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「何だよ、おっさん」


「ガキにおっさんよばわりされてんぞ!ぎゃははっ」

「うるせー!笑ってんじゃねぇよ」

「ガキが粋がって冒険者の真似事なんてしてんじゃねーぞ」


「はぁ……危ない仕事をしないで堅実に働きなさいと」



 イェンが日焼けしている坊主頭の戦士を睨みつけて言い返す。

それもまたひょろい男から笑いのネタにされる。

そんな仲間を怒鳴る日焼け坊主頭。

腕を組んで説教をしてくる巨漢。


 その様子を見て、ギルドの受付嬢が溜息を吐いてから翻訳している。



「この稼業は死と隣り合わせだ。帰ってかーちゃんのおっぱいでも吸ってろ」

「家族がいるなら家族と暮らせる道を探せと」


「遊びかよ。武器も買えない貧乏人め」

「そんな装備じゃ迷宮には挑めないぞ。地道に揃えなさいと」


「包帯、ファッションかよ!カッコイイつもりか!!」

「怪我をしているならちゃんと治せと」


「二人でとか!笑わせてくれる」

「斥候、盾戦士、後衛といったパーティメンバーを揃えるべきだと」



「良い奴らなのか?」


「この受付嬢さんの翻訳ではそうらしいな」


「はい。この人達は悪い人ではありません。ただ……不器用なんです」


「不器用すぎんだろ!!」


「まったくだ」


「おいおい、失礼な事言ってんじゃねーぞホリー!ガキ共も真に受けてんじゃねー」

「そうだ!そうだ」

「っち、胸糞悪い。行くぞ!」

「おう」

「背中には気を付けろよ……」



 晶、イェンが受付嬢の言わんとしている事を理解する。

おっさんズは舌打ちをして入って来たギルドから、そのまま出て行った……。



「何なんだ……出て行ったぞ」


「面白いおっさん達だな」


「わ、悪い人達じゃ……」


「そ、そうみたいね」


「だな」



 ギルドのカウンターに残された三人は顔を見合わせて居心地の悪さを感じていた。

ただのおせっかいな冒険者達だったらしい。

先輩としての忠告と言える。

最後の背中云々もバックアタックに気を付けろと翻訳できるのかも知れない。

面倒なおっさん達であった。



(ああいうのがいる所は腐らん。いいギルドじゃのぅ)

(そうなんですか?私の時は腐ってましたけど……)

(うむ。時は流れたという事じゃな)

(……何だか納得がいきませんねぇ)



 タケマツがおっさんズを評価している。

対してカヅキは不満そう。

決して晶達が不幸になって欲しいとかではなさそうだが複雑そう。




「行くか……」


「おう」


「お気を付けて!彼らの言う事は間違ってませんからねー」


「うん。ありがとう」


「またなー」



 イェンがまだ迷宮に入っていないのに疲れている。

後ろから受付嬢の声がかかる。

心配してくれているのが解るので礼を言うイェンと晶。

手を振りながらギルドを後にするのであった。



(ボコボコにする展開ではなかったですねー)

(うむ。それか今回のどちらかだと思ったわい)

(後味の微妙さを味わったぜ……今日はここまでにしといたらぁ!って……)

(ふふっ)



