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「お久しぶりだね、アキラ。ようこそだよ」
タマギ王国の副都市アミへ入った晶を出迎えてくれたのはアレスの従妹であるフローラであった。
両腕を左右へ広げて笑顔での出迎えだ。
美しい金髪が煌めいている。
さすがアレスの従妹。
髪を短めなのがもったいない。
彼女の出迎えは門番から伝令が走った結果である。
彼女の隣には茶髪をポニーテールにしている凛々しい女性。
フローラより背が高い。
手には槍を持っている。
更にもう一人護衛らしき者が付いている。
赤みを帯びた茶髪を短めにしている女性。
ポニーテールの護衛よりは小さい。
手に丸盾を持っている。
腰には剣だ。
抜いてはいない。
都市の中とはいえ、公爵であるエドワードの娘であるフローラを一人で出歩かせたりはしないのだろう。
まして今は緊急時だ。
タマギ島の近海で水竜とクラーケンが戦っている。
その戦いから逃げて来た海の魔物がタマギ島へ上陸しているというのだ。
既に数回撃退したとアレスから聞いている。
晶もゼロに乗りタマギ島へ来る間に鳥型の魔物とすれ違っている。
幸い戦いにはならなかった。
「フローラ様、お久しぶりです」
「硬い!硬いよアキラ。以前のように話してもらいたいねぇ」
「ですが、その……」
晶がフローラに挨拶をする。
しかし、その挨拶が気に入らない様子のフローラ。
以前は砕けた口調で話し合っていたからだろう。
晶がフローラの左右へ付いている護衛に視線をやった。
「ふふっ。まぁこんな往来だ、仕方ないかな」
「ですね」
アミの門、その側での一幕。
フローラの護衛だけでなく門番、それから民の目もあった。
ドンと似た慌ただしさを感じる。
こちらも厳戒態勢という事だろう。
海からの魔物との戦いは終わっていないと。
「父は忙しく動いているのでね。ボクが来たんだ」
「それはお手数をおかけしました」
「気にしないでくれたまえ。ボクは嬉しいんだ」
「お、俺じゃない……私も嬉しいですよ」
若く可愛いフローラを前にして上手く演じきれない晶。
護衛の視線が厳しいというのもあると思われる。
彼女達からの視線が晶に刺さっている。
手に持っている槍は晶に向けられていないとはいえ、恐ろしい。
アレスの側にいた爺に似た雰囲気。
「ここで話し込んでも仕方ないね。行こうか」
「はい」
フローラが晶を伴って歩き出すのであった。
護衛はフローラに指示されて一歩下がっている。
渋々といった感じだ。
そしてフローラの隣を歩くのは晶。
王族の一員で領主の娘だが都市の中を馬車で移動したりはしていない。
いつもそうなのかは判らないが今は歩いている。
すれ違う民達は会釈をしてはいるが立ち止まったりはしなかった。
割とある光景なのかも。
フローラの後に晶をチラリと見ていくのはお約束ではあったが。
しかも面白そうな表情ばかり。
一応男女で歳も大きく外れては見えない。
そういう事だろう。
護衛の女性達が嫌そうなのはその辺りに理由がありそう。
フローラ、護衛達に愛されている。
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「アレス様からの指示は一つだけです」
「うん。アレだね」
「何を指すのか判りませんがソレだと思います」
「それでいいのさ。そういうモノだ」
何やら謎の会話。
ここはアミの領主館、応接室である。
晶とフローラは向い合ってソファーに座ってお茶を片手に話している。
もちろん二人きりではない。
睨んでくる護衛が二人付いている。
晶の後ろにも男の兵が付いていた。
扉の側には執事も。
晶の目を楽しませてくれたメイドは既に去っている。
晶にとって楽しい空間ではなくなっていた。
フローラだけなら良かったのだろうが……。
「ドンの様子はどうだね?」
「こちらと似たような雰囲気になっていますね。海からの魔物サハギンと鳥型の魔物への警戒は続いていました」
「ふむ……同じか」
「はい。昼夜を問わず順番に部隊が動いていましたよ」
「同じだね。やれやれだ……」
「こちらへ来る前に沖で水柱が上がっているのが見えました」
「うむ、それだ。面倒を起してくれる」
「以前にもクラーケンは出たようですが、よくあるのですか?」
「んー、島は遠浅になっているから余りタマギ島の近くには来ないんだよ」
「ほー」
「数年に一度目撃される程度だね。よくあるとは言えないが見ない訳でもない」
「なるほど」
フローラは優雅にお茶を飲みながら晶の相手をしてくれている。
領主であるエドワードは陣頭指揮を執っている。
水竜とクラーケンがいる方の海辺に陣を張っての警戒。
領主も楽ではなさそう。
フローラはドンの様子も気になっているようだ。
晶へ聞いている。
晶も気になっている事をフローラへ聞いている。
水竜はともかくクラーケンの方は時々目撃されている。
上陸してはこないようだ。
問題は雑魚の動きだろう。
大物達の戦いに巻き込まれないように逃げてくる魔物との戦い。
そういう状況だ。
「ぴ」
フローラからの要請で晶はフードで寝ていたぴよこをテーブルの上に放したり。
護衛の女性達がガン見した。
さすがフローラ付きの護衛。
趣味嗜好は似るのかも。
晶の後ろにいる兵が息を呑んだ音が聞こえた。
興味があるのだろう。
ぴよこを交えた会談は昼ご飯まで続いた。
もっとも後半の話はぴよこを愛でる話であったが。
