3-12
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(こやつは……)
(知っているんですか?タケマツさん)
(いや、仮面を着けておるなぁと)
(見たまんまですねー)
(怪しい……)
タケマツが呟く。
馬上の男の話だ。
晶達の側で止まった奴らの周りに光球が浮く。
明かりの魔法だろう。
いくつもの光が辺りを照らす。
カヅキの質問に答えるタケマツ。
うん、見たまんまだ。
どこぞの戦争男のような仮面。
仮面の目の部分に横線が入って見えるようになっている。
白い仮面、目の下から赤い線が下へ伸びている。
まるで血の涙を流しているように見える。
明かりがあるせいか、逆に不気味だ。
銀髪?灰色?髪の毛は出ているが余り多くは見ない色だ。
仮面の方が目立つ程度にしか伸ばしていない髪。
馬に乗っていても小さく見えない。
良い体格だ。
白い鎧……戦場では目立ってしまうはず。
それを苦にもしないだけの実力があるのだろうか。
槍の先が剣のようになっている長柄武器を持っている。
強者の雰囲気。
「上手くやったようだな」
「はい」
「はっ!!」
馬上の仮面男が給仕達に話しかける。
ケインの言葉には気合が入っている。
嬉しそうな声色。
(しゃべった!)
(何でしゃべらないと思ったのじゃ……)
(コーホー言うんだと……)
(年代違いません?)
(古くても良いものはいいんだよ!)
晶が何かに驚いている。
タケマツは何に驚いているのか解っていないようであったが、カヅキには解った模様。
カヅキも大概である。
そして晶が謎の主張。
ここだけ聞けば頷けそうではあるが。
「ふむ……そちらのお嬢さんを馬車へ」
「ははっ!」
仮面男はフローラを手荒に扱う気はない模様。
馬車にいた従者が動く。
固まっているフローラの前にメイドが立つ。
自身も恐ろしい思いをしているだろうが健気な事だ。
忠誠心のなせる業であろうか。
「逃げられないように首輪は着けさせてもらったが、それなりの待遇をとらせてもらう。怯える必要はない」
「……はい」
「さっ、こちらへ」
仮面男がフローラに話しかける。
怪しいが紳士っぽい。
フローラが蚊の鳴くような小声で返事をする。
やはり隷属の首輪レプリカの存在が大きいのだろう。
安心は出来ない。
従者に連れられて、メイドとともに馬車へ向かった。
一度だけ晶の方へ振り返った。
怯えと謝罪……フローラの表情を解説するならそんな所だと思われる。
「トール様!むすめ、私の娘は!?」
「ふむ、とある屋敷で丁重に扱っている。これから戻り次第解放してやろう」
「……」
「わ、私は仕事をやり遂げました!お約束の話は叶いますでしょうか!」
短剣給仕……いやフローラが手元から離れた事により短剣は鞘に納めている。
馬上の仮面男へ中年給仕が迫る。
鬼気迫る表情だ。
だが仮面男は武器を向けたりしていない。
余裕の仮面男。
仮面男はトールというらしい。
トールの返事を聞いて中年給仕が黙り込む。
伸ばした手が元へ戻る。
その代わりに中年給仕の隣にいたケインがうわずった声でトールに話しかけた。
嬉しそうな顔でだ。
「ケインと言ったかな……上手くやったのだから雇ってもらえるだろう」
「はっ!」
「街へ戻ったら話があるだろう」
「ははーっ!」
トールがケインに返事をする。
一々言葉を返す辺り、結構律儀な性格なのかも知れない。
怪しいのに、やはり紳士っぽい。
嬉しそうなケインの顔が紅潮し、更に嬉しそうになっている。
羽が生えていたら空へ飛んで行っていただろう。
(ケインは就職の約束でしょうが……)
(中年給仕の方は人質でも取られているようじゃな)
(身内より大事な者はいないって事でしょうね)
(雇い主の娘さんより自分の娘ですね)
(そんな感じじゃろう)
人には色々と事情があるらしい。
犯した罪はなくならないが……。
フローラと晶の首には隷属の首輪レプリカが着けられ、誘拐されている。
「お前がアキラか」
「そうだ」
「ふふっ、元気な事だ」
トールが馬上から見下ろしつつ晶へ問いかける。
ぶっきらぼうに返す晶。
トールの周囲にいる馬上の者達から晶へ殺気が飛ぶ。
晶の態度と口調に対しての怒りだろうか。
恐らくトールの配下だ。
揃いの装備を見るに騎士。
白っぽいのはトールに合わせているのか趣味なのか。
トールがその騎士達を手で制し抑える。
殺気がスッと消える。
統率がとれている。
「お前を必要としている方々がいる。来い」
「こんなモノが付いていますからね。行きますとも」
(方々ですって)
(複数のようじゃな)
「ふっ」
