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「なんか寒い……」


(アキラが寒いと思うのであれば、かなり冷えているのぅ)

(神気は便利ですねー)



 晶が閉じ込められていた牢屋。

その先にあった扉をこじ開け通り抜けた。

薄暗かった牢屋以上に暗い場所。

下へ向かう階段が辛うじて見える。

まぁ、夜目がある晶には問題あるまい。

寒い場所らしい。



「不気味だねぇ……」


(私だけだったら引き返していますねー)

(暗いだけじゃ)



 恐る恐る階段を下っていく晶。

カヅキは怖いのが苦手らしい。

口調はそれほどでもないが。

タケマツは特に不気味とも怖いとも思っていなそう。




「冷気はこの先から来ているっぽいな」


(また扉ですねー)

(ぶち壊すのじゃ)



 階段を降りた先には冷気漂う扉があった。

冷蔵庫?冷凍庫?

晶でなければ凍えていたであろう。


 晶は扉を壊すのであった。



「お、おぉぉっ!」


(明るい所で見れたら良かったのに……)

(これはこれで雰囲気があるのぅ……)

(確かにー。綺麗です)

(うむ)



 扉の先には上の牢屋より広い空間があった。

その部屋にあった物は氷の格子。

冷気の元はこれであった。

紙の張っていない障子といった感じ。

だがただの氷ではあるまい。

しかも格子の中には更に格子が見える。

四重の格子……よほどの中にいるモノ(・・)が恐ろしいのだろう。


 明かりの魔導具が部屋の四隅にあり、部屋全体がぼんやりと照らされている。

光が氷の格子に反射して独特な雰囲気。

神秘的というか荘厳というか……カヅキが言うように綺麗である。



「いつもと違う……誰?」



 抑揚のない淡々とした声。

氷の格子、その奥から響く声。

女の声だ。

入って来た晶を誰かと誰何している。



(凄まじい魔力です……ワイザーさんが驚く訳ですねー)

(中々の魔力。ワシが会った中では上の方じゃな)


「こんばんは。上の牢屋に連れて来られた者さ」



 声の主である女の魔力量を視たカヅキが驚いている。

晶達の中で一番この世界で活動しているタケマツが褒めるほどの魔力量。



「あなたは何者?魔力を感じられない」



 女が言う。

魔女っ子ナオが晶に感じたような事を言っている。

すなわち、魔法使いの素養が高いのであろう。

魔力の多寡を見極められる者は、そういう者達だけだ。



「俺は特別でね。君は何でこんな所へ閉じ込められているんだい?」



 晶は詳細を語らない。

そして素直な質問。


 晶は氷の格子内に閉じ込められている女を君と呼んだ。

そう、格子の隙間から見えた女は晶より若く見えた。

二十歳前後、そのくらいに見える。

十字架へ張りつけられている女の子。

首、手、腰、足の辺りに何かある。

そのせいで張りつけられているのだろう。

明かりに浮かび上がる美しい銀髪。

腰の辺りまである長髪。

顔は薄暗い中でも際立つ美形。

鼻筋が通り、切れ長な目。

口元は小さくまとまって上品そう。

黒い貫頭衣一枚しか着ていないせいでスタイルがまるわかりだ。

胸部装甲は普通、全体的にはスレンダーな印象。


 どこぞの王女様だと言われれば素直に頷いてしまうだろう。

そんな雰囲気を纏った女の子が掴まっていたのであった。



「わらわが通った時にはいなかった」


(わらわキター!アキラさん、わらわさんですよー!!)

(えっと、落ち着いて……)



 女の子の言葉を聞いて嬉しそうなカヅキ。

晶に窘められるとか……。



「俺が来たのは数日前だよ。アキラってんだ」


「そうか。ん?アキラ……そうであったか」


「俺の名前に心当たりがあるの?」


「ある。わらわがここの者にしゃべらされた名前」


「えっ!?」

(アキラさんが狙われた理由って事?)

