2-30
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魔法使い達による炎の魔法は一体の地竜に集中していた。
お互いの魔法が干渉し合うどころか、相乗効果を上げている。
着弾と同時に凄まじい火柱が立つ。
そして地竜のモノだと思われる雄叫び?悲鳴?も辺りに響き渡った。
突撃している冒険者達も余りの熱にたじろいでいた。
直撃したわけでもないのに凄まじい余波。
想像以上だったのであろう。
晶達も魔法が当たる直前に地竜の姿を見る事が出来ていた。
ドラゴンというよりは大きなトカゲ?ワニ?
這うのが得意そうな体。
手足は短い。
首はそれほど長くはない。
胴体には厚みがあり体高も高い。
胴体と同じくらいある尻尾は厄介そう。
顔は確かにドラゴンっぽい。
乱杭歯が凶暴さを増している。
鱗ではなく分厚い皮膚。
まるでワニのようだった。
炎の魔法が当たった地竜は苦しそうに身を捩らせている。
火柱が収まりつつある。
頭を地に付け、尻尾が唸りを上げて地面を叩いていた。
そのせいで土も舞い上がっていた。
「効いているぞ!」
「今だ!」
「行くぜ野郎ども!!」
「「「おう!」」」
「待て!!魔力が増大している!来るぞ!さんかい、散開っ!」
「くっ」
のた打ち回っている地竜目掛けて突っ込もうとした冒険者達。
魔法が効いているのを確認して更に士気が上がっている。
そこへ冷水を浴びせるような誰かの声。
地竜の方で魔力反応。
慌てて体勢を整える冒険者。
「ぐわっ!」
「ぐぉっ」
「っち」
地竜から石礫が飛ばされた。
散弾でありながら一発一発も小さくない。
人の拳より大きい。
盾で防ぐ者、横っ飛びで躱す者、被弾する者、結果は様々だ。
倒れている冒険者も出た。
「ワズ!くそったれ!!後ろに下げろ。ヴィスタ前で盾を頼む」
「わかった」
「くっ、ワズ重いんだよ!」
「痛てぇな!クソトカゲめ」
「喚く元気があるなら大丈夫だな。行くぞ」
「おう」
「見ろ、下顎が吹っ飛んでるぜ!!ヒャッハーッ!!!」
「魔法すげぇ!」
「右目もなくなってんぞ!」
「俺らも負けてらんねぇ」
「金、いる……」
既にパスカルの指揮ではない。
各パーティごとに動いている。
即席のチームも組まれている。
盾が集まって防壁を築いていたり。
怪我人を下げる者、地竜の後ろを取りに動く者、一定以上の冒険者が集められたというのは嘘ではなさそう。
怪我の酷さも何のその、恐れずに突っ込んでいく冒険者達。
勇敢?無謀?金の亡者?その行動原理は色々だ。
そのおかげで魔法使い達は下がることが出来ていた。
乱戦になるであろうが、展開次第ではまた魔法使い達が出てくるだろう。
薬瓶に手を掛けている魔法使いが多い。
一撃にかなり魔力を注いだのだろう。
連戦はきついかも知れない。
だが、その価値はあった。
狙った地竜は頭、前足、体の上部辺りが焦げている。
特に顔が酷い事になっていた。
下顎が吹っ飛び、右の眼球から血を流している。
口に入った攻撃があったと思われる。
ラッキーもあっただろうが、かなりのダメージだ。
「魔法すげぇ……」
(ね!凄いね!!)
(地竜は頑丈なんじゃがのぅ……大したものじゃ)
晶は魔法使い達による攻撃に感動している。
余裕あり。
カヅキも興奮している。
魔法使い達は女ばかりだったので、自分が魔法を使っている姿を重ねて見たのかも知れない。
魔法少女に憧れが?