仮面の男、トールも誰かの指示でここへ来ているらしい。
その誰かは複数らしい。
来いと言われて晶が首に付いたモノを指して返事をする。
中々、嫌味っぽい。
こんな状況なのに図太い事だ。
殺さないように……そう給仕が言っていたから大きく出ているのかも。
トールが小さく笑い、馬首を翻す。
「私達は……」
「馬車の後部へ乗れ」
「ははっ」
移動するのを察知してケインがトールへ問いかけようとした。
言葉を最後まで聞くことなくトールから指示が出る。
考えてあったようだ。
馬車にはフローラ達が乗る客車部分、その後ろに後方警戒が出来そうな荷台部分もあった。
荷物は乗っていない。
そこへ乗れと言っている。
ケインに押され馬車へ向かう晶。
中年給仕も一緒だ。
中年給仕はトールと話してから黙り込んでいる。
晶は特に拘束もされずに馬車へ乗った。
拘束はされなかったが目隠しの布は巻かれた。
進む先に見せたくない物があるのだろうか。
荷物台に大した広さはない。
立つかしゃがみ込むしか出来ない。
晶の扱いはフローラと違い雑だった。
晶に用があると言っても、どんな用なのか……今の扱いで想像が付きそうである。
トール率いる一行が動き出した。
▼
馬車がゴトゴト進んだ先には人の匂いがした。
晶は街へ入ったのを理解した。
街へ入る前に馬車の後部、荷物置き場を布で覆ったのも気づいていた。
門らしき所で馬車は止められていたが晶のいる場所を検められたりはしていなかった。
それどころか止まったのも少しだけであった。
トールか、馬車の持ち主が権力者だと思われる。
目的地に着いたのであろう、晶は馬車から降ろされた。
目隠しはされたままだ。
後ろから誰かに押されながら歩かされた。
まぁ、目隠しされて歩くなんて晶にはお手の物だ。
眼帯包帯の賜物であろう。
風のない場所、建物内へ。
更に押されながら歩く。
そして着いた先は……。
「はぁ……かび臭い」
(フローラさんはまともに扱ってもらっていましたよー。メイドさんも一緒でしたー)
(牢屋は結構あったぞい。アキラ以外にも入れられておった)
鉄格子のある牢屋であった。
晶が牢屋内のかび臭さに閉口している。
晶はカヅキとタケマツに外を探ってもらっていた。
霊体は便利な偵察要員である。
ほとんどの場所にいけるらしい。
教会など一部の領域には入れないとも。
カヅキにはフローラの扱いを探ってもらっていた。
フローラは晶とは違い、良い待遇な模様。
メイドも一緒なら心細さも多少は減るだろう。
晶はそれを聞いて表情を明るくさせている。
自分の状況はともかく、守りたい者が無体な扱いをされていなくて安心したのであろう。
タケマツは晶が入っている牢屋の周辺を探っていた。
牢屋はいくつもあるらしい。
そして晶以外にも掴まっている者がいると。
晶は粗末なベッドへ座った。
牢屋にはベッドと壺しかない。
壺はアレだろう。
排泄。
南大陸の町ドンですら魔導具を使った衛生的なトイレが多かった。
晶の顔が引きつっている。
食べなければほとんど排泄をしないで済むが、ここまでの間に食べている。
時間の問題であろう。
「中年給仕にケインもどこかに行ったな」
(そうじゃな。仕事は終わったという事じゃろう)
(人の事もいいですが、アキラさん自身の事も考えましょうよぉ)
(ゼロ!聞こえるかー?)
(はい。街へはこれ以上近づけませんが位置は把握しています)
(ありがとう。人に見つからないように待機していてくれ)
(判りました。マスター)
(ゼロちゃん、ぴよこちゃんは元気ですかー?)
(元気です。今も森を歩き回っています)
(守ってあげてねー)
(承知)
カヅキに言われて、晶がゼロの様子を確認。
暴れるにしろ逃げるにしろゼロの力は必要だ。
ゼロもぴよこも元気そうである。
晶も一安心。
フローラと隷属の首輪レプリカという問題は残っているが……。
「よぉ!新入り、何したんだぁ?」
「泥棒にでも入ったのかぁ?」
「ここんちは碌な事してないから、何してたって掴まる時は掴まるわよ」
「バカ息子が怒っただけで……」
「あんたはツイてなかったわねー」
牢屋の外に声が響く。
牢屋自体も密閉性が高いようだ。
声は晶へ向けてのものらしい。
男、男、女、子供?
おそらく四人だ。
「先輩方か。よろしくー」
「良い度胸してんな」
「まったくだぜ、兄者」
「おバカさんが増えたわぁ」
「よろしくー」
晶がのほほんと返事をする。
カヅキとタケマツに動いてもらっているが、晶自身でも情報収集が出来そう。
これからどう動くにせよ、情報は必要。
晶がニヤリとしている。
まぁ、この直後に怒声が響き渡ったのではあるが……牢屋番くらいいるよね。




