2-34
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地竜討伐を終え迷宮都市コドへ無事に戻った晶達を含む冒険者一行。
仲間を失い足取りの重かった者。
これから貰える報酬に浮かれる者。
地竜を倒し鼻高々な者。
冒険者達の顔は色々であった。
晶は地竜の死体をギルドへ提出した後、討伐隊のみんなで祝杯をあげるために酒場を借り切った。
倒れて行った者達の分も呑んで騒いだ冒険者達。
それが冒険者だとベテランが語っていた。
ちゃっかりシスターズの側の席を確保した晶とイェン。
美味い肉、魚を食べ、エールをたっぷりと呑んだ。
金は報酬がたんまりと出るので気にせずに食べて呑んだ。
そんな宴会は夜遅くまで続いた。
徹夜で呑むという者達を置いて晶とイェンは途中で帰った。
帰ったといっても宿である。
しっかり者のちびっ子店員はいなかったが宿は取れた。
そして、しっかり休んだ晶とイェン。
ぴよこも晶のベッドの上を歩き回った後で一緒に寝ていた。
その姿にカヅキが悶えていた。
ずっと飽きずに見ていた模様。
そしてその翌日、冒険者ギルドの会議室にて……。
「領主からの呼び出しだぞ?」
「そう言われても次の仕事で今日出発なんですよ」
(まぁドンの仕事は急ぎじゃないですけどねー)
「ぬぅ」
「ギルマス、困りましたね……」
「そのまま伝えればいいんじゃないですかね?俺達はそれでいいです」
「アキラの言う通りに言えばいい」
冒険者ギルドのマスターであるモーゼス、補佐のパスカルから詰め寄られていた。
地竜討伐の報酬は貰った。
小さな家が買えるほどの報酬である。
晶には追加報酬も出ていた。
活躍したからだろう。
周りにいる冒険者から文句は出なかった。
それだけの仕事をした晶であった。
ギルマスから詰め寄られているのは金の話ではない。
今回の地竜討伐を依頼してきた領主からの話である。
晶達、厳密に言えば晶個人の呼び出しだ。
地竜を倒すのに大きな力を発揮した晶。
呪いの槍を持てる晶。
地竜や亡くなった冒険者をコドへ持ち帰った晶。
まぁ、終の手札で持ち帰ったのだが晶の功績になっているのは当然であろう。
カヅキの存在は晶達以外知らない。
呼出の主は、迷宮都市コドの領主。
ムロン帝国から離脱したキーナ商業国の重鎮でもある。
晶とイェンはサクッと呼出しを断っていた。
この手の呼び出しや接触してくる商人、冒険者が来るのは予想済み。
だが南大陸の町ドンへ戻ると決めていた。
領主に会えば、更なる報酬や名誉が与えられる可能性が高いが、それがどうでもいいくらいの理由があった。
晶は包帯眼帯が面倒。
イェンはホームシック。
うん……大層な理由だ、仕方あるまい。
晶とイェンが悩まずに断ったのでギルマスが頭を抱えている。
断られるとは思ってもいなかったのだろう。
いくら国家に属していない組織の支部長とはいえ地元の領主ともめたくはないのだろう。
それは当然だ。
晶は、次の仕事の予定があるから行けない、そのまま領主に言えばいいとギルマスへ言っている。
イェンも同意している。
「だがなぁ……領主は軽く見られていると思うかも知れんぞ」
「それでも構いません。依頼主に上下は付けられません」
(キリッとして言ってますけど嘘っぽいですー)
(うむ、似合わんな)
「アキラ、良い事を言う」
「……驚いた。大した心構えだ」
「ですね。これは我々で何とかするしかありません」
(わぉ!騙されてますー)
(キリッ!ワシも練習するか……)
(うるさいです。真面目な顔くらいしたっていいでしょうが)
なおもギルマスが言ってくる。
脅しと取れなくもない。
それに対し真面目な顔で答える晶。
カヅキとタケマツから茶化される。
真面目なイェンは晶の言葉に感心している。
仲良くなっているが、まだまだ甘い。
もっと甘いのはギルマスとパスカルだ。
うちの冒険者にこんな奴らがいたのか!と、ちょっと感動しているっぽい。