タケマツはタケマツで炎の魔法による結果を見て感心している。
地竜は暴れているがダメージは確実にある。
イェンも興奮している。
魔法の効果を目の当たりにしたからだろう。
「これならいけるぜ!アキラ」
「だな」
(手負いの地竜は暴れるぞい。気を付けろ)
(おっけ)
「イェン、手負いの地竜には手を出さずに無傷のヤツを狙うぞ!」
「そうくるか。解った」
晶とイェンは石礫でダメージを負っていない。
晶はきっちり弾道を見切っての回避。
イェンは鉄の盾で衝撃を受けながらもさばき切った。
タケマツからの忠告を聞き動き出す晶。
イェンもやる気満々である。
暴れている地竜を横目に木々の間を駆け抜ける二人。
だが、同じ狙いらしい者達は他にもいた。
迂回している姿が見える。
「あれ『紅蓮竜』のリリィって女だ」
「狙いは同じか」
「周りの連中は『紅蓮竜』の仲間達って事か」
「十人くらいかね」
「それ以外にもいるな……手負いの地竜は魔法使い達の功績がでかすぎる」
「あー、なるほど別途報酬を考えるなら無傷の地竜を狙うか」
「そういうこと」
冒険者ギルドの会議室で注目を集めていた者の一人、『紅蓮竜』のリリィが晶達の前を走っていた。
取り巻きも一緒だ。
リリィを先頭に動いている。
カリスマリーダー、そんな感じだ。
黒装束で統一しているパーティも来ていた。
不気味な槍を持った男も……。
名誉、報酬、どちらも狙える相手、無傷の地竜。
皆、気合が入っている。
もちろん晶達も負けてはいない。
走る速度が上がった。
「よっしゃ、後ろをとれるな」
「番の相手がやられて激昂してるけどな」
晶がほくそ笑むと、イェンが補足してくる。
魔法を喰らっていなくても激怒している。
当然か。
「俺は剣が効くか判らんから、目と口を狙ってみる」
「おう。俺は尻尾に嫌な思い出があるから前足と後ろ足の間、胴体を狙うぜ」
「お互い無事に生き残ろうぜ!」
「あいよ!」
イェンが頭の方を狙うと言う。
晶は胴体だ。
大蛇に弾き飛ばされたのが頭にあるのだろう。
こっちへ来て晶が痛い目にあったのは、大蛇とメガスライムだけだ。
地竜はワニのようにデコボコした皮膚を持っているので頑丈そう。
事、ここにいたっては協力できる事はないと分かれて戦う二人。
お互いの拳をぶつけてから走った。
狙う場所目掛けて。
「うぉりゃぁぁっ!!」
晶は無事に地竜の元へ辿り着いた。
魔法による迎撃も喰らわなかった。
もっとも魔法は放たれていたが、その狙いは番を襲っている冒険者目掛けてであった。
無傷の地竜を狙ったのは正解だったかも知れない。
気合の声を上げながら一番槍として突撃。
前蹴りを喰らわせていた。
ゼロより大きく厚い体。
そんな地竜の体がズレた。
なるほど爆散していないし足が体に埋まってもいない、頑丈だ。
しかし衝撃を逃せなかった結果が体のズレである。
晶の攻撃は通用しそうだ。
そんな晶の横を通り過ぎ地竜の体、そのデコボコを足場に駆け上がる影。
『紅蓮竜』のリリィだった。
真っ赤な髪をなびかせて颯爽と駆け上がった。
そして大きな剣を逆手に構える。
「はっ!!」
両手で下の地竜目掛けて突きこんだ。
剣は頑丈な皮膚に弾かれることもなく、ズブリと剣の先を埋めている。
皮は厚そうだが、鈍くはないらしい。
怒号を上げて尻尾を振る地竜。
足場が大きく揺れ、振り落とされるリリィ。
その手には剣が握られている。
自らの武器を手放したりはしていない。
その剣は赤熱を帯びていた。
ただの剣ではあるまい。
周囲にいる者なら気付いたであろう、肉の焼けた匂いがしたことを……。
晶は蹴りで様子を見ていたのか、既に地竜から離れていた。
戦闘経験が積み重ねられている。
危ない場所にいつまでもいたりはしない。
「うはっ!やっぱ尻尾の方は危ないよな……」
