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第2話 村人ですが、時間の使い方を考えてみました


時間を止めることができた。


その事実は、翌朝になっても変わらなかった。


俺は目を覚ますと、真っ先に机の上の砂時計を見た。


昨夜、時間を止めることに成功した。


あれは夢ではない。


ならば、もう一度できるはずだ。


俺は砂時計に手をかざした。


止まれ。


……。


何も起きない。


「ん?」


もう一度。


止まれ。


やはり何も起きない。


どうやら、昨日のように簡単にはいかないらしい。


俺は椅子に座り、腕を組んだ。


そもそも、昨日はどうやって時間を止めたのだろう。


時間の進み方について考え、対象に意識を集中した。


それだけだったはずだ。


しかし、意識するだけで時間を操作できるなら、今もできるはずだ。


何かが足りない。


あるいは、何かを間違えている。


俺は砂時計をひっくり返した。


砂が落ちていく。


その様子を眺めながら、昨日の感覚を思い出そうとした。


時間を止める。


時間の進み方を変える。


そもそも、俺は何を止めたのだろう。


砂の落下か。


空気の動きか。


世界そのものか。


昨日は、世界全体が止まったように見えた。


しかし、俺自身は動いていた。


ということは、俺だけが時間の流れから外れていたのだろうか。


それとも、俺の時間だけが別の速度で進んでいたのか。


「……試すしかないか」


     *


昼前、俺は村の広場へ向かった。


まずは簡単な実験から始めよう。


広場では、子供たちが木の棒を振り回して遊んでいた。


そのうちの一人が棒を落とした。


俺はその動きを見て、ふと思いついた。


落下する物体の時間を遅くできれば、落ちる速度も遅くなるのではないか。


俺は近くに落ちていた小石を拾った。


上に投げる。


小石が落ちてくる。


その瞬間、意識を集中した。


遅くなれ。


小石の動きが、わずかに緩やかになった。


「おお……!」


成功だ。


今度は、完全に止めるのではなく、時間の進み方を遅くできた。


俺は何度か試した。


強く意識すれば、動きは遅くなる。


意識を弱めれば、元の速さに戻る。


なるほど。


時間を止めることと、時間を遅くすることは、同じ仕組みの延長にあるらしい。


俺は夢中になって小石を投げ続けた。


「何やってるの?」


振り返ると、リーナがいた。


「実験だ」


「また?」


「まただ」


「今度は何?」


「時間の進み方を遅くしている」


「……石で?」


「そうだ」


リーナは小石を一つ拾った。


「じゃあ、これも遅くできるの?」


「できると思う」


「じゃあ、やってみて」


彼女が小石を放り投げた。


俺は集中する。


小石が落ちる。


遅くなる。


「わっ、本当に遅くなった!」


リーナは目を丸くした。


「すごいじゃない!」


「だろう?」


「でも、何の役に立つの?」


「それは……」


俺は言葉に詰まった。


確かに、今のところ小石をゆっくり落とせるだけだ。


「これから考える」


「ふふっ。あなたらしいね」


リーナは笑った。


「そういえば、薬草師のところに行くんだった。あなたも来る?」


「薬草師?」


「ミレイアよ。薬草のことで聞きたいことがあるんだって」


「俺も行っていいのか?」


「いいんじゃない? 変なことを聞かなければね」


「努力する」


「努力じゃなくて、ちゃんと我慢してよ」


     *


村の外れに、小さな薬草店があった。


建物の周囲には木箱や鉢が並び、乾燥させた薬草が軒先に吊るされている。


扉を開けると、独特の香りが鼻をくすぐった。


「こんにちは」


リーナが声をかける。


奥から、一人の女性が出てきた。


「いらっしゃい。リーナ、待っていたわ」


彼女がミレイアだ。


落ち着いた雰囲気の女性で、長い髪を後ろでまとめている。


手には薬草の束を持っていた。


「こちらが、この前話した幼馴染」


「こんにちは」


「こんにちは。ミレイアです」


軽く挨拶を交わす。


リーナが用件を説明している間、俺は店内を見回していた。


棚には瓶が並び、乾燥した葉や根が分類されている。


その中に、少し気になるものがあった。


「これは?」


俺が手に取ったのは、黒ずんだ葉だった。


「それは保存に失敗した薬草よ」


ミレイアが答える。


「失敗?」


「乾燥させる前に傷んでしまったの。薬効が落ちているから、もう使えないわ」


「時間が経つと傷むのか」


「ええ。植物は採取した後も変化し続けるから」


俺は葉を見つめた。


時間が経つことで物が変化する。


昨日から考えていた問題だ。


「例えば、この葉の時間を止めたら、傷むのも止まるのかな」


ミレイアは少し驚いた顔をした。


「時間を止める?」


「そう。採取した瞬間の状態を保てるんじゃないかと思って」


「面白い考えね。でも、どうやって?」


「それを考えているところだ」


ミレイアは葉を受け取り、興味深そうに眺めた。


「もし本当にできるなら、薬草師にとっては夢のような話ね」


「そうなのか?」


「薬草は鮮度が大切なの。採取した場所から運ぶ間にも傷むし、保存にも限界がある。時間の経過を止められるなら、今まで捨てていた薬草も使えるかもしれない」


俺は彼女の言葉に興味を持った。


時間を操作することには、戦い以外にも使い道がある。


食料の保存、薬草の保存、道具の劣化防止。


考えればいくらでも応用できそうだ。


「ねえ、あなた」


ミレイアがこちらを見た。


「本当に時間について研究しているの?」


「ああ」


「どうして?」


「知りたいからだ」


「それだけ?」


「それだけだ」


彼女は少し笑った。


「変わった人ね」


「よく言われる」


リーナが横から口を挟んだ。


「本当に変わってるんだから。昨日なんて、時間を止めるとか言ってたんだよ」


「リーナ、それは……」


俺は彼女を見た。


「言ったのか?」


「だって、本当のことでしょ?」


ミレイアは目を輝かせた。


「時間を止める?」


「いや、まだ実験中だ」


「もし成功したら、ぜひ見せてほしいわ」


「もちろん」


そのとき、俺は一つのことを思いついた。


時間を止める能力が本当にあるのなら、物体の状態を保存できるかもしれない。


それを確かめるには、薬草のように変化しやすいものがちょうどいい。


「ミレイア、その葉を一枚もらえないか?」


「実験に使うの?」


「ああ」


「いいわ。どうなるか楽しみね」


     *


薬草店を出た後、俺たちは広場へ戻った。


リーナは途中で別れ、俺はミレイアからもらった葉を持ち帰った。


机の上に葉を置く。


まず、時間を止める。


昨日と同じように意識を集中する。


止まれ。


葉の周囲が静かになった。


成功した。


しかし、これだけでは分からない。


俺は時間を動かした。


そして、葉を観察する。


見た目に変化はない。


当然だ。


短時間では傷みようがない。


俺は葉を瓶に入れ、しばらく様子を見ることにした。


その間にも、考えることは山ほどある。


時間を止める対象はどこまで広げられるのか。


複数の物体を同時に止められるのか。


止めている間、自分の時間はどうなっているのか。


そして、時間を戻すことはできるのか。


俺は椅子に座り、紙に書き出した。


一つずつ確かめていこう。


焦る必要はない。


時間なら、いくらでもあるのだから。


……いや。


時間を操れるようになったのなら、その考え方も変わるのかもしれない。


俺は少し笑った。


どうやら、退屈する暇はなさそうだ。

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