そんな晶達を守らねばなるまいとも思っていそう。
「アキラは冒険者の鑑だな」
「素晴らしい考え方です」
「カッコイイのです!」
「ちょっと怪しい……」
シスターズからの評価が聞こえて来た。
晶の鼻の穴が広がっている。
むふーっと鼻息も荒い。
得意げな顔。
オルだけは晶の事を疑っている。
中々良い目だ。
「マジか……」
「怖いモノなしかよ!」
「すげーな。まねしたくねーけど」
「良い男だ……」
「金もらえるかもなのに。もったいない」
「素材も貰ってたし十分なんだろ」
他の冒険者達も騒いでいる。
驚きの声が多そう。
称賛の声もある。
一目置かれたのは間違いない。
「ふぅ……お前さん達は青銅だったな」
「ん?あぁ、冒険者ランクか」
「青銅だ」
「地竜討伐、特別に鉄へあげてやろう」
ギルマスが晶とイェンに向かって言う。
どうやら領主の件は諦めたらしい。
その代わりに冒険者ランクを上げてくれると言う。
鉄といえば一人前の冒険者として扱われる。
地竜を倒すほどの冒険者が一人前でなくて何なのかという事だろう。
本心はもっと上まで上げたいのかも知れない。
それだけの功績だ。
「アキラ達なら当然だな……ってかまだ青銅だったのかよ!」
「登録したてらしいぜ?」
「それなら納得だ」
「他の者に示しが付かないだろうから上げるのは当然だ」
「ここも面白くなりそうだぜ」
「迷宮の攻略が捗りそうだ」
冒険者達も興味があるようだ。
晶達は冒険者の間で話題の中心になっていきそう。
もっとも、今日から見る事はなくなるのだけれども……知る者はいない。
「上げてくれるなら上げてもらうか」
「そうだな。損はないだろう」
「よし。パスカル、二人のカードを処理して来てくれ」
「はい」
ギルマスから指示されたパスカルが晶とイェンから青銅のカードを受け取って部屋を出ていく。
「次の仕事ってのは何だ?」
「運搬と討伐ですね。護衛も兼ねてます」
「まぁ、そうだな」
「さすがだな。お前らなら仕事は途絶えまい」
「今度の仕事は長期なんですよ。大口です」
「長期か……いつ終わるのやら」
「そんなにかかるのか」
「そうですね」
「一生の仕事になる」
「ほぉ……領主の呼び出しを断ったし、どこかの国にでも仕えるのか?」
「違いますが、上を辿っていけば国に当たるかも」
「ふむ」
パスカルが去った後でギルマスが晶達に聞いて来た。
次の仕事……開拓と人の運搬だ。
迷宮都市コドに来る前にやっていた仕事でもある。
だがタマギ王国の事は言わない晶達。
この辺りの情報をギルマスに渡す必要がない。
むしろ面倒事が晶達だけでなくタマギ王国に降りかかりかねない。
「そうか、しばらく会えないのだな」
「イザベル達にも言わないとね」
「長くなるですか……」
「残念……」
「縁があれば、また会えますよ」
「そうそう」
「会いにい来るつもりはないという事か。ふふっ」
「えっと、教会で待っている者がいる方々を連れてはいけませんからね」
「まぁ、それはそうですねぇ」
「子供達が待ってるのです!」
「待ってる」
「だろ?俺達もそれは知っているからな」
「アキラの言う通りだ。俺達は教会の事を知っている」
「縁を期待するさ」
「そうですね」
「期待するのです!」
「また会う」
「「おう」」
シスターズと仲良く会話する晶とイェン。
ざわついていた冒険者達が静かになっている。
静かになった冒険者達から睨まれている晶達。
嫉妬か。
シスターズは人気がある。
美人、可愛い、そんな女達だ。
地竜討伐での治癒だけではあるまい。
「そんな目で見るなよー」
「そうだぜ。俺達はしばらくコドに来る事はなさそうだからな」
「「「おぉ!」」」
「「そっか!」」
「勘弁してやろう」
「うむ」
イェンが冗談っぽく茶化し、晶が今後の展開を冒険者達へ話す。
それを喜ぶ冒険者達。
単純である。
何だか憎めない奴らだ。
『紅蓮竜』のメンバーも混じっている。
リリィの前でいいのだろうか?