距離をとった晶の目に、何人かが空を飛んでいるのが視えた。
魔眼で魔力が視れる晶だ。
個人が持つ魔力には差があるという。
初めて会う者でなければ個体識別も可能かも知れない。
実際、冒険者ギルドの会議室で会った者達で魔力の多い者は記憶していた。
「危なげな槍を持ったヤツがやられるとか……見かけ倒しか?」
(まぁ、そういうな尻尾の付け根に槍が刺さっとる。相打ちと呼ぶには痛さが違うがの)
(槍の人が木に激突して動きませんよー)
(黒装束の何人かもやられおったな)
「尻尾の方はだめだよなぁ。奇襲しやすかったろうけど」
(あ、イェンさんは一撃入れて下がってますね)
(様子見じゃな)
無傷の地竜を狙った者達の中で戦闘不能状態の者が出た。
いくら上位冒険者とはいえ簡単な戦いではないという事だろう。
地竜の尻尾は鞭のように振り回されていた。
柔軟なのに頑丈。
可動範囲が広い。
危険すぎる。
対して頭を狙った者達はどうかというと……。
これまた何人かが石礫を喰らっていた。
だが戦闘不能にまでは至っていない。
折りこみ済みで突っ込んでいったのだろう。
だから対処も考えていたと思われる。
イェンもそうだった。
盾でさばききれなかった一撃を貰ってはいたが攻撃も当てていた。
残念ながら狙った場所へは攻撃出来なかったようで堅い皮膚を削っただけであった。
そして地竜の方を向きながら後退。
右腕を振っている。
どうやら被弾したのは右腕らしい。
小手に仕込んである鉄の棒がいい仕事をしたと思われる。
速度重視で軽い装備ながら盾、革の鎧、籠手、ブーツは防御力を高めてある。
革の鎧にはカヅキのカード化した物を仕込んでいたり。
衝撃は受けてしまう物の、刺突、斬撃には滅法強い。
秘密兵器だ、いや秘密防具か。
「みんなで頭を狙って!私はまた同じ傷を狙う!!」
「「わかった!」」
リリィがまた動く。
『紅蓮竜』の仲間達はリリィの指示にしたがい頭を狙うようだ。
尻尾よりは攻撃が解りやすいというのもあるだろう。
(アキラさん、リリィさんが行きましたよ!)
(負けるな)
(へーい)
晶はカヅキとタケマツからの言葉に余裕の返事。
「さて、どうすっかな……」
走っていったリリィとは違いゆっくりと歩き出す晶。
地竜の防御が高く、攻めあぐねているのか。
それとも何か考えているのか……。
リリィは前回と同じ攻撃をしていた。
剣が更に深く刺さっていた。
そしてまたも振り落とされている。
ジワジワとした攻めである。
地竜の防御力が高すぎるのだろう。
そしてリリィに続いて地竜の背中に乗れた者が一人。
黒いローブを来た双剣使いだ。
顔は見えない。
何となく忍者を連想させる恰好と動きだ。
黒ローブも地竜の背中に剣を突きたてようとしたが上手く刺さっていない。
リリィとは剣の質が違うようだ。
同じ様に駆けのぼろうとした者達もいたが失敗に終わっている。
地竜の魔法を防ぐ術を持っているかよほどの身体能力がなければ難しい。
激しく振られる尻尾を見て、晶が走り出した。
尻尾が来ない位置を確認していた。
走り寄り、ジャンプ。
そこから更に蹴り上がる。
リリィのマネをしたようだ。
ん?腹這いになっている。
そしてズリズリと頭の方へ匍匐前進。
あ、地竜からの石礫を喰らいまくった……。
何がしたかったのか……晶君。
地竜の上から叩き落とされ足で蹴り飛ばされていく。
足は長くないので動きは遅い。
だが重そうな蹴りだった。
「ぐぅっ、痛てぇ……」
(そりゃ魔法をモロに喰らいましたしね……)
(まともに蹴られたしのぅ……神気がなければ死んでおったぞ)
晶は這いつくばって尻を抑えている。
尻を蹴られたのだろうか。
あと鼻血も出ている。
「ぴ……」
(あぁぁぁぁっ!ぴよこちゃん!!)
