2-19
2-19
真っ直ぐで広い通路。
レンガを積み立てたような壁。
レンガのいくつかが光って辺りを照らす。
昔のRPGゲームっぽさもある。
雰囲気よし。
そして通路の左右には扉が点在している。
等間隔、それぞれの側に二十くらいずつの扉。
「さっそく行ってみるか!」
「だな」
晶の提案に賛同するイェン。
見た目は古びた木の扉。
それは両開きで掴むところがないので押して開くと思われる。
晶が扉を押す。
押すが……。
「イェン!開かないぞ!」
「あー、中に人がいるんだな」
(受付のおねーさんが言ってましたよ?)
(うむ)
「う、受付嬢が言ってたな」
(じとーっ)
(必殺やまびこか……)
「魔物を倒して、ある程度時間が経つと倍の数になって魔物が湧くって言ってたな」
「お、おう。それそれ!」
「だから入り口近くや浅い階層の扉は初心者や衛兵の訓練所も兼ねてるらしいぞ」
「おー、そりゃ便利だ」
「な!うちの国にもあればなぁ……」
晶が押しても扉は開かなかった。
そこでイェンが口を開く。
ちゃんと受付嬢が説明していたらしい。
晶はテキトーに聞き流していたから、さもありなん。
カヅキとタケマツに呆れられている晶。
一体から始まって、二体、四体、八体、十六体まで増えるらしい。
八体、十六体を倒すと、宝箱が出るとも。
浅い階層の宝箱、中身はしょぼいそうだが、訓練にお小遣いが付くのだ不満はあるまい。
イェンがタマギ王国にも迷宮があればと呟いている。
タマギ王国に迷宮はない。
むしろ迷宮が確認されている国の方が少ない。
だから迷宮に人は集まるし、栄える。
晶とイェンは扉を押しながら先に進んだ。
だが扉が開くことはなかった。
人気があるのだろう。
順番待ちの者も見当たらない。
恐らく、ずっと籠って戦っているのだろう。
もし入れたらラッキーと言える。
「ここが通路の終わりか……」
「結局、扉は開かなかったな、イェン」
「朝一で部屋の確保をしないと無理なのかもな」
「うはー、それは面倒だ」
晶とイェンの前には下に降りる階段。
通路は一km程度であった。
今来た通路には人影がある。
昼近く、そんな時間でも晶達の様に入ってくる者達はいると言う事だ。
いつでも迷宮には入れるし、中に入ってしまえば時間は関係ないのだろう。
特に中で野営も考えている連中には。
晶とイェンは階段を降りていく。
地下二階も地下一階と同じ造りだった。
違うのは階段を降りた先に衛兵が二人立っていた事くらい。
晶達を見ても特に何する訳でもない衛兵。
せいぜいジロリと見ただけだった。
晶とイェンは、再び扉を押しながら先へ進む。
途中で冒険者のパーティとすれ違った。
入る者もいれば出る者もいる。
どこかの部屋が空いているかもなぁ!なんて話ながら進む二人だった。
そして地下二階の扉も開かなかった。
地下三階へ……。
階段を降りると衛兵が立っていた。
また二人である。
地下二階と違うのは通路の先々に冒険者達がたタムロしている事だろう。
この階層辺りから冒険者にとって美味しくなるのかも知れない。
「アキラ、どうする?」
(あの人達みたいに待って部屋に挑戦するかって事ですねー)
(イェンは早く戦いたいのだろう。だが通路に一定の数の人がおると掃除屋が湧くぞ)
(ん?掃除屋って何?)
