3-10
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「ワイバーンには何人乗れるのだ?どれくらい飛び続けられる?」
未だにフローラの首元へ短剣を向けている中年給仕から質問される晶。
ここは領主の館ではない。
既に移動している。
同行者は晶、フローラ、短剣給仕、若い給仕のケイン、それからメイドの五人だ。
メイドは短剣給仕がフローラの面倒を見させるために指定して連れてきた。
そばかすおさげの若い娘。
短剣給仕の仲間かどうかは判らない。
適当に選んでいたように見えた。
今も移動中である。
目的地は副都市アミの東側、海辺である。
西側の海辺は水竜とクラーケンが戦っている海の方向だ。
西側は大物同士の対決から逃げて来たサハギンなどが来るのでアミの兵が多くいる。
つまり人のいない方へ向かっている。
一定の距離をとってフローラの護衛達や館の者達が付いてきている。
短剣給仕は距離をとっているなら構わないようだ。
どうせ来るのは解っているからだろう。
海辺ならば視界が広い。
危険はないとの判断だと思われる。
そしてワイバーンに付いての質問。
乗って逃げようというのだろう。
「大人三人。三人乗ると中央大陸に付く前に疲れたワイバーンから海へ落とされる。ワイバーンは自分の身を一番に考える」
(そうでしたっけ?)
(嘘じゃろう。牽制じゃな)
実際には大人の男四人でゼロに乗れる。
休まずに中央大陸まで行ける。
タケマツの言う通り、晶の牽制である。
現在の同行者は五人。
晶とフローラが目的ならば両方連れていくだろう。
三人だと言っておけば誰かが残るかも知れない。
これに付いては何が正解か何て判らないだろう。
「大人三人だと……」
「ぬっ」
短剣給仕とケインが顔を見合わせている。
「俺からも聞いていいか?この首輪はどういう首輪なんだ?解除が出来ないなら死んだも同然だ暴れるぞ?」
晶、強気である。
口調は淡々としている。
その表情は冷静そうだ。
晶の顔へ裏拳が飛ぶ。
若い方の給仕、ケインの裏拳だった。
体がよろけて、顔の位置をずらされる晶。
鼻血が出ている。
「アキラ!」
(アキラさん、大丈夫!?)
(アキラ……)
「黙れ!お前に質問なんて許していないぞ!」
「暴れろって事でいいんだな?」
「ケイン!勝手な事をするな!」
「でもこいつが……」
フローラが晶の名を叫ぶ。
晶が首輪を着けられただけでなく怪我までさせられたのだ、平常心ではいられなかったのだろう。
焦ったような声だ。
カヅキ、タケマツからも念話が入る。
カヅキは晶を心配しての声。
タケマツは、何故そんな言い方をしたのかといった感じだ。
晶を殴ったケインが声を荒げる。
それに対し鼻血を手の甲で拭いながら目を細めて淡々としゃべる晶。
何だか怖い。
どうしたのか晶、いつもと違う感じだ。
そこへフローラへ短剣を向けている中年給仕がケインを叱る。
なおもしゃべろうとするケインを手で制す男。
黙るケイン。
仏頂面だ。
ケインより短剣給仕の方が立場が上のようだ。
「お前も物騒な事で長髪をするな。お嬢様を殺したい訳じゃないんだろう?」
「自分が死ぬのに人を気にするとでも?」
「あー、わかった解った。質問には答えてやるから大人しくしておけ」
「……」
短剣給仕にも色々あるようだ。
例えば晶に死なれても困るとか。
お嬢様を好んで殺したい訳ではないとかだ。
(鼻血が出てましたね)
(なるほど……アキラ、神気を切ったんじゃな)
(わざとですかぁ……心配させないでくださいよー)
(ごめんね。でも鼻面を殴られて鼻血も出さないなんて不自然だろ?)