 カヅキとタケマツの感想を聞く晶。

コントを見た後の様であった。

お疲れ様。




「食べ物も一杯あるし水もある」


「即効性のあるポーションと毒消しの薬草あたりを買ってから行こう」


「おう」


「迷宮前に売り子が一杯いたぞ。ぼったくりかも知れないけど、探しに行くのは面倒だ」


「まぁ、いいだろ。無駄にはなるまい」


「だな」



 晶が迷宮内で食べる物に付いて話す。

イェンは回復薬が足りないと返す。

ギルドに入る前に見た売り子から買おうとイェンからの提案。

迷宮熱が高いのか薬屋を探すのが面倒になっている模様。

やる気満々だ。




「綺麗な布あるよー」

「みずー!水袋付きだぁ!」

「干し肉、干し果物はいかがっすかー!」

「薬草はいらんかねー」

「地図、地下五階までの地図あるぜ!」

「盾役なら俺だ!」

「短弓!いると楽出来るぜー!」

「ポーション!ポーション!!」



 迷宮前、そこには衛兵が四名ほど見える。

隣にある小屋にはまだ衛兵が控えているのかも知れない。

そこへの道に売り子が溢れていた。

周囲の温度が上がっている気さえする。

凄い熱気だ。

売り物も多種多様。

人さえもいる。

パーティメンバーの売り込みだ。



「ポーションはいくらだ?」


「へい。この瓶一本で銀貨一枚でさぁ!保護用に六本入るベルトもいかがでしょう?銀貨二枚ですぜ」


「結構するな」


「うちは良心的な方ですよ」


「ふむ」



 ポーション売りの若い男に声をかけるイェン。

売り子の男が見せて来たポーションは素焼きの試験管みたいな物だった。

一本だけ透明度は低いがガラスの瓶もあった、どうやら中身を見せるためのサンプルらしい。

交渉役はイェンと決めているのだろう、イェンだけが話している。

晶は恰好が恰好だし表には出ないつもりだろう。

そしてイェンはポーションの値段を聞いてから周囲を伺う。

なるほど、他にポーションを売っている声を拾っている。

この雑踏の中で良く判るものだ。



「よし、買おう。ベルトとポーション六本だ。これだけ買うんだまけてくれよ」


「にーちゃんには敵わんなぁ……んー、銀貨七枚と大銅貨一枚で!」


「おう!じゃ丁度な」


「まいどー。お気を付けてー」



 イェンは値切っていた。

慣れた感じではなかったが。

売り子も折りこみ済みだったようで、あっさり下げて来た。

何を信じればよいのやら……少なくとも晶には交渉は期待できそうにない。

カヅキ辺りなら出来そうではあるが、残念。


 同じ要領で体力回復と解毒の薬草も買った。

薬草は即効性はないものの安くあがる。

噛んで飲み込むだけのお手軽薬草。

美味くはないらしいが。


 地図も買った。

地下五階までの地図。

タマギ王国では羊皮紙と木簡は半々くらいで使っていたが迷宮都市コドでは羊皮紙か紙を使っていた。

晶は紙がある事に驚いていた。

まぁ、異世界人が来ているのだ作られていてもなんらおかしくはなかろう。

ただ、所変われば品変わる。

タマギ王国には資源が少ないというのだけは事実だろう。

南の大陸進出で一気に伸びる可能性があるのだけが救いだ。



「そっちの奴は大丈夫なのか?」


「はい。武術の達人ですよ」


「ほぉ……盲目の拳士か」


「そうです」


「札を」


「「はい」」


「木札か……無理するなよ……」



 迷宮の入口で晶達は衛兵に止められた。

一言目は、やはり包帯を巻いている晶の事であった。

当然であろう。

晶以外にも盲目の拳士でもいるのか、それで納得された。


 それから札を見せる様に言われる。

出入りする者、全員確認されていた。

晶とイェンが冒険者ギルドで作ったばかりの木札を提示するとおじさん衛兵が忠告してくれた。

おっさんズといい、気のいい奴らが多いのか?

因みに晶達の前を進んでいた冒険者達は鉄の札から情報を書き取られていた。

入場控えだろうか?

晶達はされなかった。

冒険者は自己責任と受付嬢に聞いた。

そして迷宮へ挑む者は後を絶たないとも。

木札が帰らぬ事はよくある事で、一々記録しておけないのだろう。

それくらい無謀な事なのかも知れない。

衛兵も止める権利がない?のか忠告だけだ。

十分な優しさと言える。



 そのまま通された晶とイェンは迷宮に踏み込むのであった。



「イェン、この階段を下りたら真っ直ぐの通路だってさ」


「らしいな。一本道で下りていくだけなら楽勝だな」


「通路にも魔物は出る事もあるみたいだが左右の扉に入らないとお宝や戦闘素材には出会わないってか」


「迷宮ってのはこんな物なのか」


「いやぁ、変わってるんじゃないか?ここ」


「五階ごとにボスがいるらしいから戦闘なしで一番下まではいけないか」


「楽っちゃ楽だな。先を目指すなら相当楽だろう」


「ボスは危険らしいがな」


「楽ならボスなんて言わないだろ」


「まぁな。気を付けて行こうぜ、アキラ」


「おう」



 足元が光る階段を下りていく二人。

謎照明である。

足元から上半身くらいまでなら十分な明るさだ。

誰が設置した物か。

都市?それとも迷宮自身?

不思議な代物。



 階段より明るい通路。

高さも十分で、七mくらいはありそう。

幅も十m程度ある。

通路で戦闘になっても動けないなんて事はなさそうだ。

先は……数百m、いや一kmぐらいありそう。

真っ直ぐな通路。

見通しはいい。

良すぎる。

先を歩いている冒険者も見えた。

何だか緊張感のない迷宮。

自ら左右に点在する扉を潜らなければ危険な事はなさそう。

そう思わせる作りであった。



「行こう」


「稼がないとな」


「ぴっ!」


「おぉ、起きたかー迷宮に入ったぞー」


「ぴ」


「人が来たら隠れろよ」


「ぴー」



 通路に足を踏み出す晶とイェンであった。

迷宮に何かを感じたのか晶のフードでスヤスヤ寝ていたぴよこが起きた。

直ぐにお気に入りである晶の頭に移動。

鳥の巣よろしく髪の毛に馴染むぴよこ。

これから戦う者達のはず……。



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