2-17
2-17
統一感のない建物をキョロキョロと見ながら通りを進むイェン。
おのぼりさん丸出しであった。
だが、通りを行く人達には珍しくもない行動なのか誰も気にしていない。
見るからに怪しい晶も見られているはずだが特に気にされていない。
良い事なのであろう。
変装した甲斐があったというものだ。
晶は顔の半分に包帯を巻いている。
「景色を見れないのはつまらない……」
「二度と来ない場所なら外してもいいが、ここには何度か来ると思うぞ」
「ぐぬぬ」
(変わってないなぁ……)
(うむ)
(この乱雑さ、当時を思い出します……)
(カヅキには会わんじゃろうなぁ)
晶は歩くのに支障はない様だが、見れない事をぼやいている。
それをイェンに窘められるのであった。
判っちゃいるけど黙っていられなかった晶。
悔しそう。
そしてカヅキの呟き。
昔から変わっていないらしい。
「おわっ!?」
「ぐへぇっ!」
そんな二人が通りを進んでいるとイェンが声をあげた。
同時に飛び退いてもいた。
イェンがいた所にはカエルが潰れたような声を上げ、うつ伏せに倒れている男。
「なんだぁ?」
「誰か飛んできたな」
「おう。ぶっ倒れているな。なんだコイツ」
「いいぞー!!やれやれー!!」
「アイツらいつも威張っていやがる癖によええのかよ!」
「いやぁ、あのチビが強すぎるんだろ」
「おもしれー!やれー!!」
「ぎゃははっ!」
「いい気味だぜ。こりゃみんなにも見せねーとな!呼んで来いよ!」
「おう」
イェンと晶がのほほんと話をしていると周囲から大声が上がった。
ケンカもなんのその、楽しそうな野次馬達であった。
野郎どもばかりである。
女子供もいたが、巻き込まれるの恐れてか急いで離れていった。
ここでは良くある光景なのかも知れない。
「ケンカらしいな」
「そうみたいだな。いきなりこれか……荒っぽい町なんだなぁ」
「迷宮に引き寄せられている連中だ。無理もねーさ」
「そういわれりゃそうか」
「そうそう」
ケンカだと知ってなお、のほほんとしている二人。
そして野次馬の一員になるのであった。
なんだかんだ言って面白がっている。
当の本人でないからかも知れない。
「小さいヤツは魔力が多いな」
「その男が多数を相手取って暴れているぞ」
「周りのは大したことなさそうだな」
「まぁ、そうだな。町から出たら生きていけなそうだ」
「だな」
晶は魔眼で視ている。
ケンカをしている一人、小さい人を視て魔力が多いと言っている。
イェンがケンカを見て、それを補足している。
魔力の多寡は身体強化にも繋がる事が多い。
魔力を体から出す事が出来るのは魔法使いの様な特別な者だとビクトリアから聞いている。
一流の戦士は体内の魔力を使い身体強化をするのだとも。
外に魔力が出ないので、ずっと使える便利な力らしい。
だが疲労は溜まる。
そこの兼ね合いだそうだ。
因みにイェンも猿と戦っていた時に身体強化をしていた。
猿の素早さに対抗するのに必要だったのだろう。
「ヴァイ、さっさと終わらせろ」
「遊んでる暇はないのよ」
「わーってるって!今終わらす」
「舐めやがって!」
「くそがっ!!」
「ぶっ殺す……」
小さい男、ヴァイに向かって、こんな所で時間を喰ってられないと言う声がかかる。
どうやらヴァイという男には仲間がいるらしい。
だが仲間は手を出さない。
ヴァイが強く、相手が弱いからなのか、眼中にないのかは判らない。
ヴァイと呼ばれた男の仲間は大男と若い女だ。
大男はローブを頭から被り大斧を担いでいる。
薄暗くて顔は良く見えない。
若い女は黒いローブに杖、黒いとんがり帽子も被っている。
あれだ……魔女っぽい。
帽子からこぼれる髪は銀髪で美しい光沢。
人形の様に整った顔。
何処か不自然な気がする。
大男と並んでいるせいか小さく見える魔女であった。
しかも足元には黒猫がいた……どこかで魔女とはこうあるべきってのを勉強して来たのかも知れない。
そんな姿。
晶も目で直接見ていれば、そう思ったであろう。
残念。
今は魔力の輪郭しか視れていない。
(魔女!魔女ですよ!!)