(良く解らんが通路に人が集まるのを阻止してくる魔物じゃ)
(ほー)
「待つかって事か?」
晶がイェンに返事をする。
更にイェンから言葉が出てくる前に、後ろから声がかかった。
「あー、お前ら、この階には留まるなよ?下へ行け」
アキラは声の主の方を向く。
衛兵の一人だ。
その衛兵は晶の顔を見てもいた。
包帯で目を覆っているから無理もない。
大丈夫なのかコイツとでも思っているのだろう。
「あの人達はいいんですか?」
アキラが通路の先にタムロしている冒険者達を指差し、あいつらはいいのかと衛兵に聞いている。
「あいつらで五十人くらいだろう。それ以上になると獣が現れて襲ってくる可能性が高まる」
「人数についてきっちり調べた事はないが百人もいれば確実に出てくるぞ。死にたくはなかろう?」
「はー、そうなんですね。不思議っすね」
「判ったら先に向かえ。遊んでもいられまい」
「ですね。行って来ます」
「おう。死ぬんじゃねぇぞ」
「「はい」」
揃いの胸当てと盾、槍を持った衛兵が晶達に説明してくれる。
親切な事だ。
まぁ、それが仕事っぽいが。
晶達を気遣ってくれる様でもあったので、晶とイェンは素直に従う。
晶達は扉を押さずに通路を急いだ。
タムロしている連中がいるのだ、よもや部屋が空いていまい。
だから確認せずに行くのだろう。
▼
「うはー、結局地下五階まで来ちゃったな。イェン」
「人気あるんだな……部屋待ちの連中だらけだったぞ」
「危険と稼ぎ、丁度いいんだろう」
「アキラ、ここは扉が四つ並んでいるぞ」
「フロアボスが四体はいるって事か」
「同じなのかね?」
「どうだろう?まぁ、混雑しないで済みそうだからありがたいわな」
「お、開くぞ!行こうぜ、アキラ」
「迷宮初戦闘が地下五階のフロアボスとは……」
結局、地下五階まで来てしまった晶とイェン。
真っ直ぐな通路を歩くだけになっていたので、時間自体は大してかかっていない。
通路の終わりは長方形の広場になっており、四つの扉があった。
中が一緒にはなっていまい。
ここには誰もタムロしていなかった。
宝箱などは出ないと聞いている。
倒して先に進むだけフロアボスの部屋は、そういう所だと思われている証拠だ。
イェンが扉の一つを押すと扉が開いた。
破顔するイェン。
ようやく戦えるので嬉しいのだろう。
晶も嬉しそうではあるが、ぼやいている。
そして人目がなくなるという事で包帯をずらし見える様にした。
まだ魔眼だけで戦うには不安なのだろう。
フロアボスの部屋に入る二人だった。
「イェン……真っ暗だな」
「扉を閉めると明るくなるらしいぞ」
「そっか。準備はいいか?イェン」
「おうよ!アキラ!」
「閉めるぞ……って勝手に閉まるのね」
「勝手に閉まろうとしていたな」
「自動ドアか」
(何だか懐かしい)
(油断するなよ?アキラ)
(あいよ)
晶が扉を閉め様とするが、勝手に閉まっていく扉。
扉が開いたままでは戦わせてもらえないシステム。
逃げ場はないし、援軍も来ない。
戦って勝つしかないのだ。
もっとも普通はここに来るまでに情報を集めるなり、部屋で戦うなりして探ってくるものだ。
ここに普通の人達はいなかった……。
扉が閉まると部屋に明かりが灯っていく。
通路のレンガと同じ物で出来ている部屋。
十分な明るさになった。
そして部屋の奥には扉が見える。
あれが先へ進む扉なのだろう。
その前に黒い煙が立ち込めていく……。
煙が消え現れたのは十一体のゴブリン。
「一番後ろのでかいヤツがボスかな、鎧を着てるし、剣、盾も持ってる」
「だろう。その前には五体ずつの部隊が二つ。雑魚の武器はまちまちだな」
「ギャッ!ギャギャッ!!」
「「「「ギャーッ!」」」」
「ぴ」
晶とイェンが部屋の中に湧いた魔物を確認していると、ボスらしいゴブリンが耳障りな声で喚きたてた。
それに呼応するゴブリン達。
周りがうるさかったのか起きてしまったぴよこ。
その間にもゴブリンは剣や槍を掲げて晶達に向かって突進してくる。
「ぴよこ、ちょっと戦うぜー。大人しくコロコロしてなさい」
「ぴー」
晶のフードでコロコロしだすぴよこ。
緊張感なしである。
「イェン、右の部隊な」
「おう。油断するなよ」
「あいよ」
晶は腰の剣鉈を右手にとりながらイェンに指示をだす。
別に指示を出す役など決まっていないので気分なのだろう。
剣鉈は長くはない。
刃渡りでいえば四十cm程度。
厚みがあり重さで断ち切れる代物。
武骨なのが晶の趣味らしい。
イェンも左手に持った盾を前に構え、右手でショートソードを鞘から抜いた。
ショートソードとは言っても刃渡り七十cmくらいある。
使い勝手が良さそうだ。
そんな二人はどちらも笑顔である。
戦闘狂?違ったとしてもゼロを戦闘狂とは笑えまい。
「ギャッ」
晶が盾持ちのゴブリンの後ろから槍で突いて来たゴブリンを逆に襲撃。
槍を躱しつつ剣鉈による一撃を頭にくらわす。
ゴブリンの悲鳴らしきものと、どす黒い血が噴き出す頃には晶の姿は違うゴブリンの前へ。
「おぉ!迷宮って頑丈なんだな。もっと神気を込めても大丈夫そうだ!」
(迷宮の床、壁、扉を壊すのはワシらでも難しかろう)
(そうなんですか。なら全力が出せるかも知れませんねー)
「こいつらには必要なさそうだけど、なっ!」
速い!
