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「やぁ、アキラ!」


「おいっす、アレス」



 今日も頑張るか!と晶が宿を出ようとした時に声をかけられた。

声の主はアレス。

その隣にはイェンの姿も。

イェンは晶へ向けて小さく手を振っていた。

アレス王子が話しているので出しゃばらなかったのだろう。

公私混同しない男。

真面目さは相変わらずのようだ。

迷宮都市から戻ってからのイェンは元の仕事、アレスの護衛に戻っている。

今日も仕事だ。


 アレスへ軽く挨拶を返す晶。

庶民的なアレスは晶を咎めたりしない。

公の場でない限り友人として付き合いたい。

その約束は続いている。

晶はアレスをしっかり者の弟分、そんな風に思っていた。


 宿の食堂兼、酒場は朝食の時間ではあるが、それほど混んではいない。

女将さんに一言いってから空いている席に座った。

アレスがわざわざ来たのだ、何らかの話があるのだろう。

そう思った晶がアレスに席を勧めている。

イェンはアレスの後ろで立ったままだ。

街中ではあるが一応警戒している模様。



「今日はどうしたんだ?アミへ人の出迎えか?」



 晶が話の口火を切る。

タマギ島にいる重要人物を迎えに行くのか?そんな事を聞いている。

実際、今までもあった話だ。

今回もそうかと思っている晶。



「あー、違うんだ。どちらかというと逆の話かな」


「ん?逆?あっちへ送るって話か?」



 アレスが爽やかな笑顔を少し曇らせる。



「タマギ島からの移動をしばらくなしにしようって話」


「えっと……俺は構わないけどいいのか?」



 逆というのは移動、輸送をしばらくしないという意味だった。

月に二、三回はやっていた仕事だ。

それをしばらくなしにしようと聞いた晶は困惑している。

頻度が増える事はあってもなくなるとは思てもいなかったのだろう。

それだけ大事な仕事であった。

対価も破格の仕事。

晶とゼロの働きにより南大陸、ドンの町に人材が補充されていた。

防壁も完成し、これから拡大の一途をたどるであろう。

その仕事がなくなるというのだ。

困惑もするだろう。



「首都であるアキから何人かの貴族がアミに入ったと連絡が来たんだ」



 シンとレイは通信の魔導具は貴重だと言っていた。

タマギ島に迷宮があるとは聞いていない。

どういう経緯で手に入れたのか気になる所である。

いや、鳩がいるのかも知れない。

魔物から逃げ切れる鳩……十分魔物だ。



「ふむ」


(貴族と聞くと構えちゃいますねー)

(安全な所にいる貴族は信用ならん)

(俺も二人と近いかな)



 アレスの言葉を聞き、カヅキ、タケマツがそれぞれ思う所を話している。

晶もそんな二人の言葉に頷いている。

貴族に良い印象がないようだ。

アレス達は王族なので除外してそう。



「アキラの事は父上である王くらいにしか報告していないんだ。だけどどこからか聞きつけたみたいでねぇ……」


「あー」


「アキには中央大陸と繋がりのある貴族もいるからだと思う」


「間に海があっても付き合いがあるのか」


「あるんだよ。滅多にないけど船の行き来もあるしね」


「ふむ」

(あっちから迷宮都市での噂がいったかのぅ)

(アミの人からという線も捨てきれませんよー)

(エドワード達ではなかろう)

(ですねー)


「どう考えても碌な事になりそうもない。だからゼロの仕事はしばらく中止で」


「おっけー」

(アレス王子、良く解ってますねー)

(言う通りじゃろう)



 タマギ王国の首都アキにいる貴族が動いているというアレス。

晶の事を思ってだろう、移動、輸送という大事な仕事の中止を申し入れてきた。

そう解っていても貴族を処分出来ないのだろうか?

