2-33
2-33
「ふぅ、ネクロマンサーは邪悪そうなモンを使役するからと思ったけど……」
(問題なかったですね。良かった)
(職業に貴賤なしじゃな)
(言葉の使い方がちがうような……)
晶が独り言ちている。
口元に手を当てて擦っている。
安堵したのだろう。
レベッカ達の光の玉は晶に何のダメージも与えなかった。
怪我もなかったので回復もしなかったが。
「でもゼロには効きそうだな」
(効くでしょうね)
(ゼロが浄化されるとどうなるんじゃろな?一応生体じゃし)
「うーん。精神体が切り離されるのは間違いないと思うけど……どうなるんだろ」
(各地に教会はあるようですし、ゼロも気を付けないといけないわねー)
(そうじゃの。とりあえずは喰らわんようにせんとな)
憑依状態のゼロには効きそうな攻撃であった。
レベッカ達、教会の者は晶の配下にとって天敵かも知れない。
ただゼロの見た目は生きているワイバーンと大差ない。
アンデッドだと判断できないであろうから、いきなりあの光の玉をぶつけられる事はないだろう。
アンデッドではない魔物だと回復してしまうからだ。
魔物にも回復は効く。
「あっちも倒せたみたいだね」
(ですねー。大したものですー)
(あの斧の大男が倒したのじゃ。他の者が地竜の目を引いていたがダメージディーラーはヤツだったようじゃの)
動かなくなった地竜の背中で晶がもう一体の地竜の方を視ている。
あちらの地竜の動きがなくなった。
魔女っ子の仲間である斧の大男と双短剣のヴァイが地竜の側に立っている。
さすがに嬉しそうだ。
斧の大男はニヒルな感じであったが口許が緩んでいる。
ヴァイは素直にガッツポーズをとっている。
地竜の側には他にもいた。
坊主頭の赤マントこと、ノック。
その奴隷らしい獣人。
槍使い。
彼らも雄叫びを上げて喜んでいる。
倒れた仲間、生きている自分、成果。
どれをとっても喜べる理由であろう。
参戦していたものの怪我で戦線離脱していた者達が倒した者達へ駆け寄っている。
同じパーティではない者もいるだろうが連帯感があるのだろう、一緒になって喜んでいる。
晶が地竜の背中から飛び降りてイェンに並ぶ。
イェンはアンデッドになった地竜を眺めていた。
「アキラ、やったな」
「おう。って俺は背中にへばりついていただけだったけどな」
「こいつの注目を引くって目的は達成したさ」
「まぁな」
「しかしアンデッドに効果覿面だったな」
「だな。初めて視た」
「あれなら色んなとこで引っ張りだこだろうなぁ」
「回復だけじゃなく、アンデッドにも対応出来るとはな」
「仲間に欲しいぜ」
「教会からは離れられないんじゃないか?助っ人くらいでなら参加してくれるかもだけど」
「いっぺん話くらいはしてみよう」
「言うのはタダだしな」
イェンと晶がレベッカ達、シスターについて語っている。
イェンはシスターの誰かが仲間にしたいようだ。
確かにパーティに一人いれば安心感が違うだろう。
実際、怪我人をかなり治していた。
彼女らに声をかけて連れて来た冒険者ギルドは正しい。
それだけの価値があった。
連れてくるのに代償があったかは知らないが、大掛かりな集団行動では必須な職かも知れない。
晶も特に反対はしていない。
(彼女らが仲間になったらゼロを回復するかもですよ?)
(あぁ、それは危なそうじゃ)
(うっ、それがあったか……)
カヅキが懸念を念話で伝えている。
タケマツも言われて思いあたった様だ。
晶も。
さすが委員長、頼りになる。
動かなくなったアンデッド地竜の周りを歩く晶とイェン。
鱗のないパターンの竜だが価値のある素材が落ちているか見ているようだ。
竜の血が地面に沁みこんでいる。
竜の血は薬の素材として重宝されている。
もったいない。
人目がなければカヅキの終の手札で地竜の死体をカードにしてしまっていただろう。
惜しい。
「おっ、槍だ。まだ刺さってたのか」
「あの槍使いが持ってたやつだな」
地竜の尻尾の付け根辺りに一本の槍が刺さっていた。
付け根に刺さっていたせいで尻尾が暴れても抜けなかった模様。
「よっと……あ……これ」
(これ呪いの武器じゃないか?)