ゴブリン達も晶の動きを追えていない。
居場所を把握する前に後ろから惨殺されていくゴブリン達。
一体に付き、一撃。
十秒もかからずにゴブリン小隊を撃滅。
さすがに実力差がありすぎだ。
晶はボスゴブリンの位置を確認した後、イェンに視線を向けている。
「やるねぇ」
(盾を上手く使っていますよー。危なげないです)
(位置取りも上手い。ゴブリンの体を盾に使って他のゴブリンからの攻撃を減らしておる)
晶達が褒めている様にイェンは中々の戦闘力を発揮していた。
すでにイェンの足元付近には二体のゴブリンが横たわっていた。
残り三体。
盾でゴブリンの攻撃を逸らし、体勢の崩れたゴブリンの首元へ一刺し。
一撃離脱で後方へ飛び退き、次のゴブリンを見据えている。
盾で殴りつけた。
まったくもって危なげがない。
「さすが剣士の天職持ち」
(じゃのぅ)
(一次職とは言え天職持ちともなると若くても戦えますねぇ)
(ね)
晶が言う様にイェンは天職持ちの一人だった。
アレス王子の許可を得ているとイェンが教えてくれた事だった。
伊達に若くしてアレスの護衛を務めていた訳ではなかった。
剣士は戦士と並んで多くの者が就いている職業だ。
天職ともなると特別な剣でもない限り初めて持つ剣でも十全に扱えるという。
身体能力に関する補正も筋力、体力が上がるとか。
そして一番の売りは間合いの把握だそうだ。
一種の空間把握らしい。
先の先、後の先、一対一では戦いの制御が出来る。
人気にもなるはずだ。
得意武器の剣もよくある武器だしね。
みなでイェンの戦いっぷりを見ていたその時、部屋の白っぽい明かりではなく赤い光りが部屋に現れた。
(杖を持ったゴブリンはゴブリンメイジだったようじゃの)
(火の魔法です!)
「っし!!」
「イェン、やるな」
ゴブリン小隊には魔法使いも混じっていた模様。
晶の方にもいたと思われるが出番なしだった。
イェンは火の矢を盾で受けずに大きく避けていた。
そして残り二体のうちの一体をゴブリンメイジとの間に置き壁として使っていた。
壁をスルーしてゴブリンメイジに向かって走るイェン。
先に魔法を潰そうというのだろう。
イェン、やる。
そんな風にイェンを見ていた晶に、ボスゴブリンが襲い掛かって来た。
イェンの所にいるゴブリンも残り二体。
やばいと思ったのかも知れない。
「ギャギャッ!」
「俺が倒しても身にならないんだがなぁ……」
(神気でなかった事になるらしいですからね)
(美味い所はイェンにやりたい所じゃが……)
円盾で体の一部を隠しながら剣を振りかぶって来るボスゴブリン。
晶はぼやきながらも迎撃の体勢。
カヅキとタケマツの声を聞く余裕すらありそう。
「ギャッ!!」
ゴブリンから振り下ろされた剣。
その剣は何も切っていなかった。
逆に腕が切り飛ばされている。
肩の辺り、腕の付け根から先が空を飛んでいる。
剣は握ったままだ。
何が起こったのかボスゴブリンは把握していまい。
だが痛みは感じたのかギャッと悲鳴を上げている。
吹き出す赤黒い血。
良く解らないながら円盾を前に出すボスゴブリン。
本能だろうか?