代わりにカヅキがはしゃいでいた。
見れなくて悔しそうな顔をする晶。
その顔も直ぐに治まった。
たぶんカヅキの調子がいつも通りになったと思ったのだろう。
ヴァイは腰にナイフらしき物を二本ぶら下げている。
ケンカには使っていない。
使うまでもないという事だろうか。
そのヴァイの近くに野郎どもが五人倒れている。
晶達の所にいる者も合わせると六人。
どいつもこいつも小汚い。
ヴァイを口汚く罵っている男達は残り四人。
元は十人でケンカを始めたらしい。
「あっちのお仲間はもっと強そうだな」
「あぁ……ちっこいほうの魔力は凄いな。ビクトリアも多いと思ったが上を行くぞ」
「王女様の上をか!?」
「おう。只者じゃねーぞ、ありゃ」
「俺達がケンカの相手でなくて良かったな」
「だな。町が半壊しちまう」
「そっちかよ!」
「ひひっ」
イェンもヴァイと呼ばれた男の仲間達に気が付いた。
強者は強者を知る。だろうか。
そして晶が魔力の多い者について言及する。
ビクトリア王女という近しい魔法使いを比較に出された事で、相手の凄まじさを理解するイェン。
そんな強者達を相手にしている者達に不憫な……という目を向けている。
晶は俺達が相手だったらこんなケンカじゃ済まないとイェンをからかう。
野次馬は楽しそうだ。
ヴァイが言った通り、ケンカは直ぐに終わった。
もちろんヴァイ以外にケンカをしていた者は立っていない。
圧勝である。
後ろにいた仲間とともに去っていくヴァイ。
その時に魔女が晶達を見ていた事は誰も気づかなかった。
「買い付けだから面倒事は勘弁な」
「俺からケンカを売ったりはしねーよ」
「どうだか……」
「それはさて置き、買い付けの話な」
「ん?」
「アレスから金を預かって来ただろう?」
「そりゃ買うのに金はいるからな」
「そう、それよ!」
「なにがだ?」
「タマギ島は孤立気味なんだろう?物資は不足し金も現物は少ない。かと言って外貨を稼げる手段も少ない」
(私が言った事、そのまんまじゃないですかー)
(ワシにはよく解らんかったぞ)
「悔しいがその通りだ」
「買い付けに金が要るとはいえ、タマギが保有している金を国外に出してしまうのは不味い」
「良く解らんが……どうするってんだ?」
「預かって来た金を使わずに、俺達で稼いで買って帰ろう」
「稼いでって……迷宮か!?」
「ピンポーン!大正解。俺達で金も物も持って帰ろうぜ!」
「迷宮、いいなそれ!一暴れしてやろうじゃないの!」
「おうよ!」
(そこに止める人はいなかったー)
(気持ちは解るぞ)
(こっちにもいなかったー)
晶は迷宮で稼ごうと提案。
イェンも暴れたかったのか即、賛成。
カヅキが嘆いている。
タケマツも体があれば先頭を切って走り出しそう。
委員長は大変。
「タマギ王国の事は隠さなくてもいいらしいが隠しておいた方が良くないか?」
「ふむ。まぁ、アキラはトラブルと無縁とはいかないだろうからな」
「ぐぬぬ」
「なら冒険者ギルドで登録していくか」
「おう。アミで登録しそこねたからな」
「あー、あれはわざとだ」
「なにぃ!?」
「タマギ王国にアキラ、いや異世界人がいると万が一にも知られたくなかった。冒険者ギルドもどこまで信用出来るか判らない」
「そ、そうなのか」
「まぁ、アレス王子達の判断だ」
「なら仕方ないか。俺より詳しいだろうしな」
「そういう事」