(ふむ……先を聞こうではないか)


「わらわが主様に伝えるべき情報であった。ここの者に掴まってこのザマ」


「俺の情報を伝える……」


「あぁ。お主は異世界人なのであろう?わらわ達に狙われるのは当然」


「狙う?君……君達は何者なんだ?」


「わらわはエル。ヴァンパイア」



 晶が名乗ると女の子が反応した。

知っている名前だった模様。

それどころか晶がコス家に狙われた理由であろう。

この女の子の口から晶の名前がコス家に伝わり誘拐されたと考えられる。

晶は意外な話に面食らっている。

思考が追いついていなそう。


 そして女の子は晶が異世界人である事を見抜いている。

魔力が隠蔽出来るという事も、見抜いた理由かも知れない。

女の子は物騒な事も言っている。

女の子だけでなく彼女の仲間達からも晶は狙われる存在らしい。

晶は動揺しっぱなしだ。

それでも質問している。


 氷の牢屋に囚われていた女の子はエルという名前。

エルはヴァンパイアだと正体を明かした。



(ヴァンパイア……有名どころが来ましたね)

(なるほど……)

(何がなるほどなんです?)

(ヴァンパイアは魔族の一種だ。異世界人の血肉で強くなれる存在じゃ)

(あー、知性もありそうですし最悪ですね)


(マジっすか……)


(マジじゃ)



 タケマツの解説。

異世界人を狙う者は人間だけではなかった。

知性ある魔物は魔族と呼ばれている。

その一種であるヴァンパイアに狙われていた晶。

エルが主様と呼ぶ存在……そんなモノに狙われているとか……。



(さっき、主様に伝えるべき名前としてアキラさんと言ってました。まだ伝わっていないって事でしょう?)


(そうじゃな。不幸中の幸いと言うべきかの)


(さ、上に戻ろうかね)



 カヅキの念話で表情を戻す晶。

切り替えが中々早い。

階段へ戻ろうと体を翻す。



「ま、待たんか!」


「えーっ。うちに帰って寝るんだ」

(現実逃避ー)


「そう言わないで、わらわをここから出して行かんか?」



 晶が帰ろうとしたのを見てエルが晶を引き留めた。

敵が増えたので晶が現実逃避ぎみ。

すかさずカヅキからツッコミが入る。


 そして都合の言い要望。



「俺を狙うヴァンパイアの一員なんだよね?助けると思う?」


「……うん」


「それはお花畑すぎないか?」


「ま、まぁ待て!わらわ達は必ずアキラを襲わなければならない訳ではない」


「ほぉ……」



 淡々と返す晶。

言っている事は、ごもっともである。

自分でも無理めだと思っているのであろう、エルが小さい声で返事をした。

晶の淡々とした口調は続く。

ちょっと怒っていそう。


 そこへエルの発言。

交渉の余地はありそう。

晶も少し興味が出た模様。



「わらわは情報の確認で迷宮都市へ行った。その帰りに天敵と出会った」


「天敵?教会の人達か?」


「そう。あれはダメ」


「ほー」


「わらわは強いからこれで済んでいる」


「これ?ここで捕まっているって事か?」


「そう。他のヴァンパイアであれば灰」


「ふーん」


「わらわは本当に強い。相手が悪かっただけ」


「自画自賛されてもなぁ……」


「と、とにかく助けてくれ」



 ヴァンパイアの天敵は教会の人間らしい。

レベッカ達の持つ力……アンデッド地竜を倒したような力がヴァンパイアにとっても危険なのだろう。

晶の口許がニヤリとしている。

敵になりそうな相手の弱点だ、価値は高い。

自分は強いと言い張るエル。

晶は情報収集に専念しようとしているのか、適当に流している。



「俺がお前を助けるメリットはあるのか?」


「わ、わらわが報告せねば動かんはず」


「あるじ、主様って人に伝えなくてもいいのか?」


「……」


「ダメじゃん」



 晶から当然の質問。

エルは晶の名前を報告しないと言う。

エルが誰かの指示で動いているを知っている晶。

鋭い指摘。

黙り込むエル。

美しい顔を持ち、冷静冷酷そうに見えるエルだったが、気のせい?