リリィはどうでもよさそうな顔。
上から目線の発言は赤マントだ。
槍使いが同意している。
こいつらもシスターズに憧れがあるらしい。
喜んでいる冒険者達を横目にパスカルが戻って来た。
「ギルマス、これを」
「おう、ご苦労さん」
パスカルがギルマスへ冒険者カードを渡している。
「アキラ、イェン。お前達は今日から鉄だ!」
「おー!何かいいな」
「鈍く光ってかっこいいぞ」
「「「おめ!」」」
「「ありがとう!」」
ギルマスから直々に冒険者カードを渡された晶とイェン。
何だかんだ言って嬉しそうだ。
カードをひっくり返したりして見ている。
周囲の冒険者達から祝福の声。
それに礼を返す。
「それでは解散!ご苦労だった!」
「「「おう!」」」
報酬の受け渡しも終わっているので解散になった。
ギルマスもこれから忙しいに違いない。
地竜の処理もあるはず。
商人達が集まってくるだろう。
それだけ地竜の素材は価値がある。
晶達に領主の呼び出しを断られた件があっても、有り余る儲けがでるからか嬉しそうな顔のギルマス。
のっしのっしと部屋を出て行った。
パスカルもギルマスの後に続いた。
部屋を出ていく時に晶達に軽く手を振って出て行った。
地竜討伐が失敗に終わらなかった一因だからだと思われる。
「行こうぜ、アキラ」
「行くか」
「また会おう、アキラ、イェン」
「また会いましょうね」
「会うのです!」
「子供達にも待ってる……」
「「またな!」」
晶達も部屋を出るのであった。
部屋だけではなく迷宮都市コドからも……。
知り合いも出来た。
迷宮も楽しかった。
トラブルは特になし。
買い出しは十分。
それ以上の報酬。
充実した迷宮都市生活だった。
▼
(付いて来てますねー)
(うむ。魔女っ子と仲間達じゃな)
(誰かと思ったら魔女っ娘かぁ)
(魔力が大きいから隠密にはなれないですねー)
(地竜討伐の報酬や素材目当ての盗賊辺りだと思っていたよ)
(ワシもじゃ)
迷宮都市コドを後にした晶とイェン。
森を歩いている。
人目のない所でゼロと待ち合わせだ。
そこへカヅキとタケマツから報告。
晶達を尾行している者達がいる。
晶も何となく気づいていた。
恐らくイェンも。
時間的に領主の手の者ではない。
尾行者は魔女っ子達だった。
「どうするんだ?アキラ」
「んー、どうすっかな……」
(どうするかって話すか戦うかですか?)
(殺気はなさそうじゃがの)
(町で声を掛けて来てくれれば良かったのにね)
(確かにそうですね)
(人のいる所では話せない用件かのぅ……)
イェンが後ろの者達の対応をどうするか晶に聞いている。
考え込む晶。
脳内会議。
タケマツの言う通り、何か人に聞かれたくない話だろうか?
それ以外、町で話しかけて来なかった理由が判らない。
考え込みつつ森を歩く晶達。
歩く速度は緩まない。
ザッザッと足早だ。
魔女っ子達も一定の距離を置いて付いてきている。
もうすぐゼロとの待ち合わせ場所だ。
「ここら辺で話しかけてみるか」
「話すのか?」
「おう」
(何の用でしょうかねぇ)
(さてな。地竜討伐、宴会でも接点はなかったからのぅ)
少し開けた場所で立ち止まり振り返る晶。
イェンも晶の隣で立ち止まる。
魔女っ子達も立ち止ったが、少しの間を置いて近づいて来た。
「バレバレ?」
「まぁな。お前さん魔力でかいもの」
「だな」
「私もそれを聞きに来た」
「それ?」
「ん?」
「アキラ、あなたはどうして魔力がない?」
黒いローブ、黒いとんがり帽子、杖を持った魔女っ子が晶達に追いついて話しかけた。
質問のために来た?