そして冒険者ギルド、コド支部へ向かう晶とイェンであった。
▼
「ようこそ!本日は……冒険者登録ですか?」
「おー!当たり」
「そうだ。頼む」
「お二人ともですね?」
「「おう」」
「少々お待ちを」
冒険者ギルド、コド支部は町の外れにあった。
迷宮の入口のすぐ近くに作られたせいらしい。
実際、イェンは迷宮の入口を見ていた。
両脇に小屋が立てられ、衛兵らしき者達もいた。
迷宮の入口は薄暗く、ただの洞窟の様に見えていた。
冒険者ギルド内は昼前という時間のせいか人は疎らだった。
勤勉な者達は朝一で動くのだろう。
ギルドの受付嬢は晶達を見て初めて見る顔だと思ったのだろう。
冒険者登録かと聞いて来た。
その通りだったので話を進めた。
「お一人様、銀貨一枚です」
「ほれ」
「ありがとうございます。では、お名前をお聞かせください」
「俺からでいい?」
「いいぞ」
受付嬢に登録料を要求された。
銀貨一枚……一万円くらい。
イェンが銀貨二枚を払った。
次に名前を聞かれ、晶がイェンに聞いた。
晶から先に登録。
「アキラ」
「アキラ様っと」
「職業は何でしょうか?」
「戦士」
「戦士ですね。次はそちらの方どうぞ」
「えっ!?終わりなの?」
「はい。最初は見習いみたいな者ですからね。証明札もこの木の札です。本登録時にはちゃんと金属の板になりますよ」
「そっかぁ」
「俺はイェン、戦士だ」
「イェン様、戦士っと」
「この札は本登録時に必要となりますから大事にしてください。身分証明にもなりますからね」
「ありがと」
「わかった」
「では細かい説明に移ります――――――」
見習いからスタート。
当然か。
名前と職業のみ、しかも自己申告だけ。
適当である。
まぁ、大勢が利用するのであろうからして無理もない。
木の札から上に上がっていくにつれ情報を集められていくのだろう。
今はその他大勢の一人という訳だ。
木の札をそれぞれ受け取る。
そして受付嬢から説明を聞く晶とイェン。
「――――――。まぁ、解らない事はその都度お聞きください」
「おー」
「解った」
「頑張ってくださいねー」
「ありがとー!」
クエストの受注方法や、採取、素材の納品、いくつもの話を聞いていた。
晶は適当に聞き流していた。
経験者であるタケマツから聞いていたのと、タケマツ、カヅキが細かく聞いていてくれたであろうことを解っているからだ。
昔とは違う所もあるかも知れないからね。
イェンは晶よりは真面目に聞いていた。
ちゃんと理解しきったかは判らない。
「おいおい小僧共かよ!」
「ここに来るには早いぞ」
「ぎゃははっ!」
受付から離れようとした時にギルド内に声が響き渡った。
笑い声も。
その声は晶達に向けられている。
(キターッ!)
(本当に来ましたね、アキラさん。驚きです)
(はてさて、どちらかのぅ……)
騒がしくなったギルド内。
周囲が、ざわざわっとしている。
そんなのはなんのその、晶は内心喜んでいた。
テンプレらしい。
その事を先に聞いていたカヅキも感心している。
タケマツも、この手の事を知っていた様だ。
落ち着いたものである。
タケマツが言うどちらとは、どれとどれの事だろう……。
晶の隣でイェンが頭を押さえている。
トラブルと無縁、そうはいかなかった。
さっそくかよ、といった感じであろう。
嬉しそうな晶とため息を吐きそうなイェン。
対照的であった。