(若干魔力は感じますが……)
(禍々しい感じの槍じゃな。昔、似たような槍を見た事があるのぅ)
(や、やばいかな?)
(もう手に持ってますけど……アキラさん大丈夫なの?)
(たぶん……)
晶が何気なく槍を引き抜いた。
そして違和感。
怪しげな槍は呪いの武器っぽいと。
(のぅアキラよ、それが理由ではないか?)
(ん?)
(地竜がアンデッドになった理由ですよ)
(あ、あぁ!!)
(元の持ち主はよくそれを持てたのぅ……)
(呪い耐性持ちとかですかね?)
(お、俺どうなっちゃうの!?)
タケマツは槍が原因で死んだ地竜がアンデッド地竜として動き出したと言っている。
元の持ち主は尻尾で弾き飛ばされ木に激突して亡くなっている。
晶がアワアワしている。
呪いと言う言葉だけで怖くなったのだろう。
(地竜が短時間でアンデッドになったのならアキラにも直ぐ影響が出るのではないか?出てないなら大丈夫じゃろ)
(神気持ちなら大丈夫なんじゃないかなー?)
(そ、そっか……神気、いやネクロマンサーのおかげって線もあるか)
(それもあるかもですー。あ。カード化すればテキストが見れますよ)
(おぉ!その手があったか!カヅキさんお願い)
地竜はタケマツがいうように短時間でアンデッド化していた。
影響が出るなら直ぐに出る可能性が高い。
そしてカヅキからの捕捉。
その言葉を聞いて少し落ち着いた晶。
神気はタケマツ曰く、復元力。
どんな影響もいずれなくなるのだろう。
更にカヅキからの提案。
素晴らしい提案である。
カード化された物体は、ゲームのテキストのように解説が出る。
感心した晶がカヅキにカード化を頼む。
「うっ、やっぱり呪いの武器だ……」
(ですねー)
(解ってよかったのぅ。スッキリじゃ)
(みなさんへの説明は呪いの槍かもって言って、後の判断はみなさんに任せちゃいましょう)
(アキラが影響なく持てれば貰えるのではないかの)
(呪いの槍だって注目を集めて、アキラさんが持てていればそうなるかもです)
(レベッカさん達に浄化されるかもだけど、それはそれで構わないか)
晶がカード化して槍のテキストを見た。
周りにイェンしかいないので包帯をずらしてテキストを見ている。
カードにはきっちりと呪いの文字が。
使える物は使える者が、となるかも知れない。
しかも晶は討伐者として一番の功績がある。
可能性は高い。
ただ、呪いの武器についての世間一般からの扱いが判らない。
レベッカ達が詳しいだろう。
カヅキがカードから槍に戻した。
地竜がアンデッド化した理由の説明に使うためだろう。
「呪いの槍なのか?」
晶の呟きを聞いたイェンが晶に聞いている。
「おう。呪いの槍だった」
「うへ……怪しげな槍だとは思っていたが呪いの槍だとはな」
「イェンも持ってみるか?」
「遠慮しとく。そんなのを持てるのは変人だけだろう」
「き、きみぃ!失礼だな!!」
「ふふふっ」
「何だ、楽しそうだな」
イェンは晶から呪いの槍だと聞くと嫌そうな顔をしている。
そんなイェンに槍を渡そうとする晶。
サッと距離をとるイェン。
仲の良さそうなやりとり。
イェンの楽しげな笑いを聞いてクィン達を引き連れたレベッカが来た。
「アキラが地竜の尻に刺さっていた槍を引き抜きましてね……」
「どうも呪いの槍らしくて……」
「なにっ!?」
「呪いの槍ですって!?」
「でも普通に持ってるのです」
「……」
「これのせいで地竜がアンデッドになったのではないかと」
「なんと!」
イェンと晶の言葉を聞いて声を荒げるレベッカ。
物静かなクィンも大きな声を上げている。
ちょっと珍しい。
逆にマリーが冷静だ。
晶が槍を持っている事を指摘。
胡乱げな表情で晶と槍を見ているオル。
シスター達の反応は概ね良くない。
呪いの武器、その扱いは結構大事なのかも知れない。
「俺は持てていますけど、嫌な感じです。持ってみますか?」
「い、いや、止めておこう」
「そうね」
「嫌がらせなのです」
「アキラさんはおかしい」
女性陣から距離をとられる晶。
女性陣だけでなく晶の顔も引き攣る。
ショックを受けた模様。
「下に槍を置いてもらえるか?」
「……はい」
レベッカの要請に応じる晶。
のそっと動き、槍を地面に置いた。
「クィン頼む」
「任せて」
レベッカがクィンに何かを頼んでいる。
そのやり取りで何をするのか理解したクィン。
付き合いが長そうである。
そんなクィンが集中している。
「クリアカース」
特に名前はないが呪いの槍に向かって白い光が放たれる。
どうやら呪いの解除らしい。
レベッカよりクィンの方が得意なのだろう。
ヒュオンッと風切り音のようなものがして白い光が消える。
「む……」
「引っ掛かりがあったわね」
「よく判らなかったです……」
「ちょっとだけわかったかも」
良く判らないが経験の差が出ている模様。
マリーとオルは何が起こったかいまいち解っていなそう。
「呪いの解除をしきれなかったようだ」
「アキラさんの言葉は正しかったのね……よくこれを持てるわねぇ」
「おかしいのです!」
「おかしい」
「ワタシ、オカシク、ナイネ」
(アキラさん、なんでカタコト?)