(そうですけどー)
晶はわざと神気を切って裏拳を喰らったようだ。
そうでなければあの程度の打撃で鼻血など出るまい。
芸の細かい事だ。
痛かったろうに……。
「その首輪は隷属の首輪だ。まぁ、そう言われているが本物ではない」
「本物?」
「ああ。本物は古代遺跡などから発見された物で人の精神、肉体へ影響を及ぼし最悪は死に至る」
「……」
本物であれば死ぬ可能性があると聞いて黙り込む晶。
「本物は数が少ない。これは模倣品で魔導具だ」
「魔導具……」
「見ての通り三つの魔石が首輪に嵌っているだろう?魔石一つ一つに特定の者の魔力を記憶させている」
「たしかに三つの魔石が見える」
「対応した魔力を持つ者三人のうち一人が月に一回魔力を注がねば首輪が炎上する。そして死ぬ訳だ」
「金属製で首との隙間が少ないな」
「そういう事だ。無理やり外すのは大変だろう」
「むぅ……」
(精神を支配されるとかじゃないんですね)
(ある意味、手枷、足枷と大差ないのぅ)
(ですねー。自分がどうなってもいいなら反撃も出来ますしね)
(うむ。ワシらにとっては最悪な代物ではないな)
(えーっ!もう湖の側で佇むのは嫌ですよぉ……)
(まぁ、そうじゃな……ワシも湖の底はもう勘弁して欲しいのぅ)
短剣給仕が晶に首輪に付いて解説。
割と丁寧に話してくれている。
フローラと晶に付けられた首輪は隷属の首輪、そのレプリカらしい。
カヅキの言うように精神を支配だとか強制されるものではない模様。
手枷、足枷の強力版といった感じだ。
反抗することも可能。
復活が可能な晶達には絶対な代物ではない。
好んで死にたい訳ではないだろうが……。
「海が見えて来た。ワイバーンを呼べ」
「とにかくタマギ島からの脱出だ!」
「あー、俺はワイバーンに乗せてもらえるが呼んだりできる訳じゃない」
(またブラフですー)
(アキラ、中々の策士じゃな)
「っち、そうなのか」
「なら、ワイバーンはどこにいるんだ!?」
「あっちの浜辺だ」
「近いのか?」
「近い」
「行くぞ」
(ゼロ!俺のいる場所が解るな?進行方向の浜辺で待機していてくれ)
(判りました。マスター)
(頼んだぞ)
(私がその者達を害するのは無しなんですよね?
(それは無しだ)
(……承知)
短剣給仕がゼロを呼べと晶に言う。
ケインも叫ぶ。
晶は先ほどワイバーンには人数制限があると伝えていた。
ケインはタマギ島から出るのに支障はないと判断したらしい。
取り急ぎ脱出できればいい、そんな感じだ。
そして晶はゼロに付いて、また嘘を言っている。
よく考えれば嘘をつくと閉まる首輪とかを試したのかも知れない。
自らを実験台にする男、晶。
結構大胆である。
晶は近くにワイバーンがいると給仕達に教えた。
実際にはそこにゼロはいないようで、急ぎ指示を出している。
知能が高くなっているゼロだが、ぶん殴って解決……脳筋部分は健在な模様。
物騒である。
晶に大人しくしておけと釘を刺されていたり。
「いた!いたぞ!!」
「あれか……」
「そうだ」
浜辺を歩くこと少々。
岩の様に佇んでいるゼロが見えた。
ケインが騒ぎ、短剣給仕が不安そうに言葉を漏らす。
さすがにワイバーンは恐ろしいのだろう。
「ちゃんという事を聞くんだろうな?」
「そ、そうだ!聞くんだろうな!?」
「危害を加えたり疲れさせなければ従ってくれる」
「疲れさせたりか……中央大陸までは持たない可能性があるんだな?」
「この人数ではな」
「本当だろうな!?」
「ああ」
短剣給仕が不安そうなのを見てケインにも不安が移った。
近づいて襲われたらたまらない、そんな事を考えていそうだ。
そんな給仕達に答える晶。
ゼロの身の安全と牽制を入れている。
「だが残る訳にはいかん」
「そうだぜ!」
「しかし……メイドはどうしたもんか」
「陸まで遠い所で振り落とされたりしたら危険だな」
「お嬢様は丁重に扱えと言われている……」
「むぅ」
人数制限を超えていようが乗っていくつもりらしい。
フローラの担当としてメイドを連れて行くのか迷っている給仕達。
彼らへフローラ、晶を誘拐して来いと依頼した者がいるようだ。
丁寧に扱えとも。
色々ありそう。
「どうなるか判らんが連れて行くか」
「仕方ない……」
「五人で行くんだな?」
「そういう事だ」
「ちゃんとワイバーンに言い聞かせろよ!」
「わかった」
メイドも連れて行く事になった。
晶が五でゼロに乗るんだなと念を押している。
(不自然ですねぇ……理由としては弱すぎますー)
(怪しいのぅ)
(怪しいよね)
(最悪、海へ放りだされるって脅したのにねー)
(メイドを置いていけない理由がありそうじゃな)
(そう考えますよね)
晶を先頭にゼロへ向かって浜辺を進むのであった。
晶の脳内会議も開催されていたり。
危険が増すのを承知でメイドを連れて行くという給仕達。
カヅキとタケマツの言う通り変だ。
だが大人しく給仕達の指示に従っている晶。
精神を支配されるような首輪ではない事が晶の心に余裕を持たせている。
隙を見つけるまでは大人しくするのだろう。
後、ヒーロー願望の強い晶の事だ、黒幕を突き止めてやるなんて考えていそう。
晶とフローラを含めた五人はゼロに乗ってタマギ島を離れるのであった。
晶達の首に余計な物が付いているが、いつも通り空と海は美しかった。