(あっ……)
「ぴよこ!ごめん大丈夫か!?」
「ぴ」
「ほんとすまん!」
(アキラさん!気を付けてくださいよ!!ぴよこちゃんもいるんですからねっ!!)
晶のフードからぴよこの声が……。
しかしぴよこ、黄色い毛玉のくせに頑丈だ。
さすが魔物と言うべき?
まぁ、森に放しても危険だ。
晶がやられないようにするしかあるまい。
その晶がアホな事をしでかしましたけども。
「し、失敗」
(何がしたかったんですか?)
「えっと……背中にへばりつけば手も足も出ないだろうと思って……」
(魔法が来ましたね……)
(こちらは魔法がある世界じゃしの)
「自分が使えないから直ぐ忘れちゃう……」
(解らないでもないですが……)
(が、頑張れ)
地竜の背中にへばりついて安全を確保しつつ、一方的な攻撃。
そんな事を目論んでいた模様。
晶、残念。
晶が立ってローブに付いた土を払っている。
周りの冒険者が目をひん剥いている。
たぶん地竜からの石礫、ぶっとい足による蹴り、そんな攻撃を喰らって平然と立ち上がった晶に驚いているに違いない。
解る。
そうこうしている間にも冒険者達の猛攻は続いていた。
もう尻尾の辺りを狙っている者はいない。
だが頭に集中しているせいで石礫を喰らう者達が増えてもいた。
一人リリィだけが地竜の上で剣を振るっている。
数少ない有効打だろう。
彼女にも石礫が降り注ぐ。
しかし彼女の前がぼんやりと光り、いくつかの石礫が消滅した。
魔法障壁?
そして突き刺した剣がぼやける……ゆらゆらと揺らいで見える。
高熱を発しているのか?
手札の多そうなお嬢さんである。
他にも頭に攻撃が集中しているので細かい傷が沢山付いている。
「あったまきた!」
(えーっ自業自得かとー)
(厄介な男じゃな)
逆切れしている晶。
カヅキとタケマツの声は無視している。
さっきと同じ様に走り出した。
リリィとすれ違う。
ジャンプ、地竜の体を足場にして更に上へ。
今度は地竜の体の上も走っている。
石礫の魔法が来る。
おぉ!狭い場所で躱しながら前へ進んでいる!
躱せない物は手で叩き落としていたり。
あー、下にいる冒険者がまた驚いているね。
普通、魔法を手で弾いたりはしないし出来ない。
おかしな晶。
「お返しだ!!」
さして長くもない首の上を渡り頭に到達する晶。
首が振られるが、腹這いでへばりついている。
さっきの二の舞?
だがそれより早く晶が攻撃した。
折りこみ済みだったらしい。
当然か。
うへ……晶の手が地竜の眼球を突き破った……。
それで終わらずに、肘、肩の辺りまで埋没させていく。
グルァァァッ!と腹に響く雄叫び。
更に頭が激しく振られる。
必死にへばりつきながら腕を先へ進める晶。
手に嫌な感触がありそう……。
イェンもそうだが他の冒険者も狙っていたであろう目だ。
しかし晶がやるまで潰せなかった。
晶の攻撃力、やはりおかしい。
辺りに石礫をまき散らしながら暴れる地竜。
首、頭、尻尾もめちゃくちゃに振られている。
もう誰も近づけてはいない。
リリィですらも距離をとって見ている。
その表情は悔しそうだ。
誰が地竜を苦しめているかが解るからだろう。
それはリリィではない。
今も一人へばりついて戦っている男、晶。
次第に動きが鈍くなっていく地竜。
一瞬の静寂。
ローブの右半分を血で染めた包帯眼帯の男が動かなくなった地竜の頭の上に立つ。
真っ赤な拳を天に突き上げた。
地を揺るがすような大歓声。
地竜の側にいた冒険者達が各々の武器を天に掲げた。
一体の地竜討伐成功の瞬間であった。