水竜、クラーケン、海からの魔物の話は置いておかれた。
事件は食堂で起きた。
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「お前!どういうつもりだ!!」
「貴様!!」
「おっと、動くなよ。俺の手が間違いを起こさないとも限らない」
「おのれ……」
「お嬢様に何てことを……」
護衛の女性達が罵っている相手は食堂で給仕をしていた男だ。
男の手には短剣。
鈍く光っている。
その短剣が向けられているのはフローラの首元。
フローラは黙って座っている。
顔色が悪い。
さすがに怖いのだろう。
「誰も動くな!動いたら悲しい結末を迎える」
給仕の男が言うと食堂にいた者達が動きを止める。
そして誰かの喉がなった。
晶もフローラの対面に座ったまま動かない。
(何てことを……)
(大胆じゃな)
(無茶しやがる)
晶の脳内会議。
カヅキは動揺。
タケマツは少しの驚き。
晶は呆れている。
「ケイン」
「はい」
給仕の男が他の給仕を呼んだ。
この場で動く者……ケインと呼ばれた男は短剣給仕の仲間らしい。
ケインは若い。
短剣を持った給仕は中年だ。
特徴のないおっさん。
こんな事をしでかすような男には見えない。
しかし現実に事件は起こっていた。
「お嬢様、失礼いたします」
「そ、それは!」
「貴様!お嬢様になんてモノを!!」
「黙れ」
「「……」」
若い給仕がフローラに近づき声をかける。
フローラからの返事はない。
男の手には首輪があった。
それを見た護衛達が騒ぐ。
短剣給仕が一言、黙れと言う。
口をつぐむ護衛二人。
短剣給仕の後ろで動こうとした執事の動きも止まる。
フローラを助けようとの動きであったろう。
誰が敵で誰が仲間なのか面識のない晶には判断が付かなかった。
晶も動こうとしていたが動けない。
カチャリ。
金属同士が当たる音が食堂へ響いた。
また誰かの喉がなった。
「コレが何か解るな?もうお前らに出来る事はない。まぁお嬢様がどうなっても構わんというならそれまでだがな」
「くっ……」
「お嬢様……」
(隷属の首輪とかかな?)
(それっぽいですね)
(そんな感じじゃな)
短剣給仕が勝ち誇った顔になる。
若い給仕は短剣給仕の後ろで周囲を警戒している。
いつの間にかこちらの手にも短剣が握られていた。
護衛達が言葉を漏らすが首輪には言及していない。
誰でも知っているモノなのだろう。
知らない者達もいたようだが。
「隷属の首輪……」
「目的は何だ?」
「そう、隷属の首輪だ。魔力を注いだ三人に俺は入っていない。だから俺をどうこうしても無駄だぜ?」
「「……」」
「お嬢様が焼け死ぬのを見たくなかったら俺のいう事を聞け」
やはり隷属の首輪だった模様。
護衛達の顔が青さを増す。
眉の間に皺が寄っている。
短剣給仕が宣言すると護衛達が呆然となった。
隷属の首輪、魔力……魔力を注いだのがこの男だったら何か打つ手が合ったのかも知れない。
食堂の空気が一段と重くなった気がした。
「目的といったな?」
短剣給仕が落ち着いた声で話す。
その視線が晶へ向いた。
(嫌な予感ですね)
(うむ)
(俺……かな)
「お前さんがアキラだろう?俺達と一緒に来てもらう」
「俺か?」
「ああ。ワイバーンを従えているのだろう?呼べ」
「……俺の雇用者はアレス王子だ」
「ほう……お嬢様がどうなってもいいと言うのか」
短剣給仕の目的はフローラではあったがそれだけではなかった模様。
ワイバーンの事も知っていた。
まぁ、アミでも知っている者は知っている話だ。
驚くほどの事ではなかろう。
晶が一応抵抗している。
それを聞いた短剣給仕がニヤリとした。
短剣給仕から殺気が漏れる。
「ア、アキラ殿!」
ポニーテールの護衛が慌てたようにアキラの名を呼ぶ。
フローラを助けたいのだろう。
だから晶には大人しくしてほしい。
そういう事に違いない。
「降参……降参だ」
短剣給仕が剣呑な雰囲気を表に出したのでアキラが降参した。
両手を広げて全面降伏である。
見捨てる選択もあったろうが晶はフローラを見捨てられなかった。
一緒にお茶を飲み話をした仲で、異世界人である晶に節度を持って接してくれた相手でもある。
ぴよこも可愛がってくれている。
自分の特殊性も踏まえての選択だと思われる。
タケマツのように最悪な事になってもでもいつか復活出来る、そういう事だろう。
死んだら終わりのフローラと自分を天秤にかけた晶。
「ケイン」
「はい」
短剣給仕からの圧力が減った。
そして若い給仕が再び動く。
晶の方へ……その手には短剣だけでなく首輪もあった。
いつの間に……マジシャンか。
(アキラさん……)
(いいのか?)
(仕方……ないです)
カヅキからは心配そうな念話。
タケマツは冷静そう。
晶、苦渋の選択。
「動かないでくださいね」
アキラの後ろに付いた若い給仕がアキラに声をかける。
そして隷属の首輪が晶の首へ……。
晶は冷たい感触に顔を顰める。
金属の内側に革があるので直接金属は触れていない。
それでも冷たさは伝わる。
冷たく、それなりに重い首輪。
その重さはこれからの晶とフローラを暗示しているかのようであった。
晶の目の間で短剣を突き付けられているフローラの目が見開かれている。
口元がワナワナと震えている。
自分のせいで……そう思っていそうだ。
王族の矜持がありそうなフローラ。
耐えられない事なのかも知れない。
タマギ島、副都市アミ。
領主の館で起きた事件は大事件になっていくのであった。