「私達でも持ちたくないな。アキラ、君が持っていてくれ給え」
「ハイ」
レベッカから呪いの槍の管理を任された。
そして判った事。
呪いの品は問答無用で呪いの解除をされる模様。
いや、レベッカ達だけかも知れない。
(地竜の死体をカード化しちゃっていいかな?)
(えっ?力をばらしちゃうんですか?)
(もう、この地には来ないという事かの?)
(買い出しも終わってますしドンへ帰りたい。これを回収するのに時間がかかってもねぇ……)
(迷宮はいいの?)
(うん。面白かったけど、あれ以上はイェンにはきつそうだ)
(今の剣ではきつかろうな)
晶、脳内会議を開催。
一気に地竜を持って帰りたいようだ。
それをするためにはカヅキの終の手札の力がいる。
使ってしまいたいらしい。
(アイテムボックスって事にしようかと)
(見つかれば即、国に抱え込まれるらしいですよ?)
(成果報酬を貰ったらゼロに乗っておさらばさ)
(レベッカさん達ともお別れになりますよ?)
(うん。残念だけどネクロマンサー的に天敵っぽいんだよなぁ……)
(私達は消されないでしょうけどゼロは危なそうですよね)
(迷宮に心残りはあるけど、ここでやるべきことはやったかと)
(そうじゃな。それもよかろう)
シスター達の力についても考えていたようだ。
ネクロマンサーとしては困るのだろう。
良い関係を築いていたが、ゼロには代えられないと。
カヅキ、タケマツも消極的ながら賛成。
終の手札を公にする事になりそう。
「イェン、カード化の力を使おうと思う。だからこの地ともサヨナラだ」
「むっ……そうか。まぁ買い出しも終わったしいいか。俺は早くドンへ帰りたい」
「賛成してもらえて嬉しいよ」
「おう。こんなデカブツの始末を待っているのはかったるい」
「だろ?俺もそう思う訳よ」
「注目も集まってないし、やっちまえ」
晶がイェンに相談した。
イェンも構わないらしい。
晶よりドンへ帰りたい気持ちが強いからかも。
そして力を使えと。
「終の手札」
晶の言葉に合わせてカヅキが力を使う。
視界が広くなった。
スッキリである。
「お、地竜の素材がばらせるな。用途が書いてある素材も解る」
(ふっふっふ。さすが私)
(相変わらず便利じゃのー)
(さすがッス)
晶がカードを見ている。
地竜の情報が色々と書いてある。
カヅキチート。
地竜の内臓も部位ごとに別のカードに出来る模様。
便利すぎ。
一家に一台、カヅキさん。
「ア、アキラ?」
「……」
「地竜が消えたのです!」
「アキラは色々とおかしい。間違いない」
晶がやった事をシスターズが突っ込んで来た。
ちゃんと誰がやったか解っている。
まぁ、晶かイェンなのは当然。
変な事をしでかすのは晶と相場が決まっているのだろう。
わりと最近知り合ったシスターズにすらばれている。
地竜を倒した様子を見られていたのか?……仕方ないかも。
晶を囲んで騒いでいるシスターズ。
他の冒険者達も集まって来て大騒ぎに。
呪いの槍。
地竜のアンデッド化。
大きな地竜を収納できるアイテムボックス。
とにかく大騒ぎだった。
迷宮都市コド。
お別れの時が近い。