きっと複雑な事情があるのだと思われる。

あちらをどうにも出来ないのなら晶の行動を変えるしかない。

晶はまったく困らないようで、あっさり受け入れている。

カヅキとタケマツがアレスの見識を褒めている。

若いのに出来た王子である。



「それならしばらくはウィル達と探索、討伐の仕事に専念するさ」


「うん。僕もそれがいいと思う」


「なら決まりだな。アレスの方はどうなんだ?ここの所忙しそうだったけど」



 晶が南大陸、ドンの町周辺で冒険者の仕事をすると言うと、アレスも同意する。

それから、久しぶりに見た顔なので晶が聞いている。



「うん。寒くなって来たからね、備えをしていたんだ」


「おー!領主っぽい」


「いやまぁ、そうなんだけどね……」


「農業も形になったと聞いたぞ?」


「ドンの人も増えたからね。足りない分の食料として肉の確保、加工の準備さ」


「なるほど」


「薪は売るほどあるから問題ない」


「そっか」



 アレスはドンの町に生きる者達のために動いていた模様。

カルロス元国王が主軸で動いているだろうが、大変そうだ。

食べ物、寒さ対策、雪が降らないとはいえ準備はいるのだろう。



 それから雑談を少ししてアレスは帰っていった。

イェンも。

イェンとは夜に呑もうぜと話していた。

もちろんアレスも誘ったが、都合がつきそうもないと断られていた。

アレス達と別れ、夜が楽しみになった晶であった。







「イェン……お前なぁ……」


「すまん」



 宿の食堂兼酒場。

晶とイェンはテーブルを囲んでいた。

しかしテーブルを囲んでいる者はそれだけではなかった。

いては行けなそうな人もいた。

その人を連れて来たイェンを責める晶。

大して悪そうにもしていないイェン。



「ぴよこさーん!こちらのお肉を食べませんかー?」


「ぴ」



 タマギ王国の王族であるビクトリアが晶達と同じテーブルを囲んでいた。

来て早々、ぴよこを見て悶えていた。

そして今はぴよこに向けてフォークに刺したオークのステーキを差し出している。

ぴよこは肉を凝視している。

食べたいが晶の手からではないので悩んでいそう。



「まぁ、呑もうぜ」


「呑むか……責任はイェンだしな」


「怒られるような事になったら一緒に頭を下げような」


「謹んでお断り申し上げます」


「ほれほれ、カンパーイ」


「おう。乾杯」


(いいなぁ)

(カヅキは呑んだことないじゃろう?)

(何か憧れがあるじゃないですかー)

(そんなもんかのぅ)