まだ何とも言えないがポンコツなのかも……。




「ちょっと試してみるか」


(アキラさん何をするんです?)


(ヴァンパイアってアンデッドに属しているんじゃないかと思ってさ)

(なるほど)

(従えられるかも知れませんねー)

(これだけの魔力を持つ者だ、面白いのぅ)



 黙り込んだエル。

晶も黙って考え込んでいた。

そして動き出す。


 どうやらネクロマンサーの力を使うようだ。



「まずは氷の牢屋か」


「だ、出してくれるのか?」


「それは後で考える」


「……」



 晶の言葉を聞いてエルが顔を上げた。

希望が見えた、そんな感じである。

都合のいい展開を思い浮かべたのであろうが、晶の返事は保留であった。

まだ黙り込むエル。


 晶が氷の格子に近づき軽く小突いた。

軽い音が部屋に響く。

壊れてはいない。



「冷たい。それに結構堅い」


「聖水を冷やしたモノ」


「ほー。聖水ねー」

(そりゃヴァンパイアに効きそうですねー)

(閉じ込めるには良い手かも知れんのぅ)



 晶の呟きに反応するエル。

氷の格子。

聖水と凍らせたモノらしい。

床は濡れていない。

簡単には溶けないモノだと判る。



「そりゃ!」



 あまり気合の入っていない掛け声で再び殴る晶。

さっきよりは力が入っていそう。


 パキャッ、そんな軽い音と共に砕ける氷。

あっさりである。



「これなら俺でなくても壊せなくはないな」


「一枚であればわらわでも壊せるじゃろう。四枚では被害が大きい」


「ふーん」


「それにわらわの手足を封じている聖糸……迂闊に動けん」


「そんなモノもあるんだ……」


「教会は碌なモノを作らん」


「さいですか」



 晶は呟きながら、四重の格子を次々に破壊していく。

エルを封じるのにいくつもの手を打たれていた。

なるほどエルが言っていたように弱くはないであろう。

魔力の量だけでも、それは判っていたり。

エルは教会への文句をブツブツ言っている。




「さてと……」



 晶は声に出さずにネクロマンサーの力を使った。

霊体支配(ドミネーション)である。

これは霊体だけに効くわけではない模様。

アンデッドの多くは霊体が憑依している状態のモノが多い。

ゾンビやスケルトンなどは周囲にいた低級霊が元だったり。



「む?」


(あー、効かないや)

(ダメでしたかー)

(こやつが高位という事が関係あるのかも知れんな)

(そもそもアンデッドじゃないのかも……)

(情報不足ですねー。確かめる機会があるといいのですけどー)

(だね)



 エルが側でジッとしているように見える晶に不審そうな顔を向ける。

晶がネクロマンサーの力が効かないと念話で報告。

脳内会議。

カヅキの言う通り情報不足であろう。




「うーん。エル……君が俺を狙わないという保証が得られない。やっぱ帰る」


「えーっ!ここまで来てくれたのに!?」


「もう会わないと思うけど元気でね」


「ち、ちょっと待って!」


「まだ何かー?」



 晶が自身の安全を確保出来ないと理解した。

エルに向かって軽く手を振り階段へ戻ろうとする。

必死で晶を止めるエル。

面倒くさそうな晶。



「……」


「何もないなら行くよー」


「……血の契約」


「ん?」


「血の契約をしよう」


「何だそれ?」



 エルが端正な顔を歪ませている。

何やら苦渋の選択らしい。

提案をして来た。

意味の判らない晶が聞き返す。



「わらわは主様によってヴァンパイアにされた存在。元は人間」


「へー」

(そうだったんですねー)

