそう。

まず自分で出来る事をやると思っているに違いない。



(あ、アキラさんの持っていた荷物は、すぐそこに置いてありますー)

(うむ。カードもあったぞ)


(カードを非表示にしたから金属っぽい板にしか見えないでしょうねー)


(変に興味を持たれても困るけどね)

(そうじゃな)


(うん。まとめてあるから何か大事な物とは思うだろうけども)

(だから捨てられないと思いますよー)




 晶の持っていたずた袋は牢屋番のいる辺りにあった。

金目の物や物資はカード化してある。

非表示になっているので黒い金属の板にしか見えないだろう。

調べられる可能性はあるが、捨てられたりはしないはず。



(おーい)



 カヅキ、タケマツと脳内会議をしていると、隣から声をかけられた。

兄者さんである。

牢屋番が居眠りをしてそうな時間らしいが、一応小声だ。



(こんばんは)


(おう)



 兄者さん以外は離れているので話せそうにない。

それでもありがたい話だ。


 小声で話し出すのであった。







 兄者さんはワイザー。

冒険者で『鉄腕兄弟』として知られているらしい。



 兄者さんからの情報。


 ここはコス侯爵の屋敷。

裕福な家。

コス侯爵は外政担当大臣。

軍に影響力は少なく、軍事力は私兵が少々。

だから傭兵団や裏ギルドと結びつきがある。


 アシッドという現当主は国の重鎮。

歳の頃は四十半ば。

息子が二人に娘が二人。

正妻の子供以外だともっといる。

上の息子は馬鹿息子。

街で騒動を起こしてばかり。

親馬鹿なので問題になる前にもみ消している。


 ここの所、牢屋に来る者が増えた。

何か大きな動きがありそう。

だがそれが何かは判らない。



 ワイザーは色々知っていた。

大きな都市で冒険者をしていればこれくらいは知っているさと笑っていたが、情報通であろう。

そして気になる情報を持っていた。



(俺がここへ入っている間に何人か来たがここの牢屋へ入れられなかった奴がいた)


(へー)


(通路の先へ行って戻って来ていない。たぶん先は階段で下へ行った)


(ほー)


(凄まじい魔力を持った奴だった。おそらく女)


(はー)


(ありゃ訳ありだぜ)


(気になりますね。少なくともコス家の味方ではないでしょうしね)


(ああ。それは間違いないだろう)



 ワイザーの魔力も男にしては多い。

牢屋の壁があろうが晶の魔眼でなら視える。

そのワイザーが凄まじい魔力というのだ。

連れて行かれた女。

晶も興味を引かれている。

コス家の敵というのも大きいだろう。

ひょっとしたら、コス家を潰すのを手伝ってくれるかも知れない。

晶はそんな事を考えていそう。



 長々と話していたが、再び静かになる牢屋。

問題は山積みだが晶には闘志が溢れているのであった。


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