(神気で覆っておるからの)
(それを知ってどうするんですかねぇ)
「それを聞くために追って来たのか?」
「そう」
「後ろのお前さん達もそうなのか?」
「俺達は特に興味ない」
「ないっす」
「答える義理はないけど……」
「ないけど?」
「知ってどうする?」
「知的好奇心」
「何もする気はないと?」
「そう」
魔女っ子以外はただの付き添いらしい。
知的好奇心を満足させるためだけに追って来たと魔女っ子は言っている。
無表情系で人形のような顔立ち。
変わったお嬢さんだ。
魔女っ子の真意を聞いた晶は考え込んでいる。
(言うんですか?)
(どうすっかな……)
「魔力はある。だが隠蔽出来る力があるのさ」
「普通は隠蔽出来ても完全には無理」
「俺は普通じゃないのさ」
「うはー、これがドヤ顔ってヤツか」
(イェンさん、その通りですー)
(これがか……勉強になるのぅ)
考え込んでいた晶。
まだ結論は出ていなそう。
だが探るように話し出した。
魔力は隠しても隠し切れない。
斥候は魔力を抑える術は持っているが完全なる隠密は不可能だ。
本格的な魔法使いには見破られる。
それが出来ている晶は普通ではない。
晶がニヒルな感じで返事。
イェンが晶から聞いたドヤ顔を目の当たりにして感心している。
「力……聞くのはマナー違反?」
「そうだな。冒険者にとって力は隠す方がいいだろ?」
「当然」
「そうだよな。諦めてくれるか?」
「仕方ない……近くで観察する」
「はっ?」
魔女っ子が上目遣いで晶に力の事を聞いている。
上手い説明が出来なそうな晶。
冒険者のマナーで通している。
そして魔女っ子が爆弾発言。
晶も呆気にとられている。
「おいおい!ナオ!?」
「勝手に決めるなっす!」
「気になるから仕方ない」
「仕方なくねーぞ!?」
「エグゼの言う通りっす!」
「あー、内輪もめは俺達が去った後で頼む」
斧持ちの大男が焦って魔女っ子に話しかける。
想定外だったのだろう。
ちびっ子ヴァイは憤慨している。
だがナオと呼ばれた魔女っ子は取り付く島もない。
斧持ち大男はぶっきらぼうな無口系かと思われたがツッコミが出来る模様。意外。
ヴァイは三下っぽいしゃべり。
楽しそうな三人組。
漫才が始まりそうな所で晶が言葉をかける。
付き合ってられないのだろう。
イェンも頷いている。
(ゼロ!俺のいる所は解るだろ?来てくれ)
(承知)
(わぉ!強引な打ち切りー俺達の冒険はこれからだー)
(まぁ、今更秘密の一つや二つがばれた所で構わんか……大事な所はぼかせておるし)
(怪力、収納、ワイバーンの使役、しばらくコドには近づけないなー)
(もっと穏便に済ませればいいでしょー)
(うむ)
(だって面倒)
(アキラさんも南大陸に里心ですかー)
(なるほど)
晶がゼロを呼び寄せる。
ここから飛び去るつもりらしい。
カヅキとタケマツが晶の強引さに突っ込んでいる。
いくら面倒でも力の一端をばらすとは強引だ。
うーむ。
晶達に影が差す。
そして上から風が来た。
周囲の木々、葉や枝が揺れた。
ゼロの登場である。
呆気にとられて上空を仰ぎ見ている魔女っ子。
魔女っ子以外の二人は既に戦闘態勢。
良い反応。
「俺達は去る」
「うぉ、呼んだのかよ!言えよ!!」
「すまん」
「アキラは秘密が多い……興味深い」
「秘密で片付けるなよ!?」
「まったくっす!」
ゼロが地面に降りて来た。
ゼロの胴体へ手を付いて魔女っ子に話しかける晶。
イェンがゼロの登場に驚いている。
他の人がいる所で呼ぶとは思わなかったのだろう。
魔女っ子は驚きを収めていた。
切り替えが早い。
ツッコミが入る。
その同意も。
「私も乗りたい。一緒に連れて行って」
「ナーオー」
「ダメダメになってるっす」
晶、女性から一緒に連れて行ってと言われて嬉しそう。
シチュエーションが違えば言われたいセリフだ。
収拾がつくのだろうか……。