(ふむ。興味深い)


「長い年月でわらわも力を強めた」


「ふむ……それで?」


「ここで消えるくらいなら主様の元を離れる」



 エルは元人間だという。

そしてエルの苦渋の選択は主様というモノからの離脱。




「どういう事?」


「血の縛りを解除出来る力はある」


「良く解らないけど凄いね。で?」


「お主に信用してもらうためにはお主と繋がりを持たねばならん」


「ほー。出来るの?」


「出来る。ただ下につくことになるのだ」


「君が俺の下に?」


「そう」


「今は主様って人の下なんじゃないの?」


「そう」


「なら、また解除されちゃうんじゃ……」


「わらわと力が拮抗しておらねば解除出来ん」


「へー」


「元々血の縛りでヴァンパイアにするという事は力を分け与えるという事。主様は弱体化した」


「ほほー」

(面白いですねー)

(これは世に知られてはおらんぞい)



 タケマツも知らない情報。

貴重な話かも知れない。




「主様は勢力を強めるために、わらわ以外にも配下を作った」


「なるほど……それでエルと、その主様の力が拮抗したという事か」


「そう。アキラ、お主は異世界人であろう。それならばわらわより力があるはず」


「どうだろう……試してだめだったーじゃ困る」

(ですよねー)


「わらわはアキラと血の契約を結び、配下になるという事しか言えない……」



 これでだめならもう打つ手がない。

エルはそう言っている。

黙り込み俯くエル。



(アキラなら大丈夫じゃろう)

(タケマツさん、根拠は?)

(私も聞きたいです)


(ワシは昔ヴァンパイアの真祖というモノと戦った事がある)


(おぉー!)

(真祖キター)


(逃げられたが優勢に戦えておった。こやつはアレよりは弱い)


(うーん。俺はタケマツさんより弱いんでしょう?)

(ですです)


(そう言われるとそうじゃな)


(嬉しそうな声を出さないでください……)

(納得しちゃうんですかー)


(まぁ、何とかなるじゃろう)


(うへ……)

(タケマツさんもテキトーですねぇ)



 タケマツが大丈夫だと言う。

しかし話が続くにつれ怪しくなっていく。

最後は適当そう。


 タケマツも脳筋ぎみなのかも知れない。



「まぁ、いいか」

(美人さんですもんねー)

(ち、ちゃうわ)

(怪しいですー)



「よ、よいのか?本当か?」


「おう」


「ならばさっそく血の契約」


「どうするんだ?」


「わらわの前に魔法陣が浮かぶ。それにお主の血を垂らしてくれ」


「血かー」


「そう。では行くぞ」


「あいよ」



 晶の言葉を聞いて嬉しそうになったエル。

晶の方はカヅキに突っ込まれていたり。


 張りつけられて聖水の格子に囲まれている現状がきついのか、契約を急ぐエルであった。


 エルの言った通り、青白く光る丸い魔法陣がエルの前に浮いた。

陣にかかれている文字などがクルクルと回っている。

神秘的である。



「おぉ……すげー!」


(綺麗ですー)

(魔法……ええのぅ)



 晶達、異世界人に魔法陣が大うけ。

解りやすい所がいいのだろう。


 感激している晶。

それでもやるべきことはやっていた。

右手の親指を口許へ持って行き、噛みついた。

滲む血。

傷口から絞り出すように血を垂らした。


 魔法陣へ血が垂れると一瞬光が強まった。

そして消える魔法陣。



「お……何となく繋がったのが判る」


「そう。繋がった」


「これが血の契約か」


「わらわはエル。ヴァンパイアロードの一人」


「おう。俺は異世界人のアキラ」


「よろしく」


「ああ、よろしく」



 晶にも覚えのある感覚。

ゼロとの関係に近い。

改めてエルが自己紹介をした。

晶も。


 そして晶はエルが張りつけられている十字架へ向かうのであった。




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