 イェンがエールの入ったカップを晶へ押しやって来た。

王族であるビクトリアが一般人が集まっている酒場にいる。

その事で怒られるのは連れて来たイェンだと割り切ろうとする晶。

イェンが晶のカップへ自分のカップをぶつけて乾杯。

晶も問題を先送りにして呑むことにしたらしい。

カップを掲げた。


 その様子を見てカヅキが羨ましそうな声を出す。

呑む事にも興味があるようだが、呑みの雰囲気への憧れが大きそう。



「ぴーちゃん!こっちのお肉の方が美味しい」


「ぴ」


「ぴよこさーん」


「ぴ」



 晶達のテーブル、その隣には魔女っ子ナオ、エグゼ、ヴァイもいた。

テーブルの上にいるぴよこを巡って火花を散らすビクトリアとナオ。

ぴよこファンクラブのメンバー同士のくせに争う二人。

中心にいるぴよこはビクトリアの差し出す肉、ナオの差し出す肉、それから晶の顔を目で追っている。

ぴよこも大変だ。


 そんな様子を無い事のようにエグゼは黙々とカップを傾けている。

ヴァイはガツガツと肉を食べている。



「ヴァイ、肉以外も食え」


「もがっ!」


「何を言っているかわからん」


「でかくなるには肉を食うしかないんだよ!」


「そうか、頑張れ」


「おう!もがもがっ」



 エグゼが肉ばかり食べているヴァイを注意している。

さすが保護者。

リスみたいに頬を膨らませたヴァイが返事をしている……らしい。

言葉にはなっていなかった。

音を立てて口の中の物を飲み込むヴァイ。

ふむ……ヴァイはちびっ子である事を気にしている模様。

体の大きいエグゼは、何を言っても聞くまいと思ってか適当そう。

ヴァイは再び口いっぱいに肉を詰め込んでいる。


 シンがヴァイには気を付けろと晶に忠告していった。

晶はそれから密かに注意していたが、特に怪しい動きは見られなかった。

ちびっ子で言動、行動ともに子供っぽいヴァイ。

晶は気のせいだろうと思いつつも監視を続けていた。


 彼らは晶と一緒に行動している事も多い。

それ以外の時はドンの冒険者、そのまとめ役であるおっさんウィルに付いて行っていた。

南大陸の魔物についての情報収集は終わっているようなので、そろそろナオ、エグゼ、ヴァイだけで動く事も増えていくだろう。

ドンでは金銭のやりとりは少ない。

貨幣の量が多くないというのもあるが、使う所が少ないというのもある。

寝る所、食べ物、そのくらいもらえれば取り敢えずは構わない。

そんなスタンスで動いているナオ達であった。

もっとも晶も似たようなものだ。

アレスから報酬はもらっているが現物支給の場合が多い。

それは晶からの申し出であった。

国の貨幣は減らすべきではないというカヅキの提案だ。

いずれ他の国との付き合いが増えるかも知れない。

その時に困らないようにとの配慮だ。

現代日本から来た者達からの貨幣に付いての歴史的動き、その必然性を鑑みての事だろう。



「お肉でもだめとは……ならこれでどう?」



 ぴよこが肉へ食いつかないので他の物で興味を引こうとするナオ。

だからと言って銀貨を出すのはどうなのであろう?



「ぴ」


「そんなものに興味を示すぴよこさんではありませんわ!」


「むぅ……」


「これですわよね?」



 ビクトリアもナオに対抗してか巾着袋から何かを取り出した。

押し花……中々綺麗な出来だが、それもどうなのか?


 ぴよこの反応はいまいち。

ビクトリアが次々と物を出していく。

ナオ、ビクトリア、何となく残念臭が漂う二人。

もっと違う食べ物で勝負するのが正しいと思われる。

食いしん坊のぴよこだからね。



「ぴ!」



 ところがぴよこがある物に興味を示した。



「まぁ、ぴよこさん!これが良いのですね?」


「ぐぬぬっ」



 どういう勝負だったのかビクトリアがドヤ顔をナオに向ける。

悔しそうなナオ。

本当に、何の勝負だ……。


 ぴよこが興味を示した物は宝石であった。

綺麗で透き通った黄色い宝石。

琥珀だと思われる。

嘴で琥珀を突くぴよこ。

ぴよこの尻に付いている蛇も琥珀を突いている。

あっ!



「……宝石が溶けた」


(ドロドロですねぇ……)

(ぴよこは訳が解らんな……)



 ぴよこの様子を伺っていた晶。

その口から言葉が漏れる。

ぴよこが突いていた宝石がドロッと溶けたのだ。

アイスが溶けて崩れたような感じ。

晶、理解が追いついていなそう。

カヅキが冷静な解説。

タケマツはぴよこの謎っぷりに呆れている。



「と、溶けちゃいました」

「不思議」


「宝石、もったいねー」

「宝石ってのは溶ける物なのか?」



 ビクトリアが琥珀を見て驚いている。

ナオも驚いている。

ヴァイが宝石が溶けたのを見て素直な感想。

価値的な事で現象を追及していない。

エグゼはそういう物なのかとナオに聞いている。

だがナオからの返事はない。

びっくりしているからだろう。



「ぴよこは謎生物だなー」


「……おう」



 イェンは謎生物とぴよこを呼んで終わり。

慣れすぎだ。

驚きから抜け出ていない晶が適当な相槌。


 みんなの視線がテーブルの上にいるぴよこと溶けた琥珀に集まっている。



(宝石、琥珀……ぴよこちゃん、ひよこ、蛇、コカトリス?うーん)


(コカトリス……それかも!)



 カヅキが垂れ流した念話。

その中からコカトリスという単語に反応する晶。



(何か解ったんですか?アキラさん)

(コカトリスって石化させるので有名だろ?だからじゃないかと思ってさ)

(えーっと、石化?)



 カヅキにコカトリスが持つと言われている石化能力が今の現象に関係があるという晶。



(そういう能力がある奴って耐性とか無効化能力もあるだろ?)

(ゲームとかだとそうですねー)

(ぴよこもそうだと思うけど、石化を毒だと考えれば解毒薬があるんじゃないかと)

(尻尾の蛇ちゃんが噛んでましたね……)

(それだと思うんだよなー)

(ぴよこちゃんが石化させて、蛇ちゃんがそれを戻すという訳ですね!)

(そうそう)


(良く解らんがぴよこは謎でいっぱいじゃな……)

(まぁ、ぴよこちゃんがコカトリスだと判明もしていませんけどねー)

(面白そう!)



 みんなの注目が集まる中、晶とカヅキは今の現象についての仮説を立てていた。

石化が出来るなら、逆もあり。

そういう事じゃないかという仮説。

謎生物ぴよこ。

生態の一端を理解出来るかも……。


 晶が面白そうだと言ってぴよこを見つめている。




 ぴよこが実験に付き合わされる未来まで見えた。




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