何かの攻撃から身を守らねばならない。
そんな動きだ。
だが、その後の事は知ることができまい。
なぜなら兜を被った頭が首から切り飛ばされていたからだ。
もちろんやったのは晶。
ボスゴブリンの後方で残心している。
ズシャッと重い音を立てて倒れるボスゴブリン。
ほぼ同時にイェンの戦いも終わっていた。
無傷のイェンが立っている。
ゴブリンメイジも守ってくれるゴブリンがいなければ力は半減であろう。
そういう場を作れた事も含めて、イェンの実力が垣間見れた。
「ちぇっ、ボスまで行けなかったぜ」
「ふふっ、精進したまえイェン君」
「まぁいいや。死体はすぐ消えるぞ。迷宮の魔物からは魔石が落ちるはずだから見逃すなよ……ってゴブリンじゃ小指の先くらいの大きさか」
「探すのもメンドイ。いらんだろ」
「アキラがそう言うならそうするか……ボスゴブリンとゴブリンメイジの魔石を取ろう」
「あいよ」
イェンが剣を振ってゴブリンの血を吹き飛ばしながら悔しそうな顔。
勝ち誇る晶、子供か!
イェンは素早く気持ちを切り替えている。
迷宮の魔物は床などに吸収されるという。
吸収される前なら魔石は取れるとイェンが晶に指示する。
だがゴブリンから出る可能性のある魔石の大きさを思い出したのか微妙な顔になるイェン。
晶も労力に合わないからゴブリンの魔石は要らないと。
ただのゴブリンから出た魔石は小さかった。
石ころみたい。
魔石は魔力を溜めこむ性質がある。
魔力をエネルギーとする電池の様なもの。
魔導具に利用する事が多い。
だがゴブリンから出る魔石の大きさでは魔導具の燃料にもなるまい。
粉にして使う程度だろう。
値段はたかが知れている。
ボスゴブリンの魔石も親指の爪程度だった。
ゴブリンより少し大きい石っころ。
価値は微妙そう。
むしろゴブリンメイジの魔石の方に価値がありそう。
それはボスゴブリンが出した魔石と大きさは同じくらいだが、ピンク色の濁った宝石っぽいので何となくありがたみがあった。
少なくとも、ただのゴブリンから出る魔石とは大違いだ。
魔法を使っていたのが魔石の質に関係ありそう。
こちらなら魔導具に使えるはず。
魔石は迷宮の冒険者にとって得やすいアイテムだと言える。
「これ結構綺麗だし、ここに籠って取ろうって連中がいてもおかしくないんじゃね?イェン君」
「ボス部屋で籠ったりなんかしたら突き止められて冒険者達からつるし上げを喰らうそうだぞ」
「表と裏の扉に張り付けば特定は容易か」
「この程度の魔石じゃ割にあうまい」
「そっか」
「じゃー、先に進もうぜ、アキラ」
「おう」
ボスゴブリンの後ろにあった扉から部屋を出る晶達。
晶達が部屋を出ると扉は勝手に閉まった。
ボス部屋の前の広場と同じ広さの場所に出る。
晶が振り返ると四つの扉。
出る場所は同じらしい。
中は繋がっていなかったからボスは常時四体いるのかも。
そして下に降りる階段があった。
「イェン、これって帰る時にも戦わないといけないって事か?」
「そういう事」
「うはー、メンドイ」
「いいから行こうぜ、アキラ」
更に先へ進む晶とイェンであった。
アレスからの依頼、買い出しが出来るほど稼げるのであろうか?
疑問である。
晶とイェンは楽しそうであるが……。
迷宮、人にとって利のある存在。
不思議な場所。
妙なゲームっぽさもある。
誰が何のために作ったモノであろうか。
単純に楽しめる者には良い場所に違いない。




